創作短編⑥(微ホラー注意)
こんにちは、ぽんです。
久しぶりに創作短編を書きました。今回はミステリーではなくホラーテイストです。苦手な方は注意してください。というか、ホラー苦手な人は読まない方がいいと思います…。
短めですが、ホラーに抵抗ない方は読んでみてください。注意書きに注意書きを重ねているので、作風に関する苦情は受け付けられません。よろしくお願いします。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
部屋の中から、高い窓を見上げる。窓には木の板が貼られていて、外の様子を確認することはできない。手を伸ばそうとして、やめた。私には今、伸ばす手さえないのだから。
コンコン、とノックの音が響く。私は応じない。ここに連れてこられた日から、応じたことなど一度もない。
「3番さん。朝食の時間なので、いつものところに置いておきますね」
女性の声が聞こえる。名前も顔も知らないが、声だけは毎日聞いている。きっと、彼女が私たちの食事提供の係なのだろう。
コトン、という音で、食事のトレーが床に置かれたのが分かる。私はのろのろと立ち上がり、壁面に備え付けてある小窓を足でスライドさせた。トレーの端が見える。行儀良くはないが、それを足の指を使って引き寄せる。そこには太めのストローが付いた、どろどろとした液状の「食事」が乗っていた。私は正座のような体制になり、ストローに口を近づける。少し吸うと、ミネストローネのような味がした。舌触りは気持ちが悪いが、味は悪くない。
吸えるところまで吸い終えると、私はトレーを足で引き摺りながら、小窓の外へと押しやる。小窓をスライドして閉めて、ふうと一息吐く。
いつまで、この生活が続くのだろうか。
私の名前は、邑田詩織。「3番」なんかではない。「村」じゃなくて「邑」なんだねと、同級生によく言われた。一般的な家庭で生まれ、両親に愛されながら育った。父は警察官で、ちょっと頭が固いところもあるけれど、正義感の強い優しい人だった。母は保育士をしていて、穏やかで柔らかい雰囲気の、温かい人だった。一人っ子の私は、二人に大切に育てられた。誕生日は家族でお祝いをし、休日が合えば遊園地や映画館に行き、笑顔の絶えない家族だったように思う。もちろん喧嘩もするし、父や母を怒らせてしまうこともあったけれど、その度に仲直りをしてきた。
あの日は、私がついカッとなってしまった。中学3年生ということもあり、私は高校受験に向けて勉強していた。学力には自信があったが、第一志望校の倍率が高く、油断はできない状況だった。しかし、やはり勉強だけでしていると気が滅入ってしまう。私は時折、友人と電話をしながら勉強に取り組むこともあった。それが、勉強に厳しい父の気がかりとなったのだろう。些細なことで父と口論になった際、
「大体、受験生という大事な時期に、友達とおしゃべりだなんて随分と余裕があるんだな」
と吐き捨てるように言われた。私はその言い方や父の態度に腹が立ち、勢いに任せて家を飛び出してしまった。母は追って来ようとしたが、父の「放っておけ」と怒鳴る声が背後に響いた。
しばらく走って家から遠ざかると、少し冷静になってきた。なぜあんなにカッとしてしまったのか、自分でも分からない。きっと、受験という重圧とストレスで、心が疲弊していたのだろう。私は当てもなく、フラフラと歩いていた。辺りは暗くなっており、人通りもほとんどない。
ふと、足を止める。誰かに後を追われている気がした。なんだか、そんな気がしてしまったのだ。振り返る。誰もいない。気のせいか、と思いながら前に向き直ろうとしたその瞬間、頭に衝撃が走った。殴られたと気づくには遅く、痛みに悶えながら地面に倒れる。薄く目を開くと、見覚えのない男が私を見下ろしていた。
「あ…うぅ…」
声を発したくても、上手くできない。男はしゃがみ込むと、私の口に何かを押し当てた。少しずつ、意識が遠のく。ああ、私、どうなってしまうんだろう。
目を開けると、白い天井だった。どうやらベッドか何かに寝かせられているらしい。病院か…と思ったが、何か不気味な雰囲気を感じ取る。殴られた頭がひどく痛む。何とか力を入れて身体を動かそうとするが、動かない。そこで私はようやく、自分が拘束されていることに気が付いた。手足はベッドに括りつけられ、身体を起こすことすらできない。一体何が、どうなっているのだろう。
