アンサンブル・マスクによるバッハ、テレマン、アルビノーニ作品集
今晩は、7月4日にリリースされたオリヴィエ・フォルタンの指揮とチェンバロ、アンサンブル・マスクによるバッハ、テレマン、アルビノーニの作品集を聴きます。
プログラムは
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 BWV 1041
アルビノーニ:5声のためのシンフォニア ト長調 作品2-1
テレマン:ヴィオラ協奏曲 ト長調 TWV 51:G9
アルビノーニ:5声のためのシンフォニア ト短調 作品2-6
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲 ホ長調 BWV 1042
演奏者は
ソフィー・ジェント ヴァイオリン
キャスリーン・カジオカ ヴィオラ
アンサンブル・マスク
ルイ・クレアック & ポール・モンテイロ ヴァイオリン
ファニー・パクー ヴィオラ
メリザンド・コリヴォー チェロ
ブノワ・ヴァンデン・ベムデン コントラバス
オリヴィエ・フォルタン チェンバロ&指揮
アンサンブル・マスクはチェンバロ奏者のオリヴィエ・フォルタンを芸術監督に、主にカナダとフランスを中心に活動しているバロックアンサンブル。「マスク」とは17世紀から18世紀に英国で流行した仮面劇のことで、多様で自由な表現を象徴しているとのこと。メンバーは全員ソリストとしても活躍できるくらいの実力者で構成されています。すでにアルファ・レーベルから多くのアルバムをリリースしています。
オリヴィエ・フォルタンは私のブログで紹介した複数のチェンバロ協奏曲集にも参加している一流のチェンバリスト。
ソリストのソフィー・ジェントはオーストラリア出身のバロック・ヴァイオリン奏者。アンサンブル・マスクのコンミスのほか、私が最近聴いたのでは、ラファエル・ピジョン指揮ピグマリオンのロ短調ミサでもコンミスを務めています。
まずはバッハのヴァイオリン協奏曲イ短調BWV 1041。一聴して素晴らしい録音!アルファ・レーベルのどこまでもクリアで透き通った録音。そしてヴァイオリンの音はそれでいながら決して硬くない。ありがちな録音はクリアなんだけど弦の音が刺さるような録音になりがちですが、ガット弦の柔らかさをクリアに捉えています。ジェントのソロは真ん中に位置し、周りを少人数のアンサンブルが取り囲みます。チェンバロは控えめ。通奏低音はチェロとコントラバスで小編成ながら厚みがあります。
ジェントのヴァイオリンはノンヴィヴラートのまっすぐな音で、完璧な音程。よくある古楽のバロックアンサンブルのように躍動感があるのですが、ただそれだけではなく、時にインテンポの中でニュアンスをつけながらの演奏、そしてフレーズの切れ目には微妙にテンポを変化させ楽曲の構成を際立たせています。ソロはもちろん上手いのだけど、周りのアンサンブル・マスクが素晴らしい。完璧なアンサンブルと見事なイントネーション。
アルビノーニの5声のためのシンフォニアをこのアルバムに加えたのは、バッハとテレマンともにイタリアのバロックから強く影響を受けていることを考えて入れたとのこと。1700年にヴェネツィアで出版され、通奏低音付きの5声部(ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、バス)で構成されていて、各声部が協奏曲的側面と室内楽的な親密さを併せ持った作品。アンサンブル・マスクのように全員がソリスト級の腕前を持つ合奏団ならではの演奏が楽しめます。特に5声のバランスやそれぞれの奏者が織りなす即興的なアーティキュレーションが素晴らしい。次々の代わりばんこに出てくるソロは合奏協奏曲を予感させますね。
テレマンのヴィオラ協奏曲は、この時代には滅多にないヴィオラを中心に添えた作品。数少ない貴重なレパートリーとあってこの曲は数多くの録音がありますし、私が一緒にやっていた合奏団でも演奏されたことがありますので、ヴィオラをやっている方にとっては非常にメジャーな作品でしょう。
作品としてはフランス的な序奏とイタリア的なヴィルトゥオーゾ性のある協奏曲的ものに、ドイツ的な構築性が備わった、いかにもテレマンらしい作品。
ヴィオラ独奏のキャスリーン・カジオカはカナダ出身で、現代ヴィオラにも造詣が深い多才な音楽家で、音楽ジャーナリストやラジオ・パーソナリティとしても活動しているとのこと。名前の通り日系の方のようです。
ここでのソロは、HIPのスタイルでノン・ヴィヴラートで、深く柔らかく、それでいてソリストらしくよく通る音色で聞かせてくれます。バックも各パート1名なので、ちょっと室内楽的な雰囲気でヴァイオリンとの対話が際立ちます。バロック・ヴィオラの独奏ってあまり聴いたことがないので貴重ですね。ヴィオラの甘く深い音色と共にノンヴィヴラートで語りかけるようなフレージングがとてもいい。速い楽章では、ただただリズミックに進むのではなく、カデンツの変わり目でグッとテンポを落としたり間を取ったり、変化をつけています。ソロもかなり自由なテンポで、インテンポで進みがちなバロックのアプローチとしてとても面白い。
このヴィオラ協奏曲を挟んで再びアルビノーニの5声のシンフォニア ト短調 作品2-6、そして再びバッハのコンチェルトが演奏されるので、ヴィオラ協奏曲を中心としたシンメトリーな構成。
アルビノーニのト短調の曲は、前半のト長調とは違って、この作曲家の別な影の面を聴かせてくれます。憂に満ちた第1楽章のアダージョは主にヴァイオリンが中心となりますが、これもジェントの独奏でしょう、まっすぐな音がよく通って気持ちが良い。第2楽章はフーガ風で2本のヴァイオリンが絡み合いながら進みます。第3楽章は長調になり穏やかな各楽器の対話が美しい。終楽章はプレストですが、柔らかな優雅な響きで進み、しっとりと終わります。
最後のバッハのホ長調の名作ヴァイオリン協奏曲、これはもう言わずもがなの素晴らしい演奏。HIPらしい短く区切った最初の音形が特徴的。決して勢いだけで演奏するのではなく、柔らかい独奏と小編成のバックが溶け合ってホ長調らしいソフトなイメージ。ジェントのソロは独奏!って感じではなく、まるで合奏団の一員のように控えめな音色で全体のアンサンブルと溶け合っていますね。穏やかなバッハ。
アルファ・レーベルの素晴らしい録音とアンサンブル・マスクのハイレベルな各人のソロが見事に融和し、バランスの取れたプログラミングでとても楽しめたアルバムでありました。
2023年7月、フレッス(フランス)にて録音
アリーヌ・ブロンディオ(録音プロデューサー、編集&マスタリング)
ディディエ・マルタン(ディレクター)
ルイーズ・ビュレル(プロダクション)
マキシム・セニクール(編集コーディネーター)
ALPHA 1140
