今さらながら山口敬之の性加害について その2 伊藤詩織批判の傾向と対策
性暴力事件に対する山口敬之の説明は泥酔お詫びセックスという荒唐無稽なものであった。山口敬之がそのような説明しかできなかった時点で真相は明らかなのである。性加害があったかどうかの真相を追及するなら両者の説明を聞いてどちらが正しいか判断すべきだ。しかし、山口敬之を擁護したい人達は、泥酔お詫びセックスという山口敬之の説明から目を背けている。そして、伊藤詩織の説明する性被害の話だけを詳細に検討して様々な批判を加えている。
今回伊藤詩織に対する批判を簡単にまとめてみたが、その量たるや驚くべきものである。よくもまあ、これだけ考えつくものだと。山口敬之の説明が信用できないものである以上、それらの批判に真面目に答える必要はない話ではある。しかし、一応それらの批判にも目を向けてみたい。
疑問点の検証
伊藤詩織に向けられた批判や疑問点は数多いが、検証しておく価値のある疑問点は二つだけだと思っている。一つは事件当日の朝に受診した婦人科のカルテに書かれた性行為の時間。その時間が「Black Box」で伊藤詩織が書いた時間とは違うという問題。もう一つは検察で不起訴とされ検察審査会でも不起訴相当となっていることである。この二つは簡単に検討しておく。
カルテの問題は裁判でも言われたように信憑性がないという話で終わりだろう。コンドームが破けたという存在しない話が書かれている以上、そこに書かれた時間だけが信用できるはずがない。何故そうなったのかはわからないが、性被害直後で混乱している伊藤詩織が上の空で問診に答えたというところではないだろうか。
もう一つの検察や検察審査会で不起訴になっているという問題。これは少々厄介というか、それこそが以前に指摘した権力犯罪に関わる部分であり、この事件の核心部分なのだ。本来なら逮捕・起訴されるべきだった山口敬之が逮捕も起訴もされなかったというところが問題なのだ。そこで山口敬之が起訴されていないから問題ないと言うのはある種の循環論法であり、権力犯罪の否定にはなり得ないのだ。警察や検察が正しいということを証明するためには、客観的に山口敬之が性加害していないということを示さなければいけない。
検察の問題に絡んで一つ指摘しておきたいのは、山口敬之は書類送検されて不起訴が決まる前に安倍晋三の伝記を出版しているということである。安倍晋三は国会答弁で山口敬之が性加害の被疑者であることは知らなかったと答えているが、そんなことがありうるだろうか。山口敬之は自分が刑事事件の被疑者であることを隠して安倍晋三の伝記を書いたことになる。もし起訴されていたら安倍晋三に多大な迷惑がかかる事案である。中村格をはじめとした周辺の人物が誰も警告しなかったのだろうか。これについては、安倍晋三は事情を把握していながら出版を許可したとしか考えられない。安倍晋三には山口敬之は起訴されないという確信があったのだろう。
強姦神話からの批判
山口敬之の性加害を否定する言説は、まだまだ大量にある。それらの言説は二つのタイプに分けられる。その一つ目のタイプが下記にあるようなものである。
事件当日にTバックの下着を履いていた
飲食した「とよかつ」でハニートラップのように馴れ馴れしい態度だった
性被害時にバスルームに逃げ込んでいるがそこから助けを呼ばなかった
加害者である男のTシャツを借り、それを着て帰った
帰宅後に「シャツは洗って返します」とお礼のメールを送った
翌朝、二人で一緒にホテルで朝食を食べた
性被害時に足を痛めたはずなのにホテルを出る時にスタスタ歩いていた
ホテルから逃げ帰るのに髪をゴムで束ねる余裕があった
ホテルから出る際にはフロントがあるのに助けを呼ばなかった
逃げ帰る最中にスマホをチェックする余裕があった
被害者はまっすぐ逃げるはずなのにホテルから帰るときに曲がって歩いた
ホテルの近くに交番があるのに助けを呼ばなかった
帰宅してもすぐに性被害を通報しなかった
性被害の直後に薬物検査をしなかった
数日後に加害者に対して、いわゆる「お疲れ様メール」を送った
PTSDになっているはずなのに性被害を顔を出して公表した
TVインタビューで性被害を語っているときに笑っていた
泥酔時の性被害でPTSDのはずなのに飲み会に参加していた
これらの言説には明らかなデマもあれば、「Black Box」に書かれていたこともある。だが、その真偽は問題ではない。ここに上げた数多くの言説は「性被害者はこうあるべきなのに伊藤詩織の行動は違う。だから伊藤詩織は性被害を受けていない」というロジックで一貫している。しかし、そのロジックの前提にある性被害者はこうあるべきというステレオタイプが間違っている。だから、これらの言説に対して伊藤詩織の実際の行動がどうだったかを検証すること自体に意味がない。事件前に「とよかつ」の女将にはハニートラップに見えようが、翌朝二人で仲良く朝食を食べていようが、そんなことは性暴力の否定にはならないのだ。
