5億3,235万円は、誰に届くのか――兵庫県「不登校児童生徒支援員」全校配置を予算書から読む
「不登校対策に5億円」と聞いても、それだけでは何が変わるのか分かりにくい。
兵庫県の令和8年度当初予算「主要施策」に掲載されているのは、不登校児童生徒支援員の配置を支える事業だ。同資料の県予算掲載額は5億3,235万円。中学校では従来から進めてきた全校配置を継続し、小学校では「2校に1人」だった支援を全校配置へ拡充するとしている。
このお金は、子どもや保護者の口座に直接振り込まれるものではない。県が市町に補助を出し、学校で子どもに関わる人を配置するためのお金だ。
だから予算書を読むときは、「5億円を使うのか」ではなく、この5億円が、どの学校の、どの子どもに、どんな時間として届くのかを見なければならない。図1:県予算の財源内訳と、補助対象経費の負担割合は別の数字。出典:兵庫県「令和8年度当初予算 主要施策」33ページ。確認日:2026年9月5日。別の県概要にある5.6億円との集計関係は未確認。詳しくは本文後半で説明する。

何に使う予算なのか
兵庫県の資料によると、この事業は校内サポートルームなどで、不登校の児童生徒を支える体制を整えるものだ。
配置の想定は、原則として小中学校に各校1人。同資料の配置想定は週20時間で、教員免許は不問とされる。ただし、各市町の募集資格や実際の勤務条件は個別に確認する必要がある。地域の人材を登用する想定だという。
ここで大事なのは、県が直接すべての学校に人を雇うわけではない点だ。同じ県の主要施策資料では、国・県・市がそれぞれ3分の1を負担し、県が市町に補助する仕組みとして説明されている。県の予算がついても、市町が実際に採用し、学校の中でどう役割を置くかによって、子どもに届く支援の姿は変わる。
同じ「全校配置」でも、毎日サポートルームにいるのか、限られた曜日だけ相談を受けるのか。担任やスクールカウンセラーと情報を共有できるのか。そこまで見なければ、予算の効果は判断できない。
届くのは「不登校の子」だけではない
直接の対象は、不登校状態にある、または学校に行きづらさを抱える子どもだろう。ただ、支援員の配置は担任や養護教諭など、学校側の負担にも関わる。
教員が一人で抱え込みやすい状況で、別の大人が子どもの居場所づくりや見守りに関われるなら、相談の入口が一つ増える。そのことは、本人だけでなく、保護者や学級全体にも影響する。
一方で、支援員を置けば不登校が直ちに解消する、と考えるのも違う。不登校の背景は、いじめ、学習のつまずき、心身の不調、家庭環境、人間関係など一人ひとり異なる。支援員は万能な解決策ではなく、学校の中に「担任以外にもつながれる大人」を増やすための土台と見るべきだ。
予算があっても、まだ分からないこと
この予算で確認したいのは、少なくとも次の4点である。
市町ごとに、実際に何人を配置できたのか
週20時間を、どの曜日・どの場所で使うのか
支援を受けた子どもや保護者が、相談先につながれたのか
出席日数だけでは測れない「安心して過ごせる時間」が増えたのか
予算書は、行政が何を課題と見て、お金をどこへ向けたかを示す。だが、予算が成立した時点では成果までは分からない。
小学校での全校配置を掲げた今回の予算は、少なくとも「不登校の増加傾向に対し、学校内の支援体制を広げる」という判断を形にしたものだ。次に必要なのは、各市町と各学校で、その人が本当に子どものそばにいる時間へ変わったかを追うことだろう。
予算は数字で終わらない。学校の中で、困ったときに話せる大人が一人増えるかどうか。その地点までたどって初めて、「誰に届く予算か」が見えてくる。
資料を比べて分かったこと――金額と負担割合には、出典を添える
2026年9月5日、県の公開資料を確認し直した。この記事の「5億3,235万円」は、県の当初予算「主要施策」33ページに掲載された532,350千円を円に直した額である。財源欄は国庫266,000千円、一般財源266,350千円。国庫分を含む県予算の掲載額なので、全額が県の一般財源という意味ではない。
同じページは、負担割合を国・県・市の各3分の1、補助を3分の2としている。これを「5億3,235万円を国・県・市町が単純に三等分する」と読むと、予算の財源内訳と補助対象経費の負担割合を取り違える。市町側の予算と対象経費を合わせずに、事業全体の総費用を逆算することも避けたい。県「主要施策」33ページ
一方、1月19日の県・市町懇話会資料には、県と市町が2分の1ずつと記載されていた。既存記事の「各3分の1」は、後の当初予算資料と整合するため維持する。資料間の表記変更は確認できるが、変更の経緯や個別の補助条件まで確認できたわけではない。1月19日資料・掲載6ページ、会議開催日と資料一覧