困惑していると、扉の向こうから話し声が聞こえた。誰かいるらしい。私は「助けて」と声を発しようとしたが、思いとどまる。何も状況が掴めていないこの状態で声を発するのはリスクがあるような気がしたのだ。混乱しつつも落ち着こうと思い、深呼吸をする。そして、扉の向こうの話し声に耳を傾けた。
「…ええ、そうですね。今回の彼女は指がとても綺麗で……のお嬢様にもきっとピッタリ…」
「ああ…今回で3人目だ。次はちょうど腕と手を…したかったところだ。良い人材が…て良かった」
「お嬢様の瞳は…なブルーになりましたし、…も綺麗な形になって…理想へと近づいて…」
「あの子の幸せ…なら、なんだってするさ。…は鼻も高いから、…と手だけじゃなく、鼻も…してみようと思う」
「たしかに彼女は…じゃなくて鼻も綺麗ですね。ゆっくり…していきましょう」
すべてをクリアに聞き取ることはできない。話の内容も、正直さっぱり分からない。しかし、これからとても恐ろしいことが起こるような気がしてならない。
逃げなきゃ。ここは危ない。
私は身を捩る。早く、早く逃げ出さないと。固定された手足を力の限り引き抜こうとする。しかし、なかなか抜けない。近くに何か使えそうなものはないか。私は周囲を見回す。しかし、殺風景なこの部屋には、医療器具のようなもの以外、これと言って何もない。どうしよう。どうすれば。
すると突然、扉が開かれた。私は扉に顔を向ける。そこには、白衣を着た男が立っていた。頬はこけ、瘦せ細っており、髪の毛は白髪まみれだった。ひ弱そうな印象なのに、力強い瞳は私を捕えて離さない。私はあまりの恐怖に身を固くした。ゆっくりと、男が近づいてくる。
「目が覚めてしまったか。もう一度眠らせなくては…」
小声でブツブツと何か言っている。しゃがれた声だった。
「あ…あの…わ、私…」
辛うじて声を出す。しかし、紡ぐ言葉が出てこない。
「ああ、安心してくれ。あとで麻酔をかけるから。腕と鼻を一気にやるのは難しそうだな…。まずは腕からにして…」
またブツブツと何か言っている。腕?鼻?何の話だろう。男は再度、私をギョロリと見つめると、うっすらと笑みを浮かべてこう言った。
「大丈夫、君は痛い思いなんてしない。少し眠っている間に、君の美しい腕を、私の愛する我が子にプレゼントしてあげるだけだ。私の娘は昔から外見に自信がなくてね…。少しでも役に立てればと思っているんだ。そんなところに、君が現れた。神から授けられた素晴らしい存在なんだよ。君のことは無碍にはしない。だから、安心して身を委ねるがいい」
この男の言っていることが、何一つ理解できなかった。プレゼント?神から授けられた?私は、今からどうなる?
男は注射器を手に取る。その注射器は一体?何も分からない。ただ、怖い。私は叫び声をあげた。動かしようのない手足をジタバタさせる。
「おっと、動かないでくれ。大丈夫だから。少しチクっとするだけだからね…」
注射器の針が近づく。私は喉を掻き切る勢いで叫ぶ。しかし、男は止まらない。
針が、私の腕に刺さった。
再度目を開けたころには、この部屋に移されていた。薄く目を開くと、点滴が脇に置いてある。身体を起こそうとするが、力が入らない。
力が入らないだけなら、まだ良かったのかもしれない。私は、信じられない思いで、ゆっくり視線を移す。
腕が、ない。私の腕が、どこにも。
信じられなくて、信じたくなくて、何度も瞬きをした。腕がない。何回見ても、私の両腕が、なくなっている。肩回りには包帯が巻かれ、点滴の管が繋がっている。
「う、嘘…」
人は許容できないショックを受けると、涙も出ないんだ。私、腕、なくなっちゃった。ああ、私、なんでこんなことになっちゃったんだろう。
あれから数日が経ち、点滴は必要なくなり、私は独房のようなこの場所で過ごすことになった。時計もカレンダーもなく、日の光も入らないので、私は何日経ったのか把握することができなかった。繰り返される、腕のない日々。どろどろの食事を啜り、ただ壁を見つめる日々。いつまで、私は悪夢を見続けるのだろう。
「腕と鼻を一気にやるのは難しそうだな…」という男の言葉を、時折思い出す。今ならこの言葉の意味が分かる。私は腕だけでなく、鼻も失う。そのことを思い出しては恐怖に震え、しかし腕のない私に今更何が残るのだろうと、諦めの気持ちにもなる。私の感情はぐちゃぐちゃで、それでいて心は空っぽになりそうだった。私は鼻までもを失う恐怖と戦わなければならない。
また、数日が過ぎた。いつものように壁を見つめていると、何やら嗅ぎ慣れない匂いが鼻をついた。
なんだか、焦げ臭い…?
