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sinoayakouri
掌編小説 | 世界のメタファーたる猫
僕はその薄暗いトンネルを奥へ奥へと進んでいく。出口は見えない。歩けば歩くほど、周囲の闇は濃密になっていく。そして、僕は猫と出会った。
その猫は、僕の世界の象徴だった。僕が世界と触れて、僕の中に再現された世界のメタファーだった。
僕は猫の中に、あのコをみた。まだ、ぼんやりとした写真で見たことしかないあのコ。しかし、猫の中でそのコはくっきりと存在していた。彼女はそこでは穢れを知らない純粋無垢な存在でありながら、恐ろしく冷たい存在でもあった。僕は猫の中の彼女を見ていると、胸が締め付けられる思いがした。その猫の中には、僕らが一緒に食事をする未来もあったし、彼女から連絡がぱったりと途絶え、一人取り残された僕の姿もあった。
猫は世界の可能性だ。僕はその可能性の巨大さを恐れると同時に、求めている。猫は美しさも醜さもごちゃ混ぜだ。猫は姿を常に変え続けている。
僕は彼女に恋をしているのだろうか。猫を見ながらそう思う。
「苦しみの喜びを知れ」
世界のメタファーたる猫はそういった。
「苦しみは貴様を大きくする。すなわちそれは朕が大きくなると言うことだ。もっと苦しみなさい。傷つきなさい。喜びなさい。生きなさい」
猫はそういうと大きなあくびをした。猫の形がまたみるみる変わってゆく。世界がみるみる変わってゆく。僕がみるみる変わってゆく。
