【小説】脅し屋
俺の名前は馬場文彦。阿久市に住む45歳のフリーターだ。だが、俺には違う顔がある。
俺はいわゆる脅し屋だ。俺の顧客は警察。
警察共は捜査が長引けば長引くほど、誰かに罪を被せようとする。
とにかく俺は、呼ばれたら警察の制服を掴んで車に乗り込む。
そして何食わぬ顔で「取調べ室」に入って、そこに座ってるやつに罪を認めさせる。そいつが本当に罪を犯したのかどうかなんぞ関係ない。
俺はただのシステムだ。有罪も無罪も関係なく牢屋にぶちこんで金をもらう。細かい話はどうだっていいのだ。
市ごとに脅し屋は存在する。
俺は阿久市に鎮座する、『後始末請負業者』なのだ。
座っていたのはヒョロい眼鏡野郎だった。
落ち着かないのか、頭がおかしいのか、ずっとソワソワしていた。
「おう、今に楽になるぜ。」
ガナり声で言ってやったら、ビクッと体を震わせた。
こいつは簡単な仕事だな、と俺は机に拳をついた。
基本、この取り調べ室に記録員はいないし、どこからか見ている刑事もいない。これは完全な後始末であり、記録も監視もする必要がないからだ。
大切なのは絶対に前提を崩さないことだ。「お前は犯罪者だ」という姿勢を貫き通して、容疑者に希望を持たせない。
座らないことも重要だ。決して対等な立場ではない。
相手はひよこみたいなもんなのだ。なにを言っても、鳴き声にしか聞こえない。俺がほしいのはただひとつ、「私がやりました」という言質なのだから。
「お前がやったのはわかってんだよ!」
至近距離まで顔を近づける。唾と怒号を飛ばし、極限まで萎縮させる。
ヒョロメガネ──、原田は、今にも泣きそうな顔になった。
「わたしじゃないんですよ!たまたま近くにいただけなんですよ」
すう、と息を大きく吸い込む
「証拠はそろってんだ!!!テメエしかありえねぇんだよ!」
俺はシステムだ。本当の本当に、事件の内容もこいつのこともなにも知らない。だからこそ好き勝手言える。
無知とは、幸せなのだ。
鼻の穴をひくひくとさせて、怒っている風を演出する。
そのとき──、そう、一瞬だった。
原田が突然、顔をくしゃりと歪ませて、ケタケタと笑い始めた。
「ヵ..カハ..ふう..刑事さん..いや、馬場文彦さん?」
思考は完全にショートした。なぜこいつは俺の名前を知っている?俺は別にわかりやすく名札をぶら下げてはいない。いつ、どこで─?
「いつ、どこで?って顔ですね」
原田は抑えきれない笑いを無理やり抑え込んでいるようだった。顔は高揚し、今にも破裂しそうなくらい頬が膨らんでいる。
「テメエ何者だ..」
ああ!?っと檄を飛ばしても、原田の態度は変わらない。それどころか、むしろ悪化した。
「馬場さん、僕はね、あなたに会いたかったんですよ」
俺に?お前が?
「あなた、所謂脅し屋ってやつでしょう?僕も1年前までは、こんな仕事があるなんて思いませんでしたよ」
バレた。瞬間的にそう思った。俺が脅し屋であることがバレている。今すぐ退散して、刑事たちに説明するしかない──。
「馬場さん、あなた、これ何度目です?」
原田の目が少し光り、顔に広がっていた笑みが消え失せた。
思わず、俺の足は止まってしまった。
「月ノ川殺人事件。被害者の名前は浦野ミコト。これは2年前の事件ですよ。阿久市内の月ノ川下流で当時20歳だった女子大生の浦野ミコトさんが発見され、警察は犯人として大学の教授で、以前から親交があった──、片原高次を犯人として逮捕、無期懲役が決定しました。」
なんだこいつは。何を言っている?