私は足元の小窓から様子を見てみようと、床に顔を擦り付けた。その時、
「ぎゃあああああ!火事だ!」
「火元はどこ!?」
「そんなことより避難しないと!」
「待って、あいつらはどうするの?」
「放っておくしかない!どうせこの火事じゃ全員焼け死ぬよ!早く!」
バタバタと足音が聞こえる。すると、煙が少しずつ、しかし勢いを増して立ち込めてきた。
熱い、熱いよ。
私は何も出来ずに辺りを見回すことしかできない。逃げなければ。逃げる?どこへ?逃げられるの?私が?ここから?
逃げるチャンスなのかもしれない。煙は濃くなり、炎が迫ってくるのが分かる。燃え広がっていき、壁や柱が炎に包まれていく。屋根が傾くと、空が見えた。
ああ、久しぶりに、空を見たな。
私は一目散に走りだした。腕がない状態で走ったことがなく、煙を吸ってしまったため、意識も朦朧としてきた。しかし、私は走るのをやめない。煙と炎に包まれながらも、私は走る。
私はなんとか、炎と煙の渦から脱することができた。ハアハアと過呼吸のような息をする。久しぶりに日の元に出たので、目が慣れない。ゆっくりと目を慣らしていく。するとそこには、人だかりができていた。久しぶりに、ちゃんと人間を見た。私はつい嬉しくなって、口角が上がる。人だ、人がいる。人々が私に気が付いたのか、私に視線が集まる。
ああ、よかった、助けてくれるんだ。
私は一歩、また一歩と人々に歩み寄る。すると、一人の子供と目が合い、子供が大声で泣きだした。
「うわああああああ!ばけものおおおおお!」
「たっくん、だめ!見ちゃだめだよ!」
母親らしき女性が、子供を抱えて遠ざかる。子供は泣き続ける。
化け物。私のことだ。腕がなく、あらゆるところに火傷を負い、いろんな破片が突き刺さっている。私、化け物なんだ。
周囲が騒めきに包まれる。スマートフォンをこちらに向ける人、ヒソヒソと小さな声で話す人、好奇の目を向ける人、今にも泣きだしそうな人。みんなが、私を見つめている。
あ、もう、私、普通の人間じゃないんだ。私、もう、戻れないんだ。
私は膝から崩れ落ちる。逃げて疲れてしまったのではない。絶望しているのだ。これからの私の人生を想って。私はもう、普通に生きることができない。こんなボロボロで、化け物と言われて、人々から注目を浴びて。家族と食事をすることも、友達と談笑することも、恋人と楽しく過ごすことも、きっともう、できないんだ。
それならもう、いいや。
私は、残っている精一杯の力で、頭を振りかぶる。そして、地面に自らの頭を叩きつけた。ああ、痛いな。痛い。でも、これでいい。騒めきがより大きくなったのが分かる。誰かの叫び声も聞こえる。ああ、みんなのトラウマになっちゃったな。申し訳ないな。でも、仕方ないよな。
誰かが駆け寄ってくるのが、なんとなく分かった。そして、足音が私の前で止まった。残っている力で顔を上げると、そこには警察官がいた。私がこの世のものとは思えないのか、恐怖に顔を歪めながらも、正義感に溢れた表情をしている。ネームプレートには「邑田」と書いてあるのが見えた。
お父さん、久しぶりだね。バイバイ。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
以上!いかがだったでしょうか?
本当に、最後まで読んでくださってありがとうございました。こういった作風にはじめて挑戦したので、あまり上手に書けていないかもしれませんが、素人の趣味なので大目に見ていただけると助かります。今度はこてこてのミステリー書いてみたいな。
それでは。
