短編 | 100円の価値。
遊びに出掛けたものの、灼熱の太陽のもと、30円しかない。太郎は家に帰った。
「あら、お帰り。早かったわね。」
「お母さん、喉が渇いた。」
「ジュースでも飲む?」
母が冷蔵庫を開けた。
「太郎、ごめん。ジュースがなかった。お金渡すから何か好きなもの買っておいで」
「30円持ってるから、100円だけもらえるかな?」
「えっ、100円でいいの?」
「大丈夫だから」
太郎は母から渡された100円玉と所持金の30円を持って自販機に向かった。太郎が好んで飲むジュースは110円。130円あれば十分だ。
10円を投入して、続いて100円を投入したときだった。汗にまみれた太郎の指先から無情にも100円玉が落ちた。
「あっ!」
100円玉は、コロコロと転がっていった。あわてて追いかけたが、側溝の板の隙間から落ちてしまった。
側溝の板を外そうとしたが、太郎の力ではビクともしなかった。
太郎は一度家に帰り、物置からバールを持ち出した。
「てこの原理を使えば、地球さえ動かせるって先生が言ってたんもんな」
現場にもどった。側溝の隙間にバールをさしこんた。だが、てこの原理を使おうとしたが、バールはひん曲がるだけだった。コンクリートの板はビクともしない。
「どうした?太郎くん」
「100円玉を落としてしまって…」
「かわいそうに。ちょっと待ってて!」
しばらくして、近所の佐藤さんが、愛車の小型トラクターで駆けつけてくれた。
「太郎くん、オレに任せろ。牽引ロープで引っ張ればイチコロだ!」
佐藤さんは、ガバッとロープをかけ、エンジンをけたたましく吹かした。しかし、ズボボボ!と凄まじい音と共にトラクターのタイヤが空転した。あげくの果てにバンパーがバキッと取れて吹っ飛んでしまった。
「ありゃ、コイツはなかなか手強いな。太郎くん、あきらめるな。助っ人を連れてくるから」
しばらくして、騒ぎを聞きつけた建設会社の田中さんがやってきた。
「男のプライドが許さん」
工事現場から10トンフォークリフトと油圧ショベルカーを緊急投入した。警察に許可をとり、道路を封鎖した。そして、フォークの爪を側溝板の隙間にねじ込んで強引に持ち上げようとした。
「あがらねえ! なんだこの板は! 地球と合体してんのか!?負けてたまるか!」
だが、フォークリフトのアームが悲鳴を上げ、油圧ショベルのバケットが重圧に耐えかねて真っ二つに折れてしまった。
「こうなったら破壊してやる!」
興奮した田中社長は、大型の油圧クラッシャーを召喚した。
ガラガラガラ! ドカーン!
破壊音が響き渡り、粉じんが舞った。アスファルトごと側溝板を粉砕し、ようやく深さ10メートルの暗渠が露わになった。周辺の道路はまるで隕石でも落ちたかのような大きな穴が空いた。
「よし、ここからが正念場だ。慎重にいくぞ。梯子もってこい!」
田中社長の精鋭社員がかけつけた。
しばらくして、「と、取れました!」という歓喜の声が暗渠から響いた。
「しかし、ずいぶん手間取ってしまったな。とりあえず、精算の準備を!」
田中社長から手渡された紙を見た太郎と、駆けつけたお母さんは絶句した。
「500,000,000円」
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、、、、。
「五億円ですか!!ご、五億円なんて払えるわけないでしょ!?」
「いえ、それがですね。同じ場所から、五億円相当の金貨が見つかりましてね。ご請求額の五億円と相殺できそうなんです」
「そ、そうなんですね。助かったわ〜!」
「あ、それとですね、暗渠の底に太郎くんの100円玉もありましたよ!」
社長が太郎に手渡したのは、紛れもなく太郎が落とした100円玉だった。
「よかったな、太郎くん!おじさんたちも頑張った甲斐があったよ」
壊れた重機と半壊した道路を背に、田中社長たちが爽やかに去っていった。
そのあと、太郎は何事もなかったかのように、目の前の自販機に拾い上げた100円玉を投入した。すでに入っていた10円玉とあわせて、ガタコンと冷えたジュースが落ちてきた。
「ぷはぁ〜っ! やっぱりこのジュースはうまいや!」
太郎は歓喜した。

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