もう一つ、県の若者・Z世代応援パッケージの概要には「5.6億円」との表記がある。この数字と主要施策の5億3,235万円の集計関係は、今回確認した資料だけでは特定できなかった。どちらかを誤りと決めつけず、本稿の金額は「主要施策33ページの掲載額」として扱う。実際の支出額を示す数字でもない。県のパッケージ概要
市の資料にも「全校配置」は現れる。ただし、実績とは区別する
伊丹市の2026年度施政方針は、市立小・中学校全校で、不登校対策支援員の配置を週20時間に拡充する方針を示している。県の支援方針が、市の施策にも位置づけられていることが分かる。ただし、2月25日の施政方針から、9月時点の採用人数や各校の稼働時間までは確認できない。伊丹市・2026年度施政方針
西脇市の4月1日更新ページは、全中学校と小学校4校での配置・校内サポートルームの設置を説明したうえで、2026年度から全小・中学校へ広げる方針を示している。「設置している」という説明と、「進める」という方針が同じページにある。これをまとめて「全校で配置が完了した」とは読めない。西脇市・不登校支援
逆に、今回の調査で最新の実績表が見つからなかったことを、未配置や事業の失敗の証拠にすることもできない。両市の事例を、県内全市町の状況に広げて評価することもしない。
成果を見るときは、出席日数の手前にある変化も見る
1月の県資料は、支援員配置が子どもへの支援や担任の負担軽減につながっていると説明している。支援を拡充する側の評価として、押さえておきたい。一方、この資料だけで配置と改善の因果関係が証明されたとはいえない。
西脇市も、学校へ行くことだけを目標にせず、子どものペースや将来の自立を重視する考え方を示している。だから検証では、出席日数に加え、相談できる相手ができたか、安心して過ごせる場所や学び方の選択肢が増えたかを見たい。これらは本稿が提案する確認の視点であり、測定済みの成果ではない。図2:予算から支援の実態までを確認する5段階。県資料と西脇市の支援方針を踏まえた編集部整理。確認日:2026年9月5日。図は検証手順であり、いずれかの自治体の実績を示すものではない。

本稿の結論は、全校配置を目指す支援の拡充を評価しつつ、採用・稼働・支援への接続を分けて確かめる、ということだ。予算額の大きさだけで成功とも失敗とも決めない。子どもと保護者が必要なときにつながれる体制になっているかを追いたい。
相談先を探している場合は、在籍校や自治体の教育相談窓口で、利用できる場所・時間・担当者を確認してほしい。西脇市のページには学校以外の相談窓口や学びの場も掲載されている。地域によって利用条件は異なるため、この記事の予算説明を利用条件の案内に代えることはできない。
出典
兵庫県「令和8年度当初予算 主要施策」(「不登校児童生徒支援員配置補助事業」の事業費、配置、負担割合、勤務時間)
補強で追加した資料:
県「主要施策」・現行の掲載先(33ページ。原記事の出典リンクも上に保持)
1月19日説明資料(掲載6ページ)
あわせて読みたい
地方自治体の「説明責任」とは|会見より先に見るべき資料と時系列
予算額だけで終わらせず、行政の判断と実施をどう確かめるかを整理しています。県立病院の医療機器更新を1年延ばしても「支障なし」と言えるのか
兵庫県の予算を、現場への影響まで追って読むもう一つの事例です。
▼あわせて読む
・地方自治体の「説明責任」とは|会見より先に見るべき資料と時系列
https://note.com/poliplus/n/n9bcad2cc4b98
・県立病院の医療機器更新を1年延ばしても「支障なし」と言えるのか
https://note.com/poliplus/n/n0194d046ef21
・兵庫県政を資料で読む――会見より先に、予算書・議事録・報告書を開くための入口
https://note.com/poliplus/n/ne032dd22802d
・神戸の夜景(かまやみひ)アカウント調査
https://note.com/poliplus/n/n8e6beb33b6ba
・辺野古転覆事故に関する記事
https://note.com/poliplus/n/nb01a0545f474
▼このテーマのまとめ
・兵庫県問題まとめ
https://note.com/poliplus/n/ndae47bad720e
▼有料マガジン
・兵庫県問題マガジン(買い切り)
https://note.com/poliplus/m/me45ecf9db449
補強制作:カネさん × ChatGPT。一次資料の事実と、編集部による評価・計算例を区別している。
ここまでに、主な事実、行政の説明、資料の相違、結論、図解、相談先へのリンクを掲載した。以下の有料実践編では、自治体資料の比較欄、条件付き計算、記入式チェックシートを提供する。
ここから先は
資料を確かめ、事実と見解を分けて伝える活動を続けています。チップは、資料の確認、図解・字幕の制作、記事の更新などに活用します。役立ったと感じていただけたら、無理のない範囲で応援していただけるとうれしいです。