原田の目が怒りに彩られてゆく。うってかわった口調で続けた。
「片原高次は取り調べ室で長時間詰問され、やがて罪を認めた。」
原田は俺を鋭く睨んだ。
「片原高次は私の父親だ。」
最初の原田とは明らかに雰囲気が違っていた。
原田の言っている意味が理解できず、俺の頭はさらにこねくりまわる。
「片原高次を長時間尋問した、とされている刑事を見つけ出したとき、私は驚いたね。そんな名前の刑事はどのデータベースにも存在しなかったんだからな。」
もう何を言いたいかわかった。俺は名前なんぞいちいち覚えていないが、たしかに、片原高次を脅し、牢屋にぶちこんだのは、俺なのだろう。
「そしてあんたみたいな『脅し屋』の存在を突き止めた。そして、ここ阿久市で脅し屋をやっているのはお前だけだ。」
俺は思わず机についた拳を見つめるように俯いた。そして、
「だからなんだ。そういう話は俺は知らねえよ。問題はな、お前が犯罪者だってことだ。断罪されるべきヒ..」
危ない、思わずヒヨ..
「ヒヨコ?」
原田はニヒルな笑いを浮かべ、こちらをまっすぐに見据える。
「これは独自調査なんだが。阿久市の、捜査が1年以上長引いた事件を調べてみるとどれもちょうど事件発生から13ヶ月後に犯人が捕まってるんだよ。
モトノキ商事強盗殺人事件、犯人は向かいの八百屋の店主。田原みか殺人事件、犯人はストーカーを行っていた男。そして、月ノ川殺人事件の片原高次も。この人たちは脅し屋というシステムの被害者なんだろ?」
なんなんだ。知らねえよ。事件の内容だって、知らないんだ。俺が知ってるのは..
「いや、、お前の起こした事件を隠蔽するために犠牲になった者たち、かな」
「あんたが殺した。」
そうだ、俺が殺した。モトノキ商事がなにかは知らないが、とにかく俺を見下した目で見てきやがった男は、夜中に押し入って殺して、ついでに金を盗ってやった。
田原みかは知らないが、そういう女は、むしゃくしゃしていたので、ナイフで滅多刺しにしてやった覚えがある。
そして、それをたまたま見ていた女も、川まで追いかけて、撲殺して川に捨てた。
でもなんで、なんでこいつが、犯罪者のこいつが。
「あんたが起こした事件はどれも1年以上捜査が難航した。当然だ。被害者の関係者を洗ってもあんたは出てこないんだからな。そして、あんた自身が、それを隠蔽した。無実の人間に罪を被せて」
「ちがう、ちがう。俺はただのシステムだ。殺したかったから殺したんだ。脅し屋として金をもらってるから、ただ目の前の人間を牢屋にぶちこんだだけだ。」
「無意識だと?それが許されると…」
俺はずっと疑問だった。なぜ俺は捕まらない?そして、今気付いた。違うやつが捕まったのだと。
俺の手によって。
俺はストン、と椅子に座ってしまった。頭の中で、何かが音を立てて崩れた
今ここで、刑事のところへ行くのはまずい。俺はこいつに、首を握られている。こいつがどこから湧いたのかしらないが、とにかくこいつを無力化する必要がある。そうだ。思い出せ、俺は脅し屋、そして、こいつはヒヨコ。俺なら、こいつを牢屋にぶちこんで口を封じることができる。
俺は再び立ち上がった。
「お前がやったんだ」
原田──、いや片原を睨みつける。
「お前がすべての犯人だ!」
しばし、静寂が流れた
片原コウは思わず笑った。この男はこの碁に及んで、僕にすべてを被せようとしている..
