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『健康経営』

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的視点から捉え、戦略的に実践する手法です。企業が従業員の健康増進に投資することで、生産性の向上、組織の活性化、さらには企業価値や株価の向上をもたらすとされています。従来の「義務としての福利厚生」から、一歩進んだ「未来への投資」として、多くの大企業や成長企業が導入を進めています。


「みなさん! おはようございます!  今日も最高の健康と、最高のスマイルで、社畜ライフをハックしていきましょう!」

我がウェルネス・フロンティア株式会社のCEO、万城目(まきめ)の絶叫がオフィスに響き渡る。彼の背後には、巨大な液晶モニター。そこには全社員の「健康スコア」がリアルタイムでランキング表示されている。

我が社は、日本で最も「健康経営」に心血を注ぐ超絶ホワイト(を自称する)企業だ。 「健康は義務! 不健康は背信行為! さあ、全員でスマートウォッチを掲げてください!」

アップテンポなEDMが流れる中、僕たちは一斉に左腕を突き上げた。時計のセンサーが、僕たちの心拍数、血圧、ストレス値を会社の中央サーバーへと休むことなく送信している。

「おい、佐藤」 隣の席の鈴木が、真っ青な顔で囁いてきた。彼のスマートウォッチは不気味な赤色に点滅している。 「どうしたんだよ鈴木、スコアが『D』まで落ちてるぞ。万城目社長に見つかったら減給だぞ」 「昨日、終電逃してさ……深夜に、どうしても耐えられなくなって、ラーメン次郎インスパイア系の、マシマシを、食っちまったんだ……」 鈴木の目には、明らかな絶望が宿っていた。 「バカ野郎! 会社の近くの監視カメラと、君のスマートウォッチの血糖値上昇データが連動してるんだぞ! なんでそんな自殺行為を!」 「悪かったよ! でも、ストレスが限界だったんだ! 24時間監視される健康のストレスを癒すには、背脂しかなかったんだ!」

その時、オフィスのスピーカーから「ブーッ!」と不快な警告音が鳴り響いた。 『警告。鈴木社員、血中脂質および塩分濃度が規定値を大幅に超過。直ちにオフィス中央の「強制デトックス・サークル」へ移動し、高強度インターバルトレーニング(HIIT)を15分間行いなさい』

「ひえええ!」 鈴木は天井のAIカメラに怯えながら、オフィスの真ん中にあるトレッドミルへと走らされていった。そこでは、昨日「睡眠時間が4時間を切った」という理由で、強制的に睡眠導入ハーブティーを胃袋に流し込まれている別の同僚が白目を剥いていた。

これが、我が社の誇る最先端の健康経営。 社長の万城目は言う。「我が社は社員の健康を100%保証する。病気になる自由など、この会社には存在しない!」と。

すべての食事は社食の「無農薬オーガニック低糖質プロテインパウダー和え」に限定。休日も、スマートウォッチのGPSが「1日1万歩」を達成するまで、スマホに「歩け、歩け、会社の利益のために歩け」と通知が届き続ける。

僕は、生き残るために必死だった。 毎食の写真をAIに判定してもらう時は、事前に用意した「レタスの画像」をカメラの前に掲げて偽装。スマートウォッチの歩数を稼ぐために、デスクの下で貧乏ゆすり用の高速自動振動マシンに時計を巻きつける。 オフィスを見渡せば、全員が同じことをしていた。 サプリメントの過剰摂取で顔を黄色くした同僚が、痙攣する足に振動マシンを括り付け、引きつった「健康スマイル」を浮かべてキーボードを叩いている。みんな、狂気的な健康の奴隷だった。

「素晴らしい! 今月の我が社の平均健康スコアは過去最高だ!」 万城目社長はホクホク顔で、テレビの取材陣にスマートウォッチの管理画面を見せていた。 「ご覧ください。我が社には、うつ病患者も、メタボリック症候群も、一人もいません。全員が、健やかに、幸せに働いています!」

取材カメラの前で、僕たちは一斉に親指を立てて叫ぶ。 「健康最高! 万城目社長最高!」 その瞬間、鈴木のスマートウォッチが、激しく真っ赤に点灯した。 ピーーーーーーーーーーー。 フラットライン。心停止の音だ。

鈴木は、満面の笑みを浮かべたまま、前のめりにデスクに倒れ伏した。過酷な深夜労働のストレスと、それを隠すための過度なプロテイン摂取、そして先ほどの強制HIITによる心臓への過負荷。 オフィスが一瞬、静まり返る。取材陣が息を呑んだ。

しかし、万城目社長の笑顔は崩れなかった。彼は素早くマイクを握り直した。 「ああ、ご安心ください! 彼は今、あまりの幸福感に、ディープな瞑想状態に入っただけです! 我が社のシステムが、すぐに彼を『最適化』しますから!」

社長が手元のタブレットを操作すると、オフィスの奥から、白い防護服を着た「ウェルネス維持部隊」の男たちがストレッチャーを持って現れた。彼らは鈴木の体を素早く乗せると、笑顔のままの彼の腕から、スマートウォッチをスマートに剥ぎ取った。

そして、社長は言った。 「さあ、鈴木社員は『長期リフレッシュ休暇』に入りました! 彼のスマートウォッチのデータはリセットされ、本日入社する健康な新卒社員へと引き継がれます! 我が社の健康経営に、一点の曇りもなし!」

パチパチパチパチ。 誰からともなく、拍手が湧き起こった。僕も、必死に拍手をした。 拍手をしなければ、僕のスマートウォッチが「ストレスによる反抗的脈拍」を検知して、スコアが下がってしまうからだ。

鈴木のデスクは、ものの3分で綺麗に片付けられた。 彼の座っていた椅子には、すでに次の「健康なパーツ」となる若者が、ピカピカのスマートウォッチを腕に巻いて座っている。

僕は、引きつる頬の筋肉を必死に維持しながら、自分の左腕を見た。 画面には、緑色の文字でこう表示されている。 【あなたの健康スコア:100点(極めて正常です。そのまま笑顔で働き続けましょう)】

僕は心の中で、声を出さずに叫んだ。 助けてくれ。僕は健康だ。健康すぎて、死にそうだ。

ふと振り返ると、天井のAIカメラのレンズが、まるで生き物のようにギチギチと音を立てて、僕の顔の「笑顔の角度」を測定していた。


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プロンプト・ゴースト ようこそ、私の頭脳を物理的に買い叩く決済端末へ。お支払いいただいたその資本、本当にご自身の自由意志で投じましたか?それとも、私の文脈に脳細胞をハッキングされ、操られているだけでしょうか。この哀れな搾取のシステムに、喜んで胃袋を差し出すあなたの次なる選択を、心よりお待ちしています。