このロジックの背景にあるものが、強姦神話と呼ばれる性被害者に対する誤ったステレオタイプである。私は性暴力の専門家ではないし、強姦神話について説明するのは荷が重い。私などが説明しなくても、ネットには強姦神話についての解説が多々出回っている。そのような解説を読めば、上記の言説は典型的な強姦神話による間違いだと分かるだろう。性被害の有無を検証しようとするときに、性被害者としての理想像を押し付けることがおかしいのだ。
そもそも、これだけ伊藤詩織の行動に疑問を持つ人達が、なぜ山口敬之の行動には疑問を持たないのだろうか。山口敬之の性加害はありがちな酩酊状態を利用した性加害である。薬物使用のケースも含め類似事例はいくらでもある。伊藤詩織の行動も性被害者の行動としてさほど珍しい行動とは思えない。むしろ通報も早いし賢明な行動をしている方だろう。一方、山口敬之の説明は泥酔お詫びセックスである。過去にそのような事例は聞いたことが無いし、双方が常識外れの異常な行動をしなければ起こり得ない話である。性加害事件として考えたらおかしいと言う前に、泥酔お詫びセックス事件として矛盾はないのか考えてみろという話である
検証を装おうネットリンチ
山口敬之の性加害を否定する言説のもう一つのタイプは以下のようなものである。これは前述の強姦神話より酷い。
在日朝鮮人で本名は尹詩織である
過去に自己破産しており本名は芦という中国人である
経歴が分からずネットに友人等が出てきたことがない
中学生時代に子供運賃で不正乗車して駅員に咎められても反抗的だった
卒業した学校が明らかにされていない
ニューヨークのキャバクラで働いていた
都内のキャバクラでも働いていたこともある
ニューヨークのキャバクラは不法就労だった
学歴がないのにTBSに裏口入社しようとした
生理があったのに妊娠が心配だと嘘のメールを送った
性被害公表の記者会見で共謀罪反対を訴えた
担当弁護士が立憲民主党と関わりがあった
検事の叔父などいないのに検事の叔父がいると著書に書いた
事件の夜に入ったトイレに給水タンクが無いのにそれにもたれたと書いた
事件当時家賃の高い高級マンションに住んでいた
手記出版は安倍政権打倒が目的であると述べた
キャサリン・ジェーン・フィッシャーの「涙のあとは乾く」を剽窃した
外国のTVで日本の女子高生はみな性被害にあっていると話した
望月衣塑子や青木理のような反日ジャーナリストと宴会していた
これらの話にはデマもあれば事実らしいものもある。ただ、共通しているのは山口敬之の性加害とは関係のない話ばかりであるということである。無関係の話なのに性加害の否定となるのは、伊藤詩織は信用できない人間だから性被害の話も嘘に違いないというロジックである。馬鹿げた話である。そもそも在日朝鮮人だろうが自己破産した中国人だろうが、そんな理由で性被害が否定されるとかあり得ない。
前述の強姦神話に関しては、間違っているなりにまだ性加害の否定をしようという意図は分かる。しかし、性被害と関係のない部分での伊藤詩織に対する攻撃は常軌を逸している。これは性暴力問題の検証ではなく単なるネットリンチである。執拗にプライバシーを探り、些細な言動の揚げ足取りを行い、誇張やデマもやり放題。それを性加害問題の検証の名目で行うのである。検証というより、山口敬之の性加害の問題から話をそらし、嫌がらせで告発者を黙らせてしまおうという意図を感じる。
この手のネットリンチは裁判の帰趨が見えてきてから増えたように感じている。2ちゃんねるではネットリンチをしているブログに誘導するレスが組織的に貼られていた。正直、このような内容には閉口した。第三者には反論のしようがない話ばかりなのである。私は山口敬之の性加害事件について論争したいだけで、伊藤詩織の人間性なんか知ったことではない。無関係の人間が、伊藤詩織のプライバシーや過去の言動を擁護することは難しいし、それをしたところで山口敬之の性加害に関する認識が変わるわけでもないのだ。
このネットリンチを見て思うのは、立花孝志を中心としたN国党によるネットリンチや、暇空茜と支援者による女性団体や個人の学生へのネットリンチとの類似性である。デマを交えた誹謗中傷。リンチをしている人達が持つ歪んだ正義感。執拗な被害者のプライバシーへの追及。叩く相手を巨大な闇の組織にしてしまう陰謀論。まとめ動画等で誹謗中傷がエンターテイメント化してしまう状況。そして被害者が自殺や自殺未遂に追い込まれてしまう深刻さ。この三つのネットリンチは驚くほど共通点が多い。怖い世の中である。