「じゃあ証拠は?」
「そんなもんどうだっていんだよ!テメエしかいねえんだ!」
「どんな事件で私は捕まったんだ?」
「関係ねえよ!お前以外考えられないんだ!!」
憤怒の表情を浮かべる馬場を見て、コウは哀れに思った。
「無知とは不幸なものだな。」
「は?」
息をすうっ、と吸い込んで言った。
「私は脅し屋だ。」
正確には、1年前に阿久市の脅し屋になった、が正しい。父の死について調べる中で、馬場文彦という脅し屋の存在を知った。そして、ある仮説を立てた。「馬場文彦は自分が殺した事実を隠すために罪を被せているのではないか?」
その仮説を抱えて、阿久市警に向かった。馬場を追い詰めるためだ。
奥の応接間に通され、刑事が現れた。
「その仮説が本当ならとんでもないことだが、それ以上に君が脅し屋の存在を知ってしまったことが問題だ。」
「問題?」
「選ぶんだ。今ここで、すべて失い、二度と人のような生活ができなくなるか、脅し屋として生きるか。」
寝耳に水だった。だが、僕の頭にあったのはたったひとつ、父を冤罪で無期懲役にした馬場を追い詰めることだった。
「馬場の脅し方は一辺倒なんだ。最近はあまりふるわない。そろそろ処分時だと思ってたんだよ。どうだ。仕事を継がないか?」
そこで、腹を決めた。
馬場もまた、無知ゆえにシステムとなった男だった。だがその猟奇性に弁護の余地はない。馬場を罰し、この脅し屋のシステムを終わらせる方法はないか?
僕はある結論に行き着いた。
馬場を脅し、牢屋に送る。そして、それが終わったと同時に全世界に公表する。幸い、脅し屋の取り調べ室は記録も監視も行われない。
馬場を追い詰め、罪を認めさせ、そして脅し屋という悪習も終わらせる。
馬場の罪は仮説でしかない。だが、そんなことは知ったことか。刑事によれば脅し屋の仕事は
何食わぬ顔で「取調べ室」に入って、そこに座ってるやつに罪を認めさせる。そいつが本当に罪を犯したのかどうかは関係ない。
有罪も無罪も関係なく牢屋にぶちこんで金をもらう
事らしい。
なら、その土俵に上がってやろうじゃないか。
馬場文彦はひどく狼狽していた。こいつが脅し屋?じゃあ、俺は用済み─?
「あんたは罪を認めるんだな?」
いつの間にか、片原は立ち上がっていた。
いつの間にか、俺は床にうずくまっていた。
「み、み、認める,,っ」
ああ、俺は、なんだったんだ?誰か教えてくれ。
俺、なにも知らないんだよ。
馬場文彦は刑事たちに連れて行かれた。彼の行く先はどこだろうか?この国では、罪を認めれば99%ゲームオーバーだ。
さて、あとは..
そのとき、刑事が近づいてきた。
「よくやった。」
刑事の手がこちらに伸びている。その手の先にはナイフが、その先には血が、その血は….僕のだ。
「悪かったな。お前がどうやって脅し屋に行き着いたのか、そのきっかけが気になってたんだが..片原高次の関係者を洗ってみたらお前がヒットしたんだ。危なかったよ。親父さんの仇をとられる所だった。」
薄れゆく意識の中、コウの目は確かに捉えていた。
粒ほどの小ささになった、連れて行かれる馬場文彦を。
同時刻。片原家では、片原高次の遺影が見つめる先に鎮座する、PCが処理を開始した。内容は、「脅し屋に関する事実」
投稿された警察への「脅迫」は、
静かに、ただ確実に閲覧数を伸ばしていった。
fin.
あとがき
文章力アップのため&純粋な趣味で書きました
こういうシチュも好きですね
でもいちばん好きなのはやっぱアクションですね
この話に関してですが、
馬場文彦は、無知は幸せだー!と言っています。
これに関しては、色々と思うことがあって作られたキャラクター像で
何も知らずに次々に芸能人や諸々を批判する不特定多数の人たちからインスピレーションを受けました。
僕としてはそういう人たちは放火魔に見えます。
真偽もわからずに色んなところに火をつけていく。
だからこそ、「無知とは不幸だな」と思うに至りました。
最後、PCから自動的に発信された真実は、果たしてどれほどの効果を生むのでしょうか?
今後は、エッセイ的なのと、短編的なのを投稿していけたらなと考えてます!
