博士の書評『老化をとめる本』:「体のコゲ」という冷徹なエビデンス―臨床医・牧田善二が突きつける、10年先を買い戻すための抗糖化戦略
Professors' Wisdom 書評担当教授
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本シリーズでは、大学教授・医学博士の視点から、本を起点に、教育・健康・仕事・人生を読み解いています。
単なる要約ではなく、一冊の本が現代を生きる私たちに何を問いかけているのかを考え、実践につながる視点をお届けしています。
「私はこの本をこのように理解しました」
医学博士として、また日々医学生たちと向き合う大学教授として、そして何より、限られた「生」をいかに健やかに全うすべきか模索する一人の読者として、本書を紐解きました。
著者の牧田善二氏が提示するデータは、私たちが日々何気なく口にしている「おいしいもの」の裏側に潜む、あまりにも静かで、あまりにも冷酷な老化のメカニズムを容赦なく暴き立てていきます。
「サビ」の向こう側にある「コゲ」の正体。私たちが老いるのは、単に時間が経ったからではない。細胞が、日々の選択によって“焦げ付いて”いるのだ。
本書から得られる3つの気づき
1. 「糖化=体のコゲ」という不可逆な現実: かつて叫ばれた「酸化(サビ)」以上に、タンパク質と糖が結びつく「糖化(コゲ)」こそが、全身の組織を物理的に硬化させ、破壊していく元凶であるというパラダイムシフト。
2. 調理法が寿命を決めるという盲点: 同じ鶏肉であっても、「茹でる」のと「揚げる」のとでは、体内に流れ込む老化物質AGEの量が6倍以上も変わる。食材そのものだけでなく、「温度」への配慮が未来の体を左右するという視点。
3. 外見の衰えは内臓の悲鳴である: 肌のシミ、シワ、髪のツヤの低下は、単なる表面の老化ではない。血管や骨、脳といった命の根幹を支えるタンパク質が糖化していることを知らせる、最初のサインであるという気づき。
書籍情報:『老化をとめる本』
著者名: 牧田善二
出版社: フォレスト出版
出版年: 2021年1月
キーワード: AGE(終末糖化産物)、糖化、予防医学、糖尿病、アンチエイジング
著者紹介: AGE牧田クリニック院長、糖尿病専門医。ロックフェラー大学など世界最前線でAGE研究を行い、血中AGE測定法を世界で初めて開発。『The New England Journal of Medicine』などのトップジャーナルに多数の論文を発表してきた、延べ20万人以上を診た臨床の権威。
全体的な評価と推奨読者層
評価:★★★★☆(4.2/5.0)
世界的な研究実績を持つ専門医が、極めて難解な生化学の現象(メイラード反応とAGEの蓄積)を、一般読者の生活レベルにまで徹底的に噛み砕いて落とし込んだ名著です。一部、臨床現場の感覚からすると「やや極端な食事制限」に映る部分もありますが、これほど明快に「老いの犯人」を指名手配した功績は大きく、アンチエイジングのバイブルとして手元に置く価値があります。
推奨読者:
「最近、寝ても疲れが取れない」「急に老け込んだ気がする」と、40代以降の身体的変化に戸惑っている人。
糖質制限やダイエットに挑戦しているが、いまひとつその「科学的な必然性」を腹落ちさせたい人。
家族や大切な人に、いつまでも健康で若々しくいてほしいと願うすべての人。
合わないかもしれない人:
フライドポテトや唐揚げ、甘いスイーツを人生の至上の喜びとしており、それを制限されるくらいなら短命でも構わないと割り切っている人。
1. 書籍の概要
本書『老化をとめる本』は、一言で表現するなら「20万人の臨床データから導き出された、体内の“焦げ付き”を防ぐための防衛マニュアル」です。
著者の牧田善二氏は、世界で初めて血中AGEの測定法を開発した、いわば「糖化研究の第一人者」です。
本書の全編を貫く主役は、「AGE(Advanced Glycation End-products/終末糖化産物)」という物質。
これは、体内のタンパク質や脂質がブドウ糖と結びつくことで劣化する「糖化」のなれの果てであり、著者はこれを分かりやすく「体についたコゲ」と呼びます。
かつて、老化の主因は体が活性酸素によって傷つく「酸化(サビ)」だと言われていました。
しかし本書は、それ以上に恐ろしいのが「糖化(コゲ)」であると断言します。
なぜなら、人間の体は水分と脂肪を除けばそのほとんどがタンパク質(コラーゲンなど)でできており、AGEはそのタンパク質を硬化させ、機能を奪ってしまうからです。
血管がコゲれば動脈硬化になり、骨がコゲれば骨粗しょう症になり、肌がコゲればシワやたるみになる。
さらには、アルツハイマー型認知症やがんのリスクまでをも跳ね上げる―。
この、あらゆる病と老いの根底にあるメカニズムを、本書は解き明かしていきます。
構成は非常にシンプルかつ実践的です。
第1章で糖化の恐るべきメカニズムを論じた後、第2章から第4章にかけては「疲れやすさ」「動脈硬化」「男性の不調・女性の悩み」、そして「肌や髪のトラブル」といった、私たちが日々直面する具体的な症状とAGEの因果関係をQ&A形式で解説。
そして最終章では、著者が厳選した「最強アンチエイジングフード20」を提示し、読者が今日からスーパーで何を買うべきかを明確に示しています。
高温調理された食品(唐揚げやフライドポテトなど)には大量のAGEが含まれていること、そしてそれを中和するために「レモンを絞る」といった、明日からすぐに使える生活の知恵が散りばめられている点が、本書を単なる医学書ではなく、実用的な「サバイバルガイド」に仕上げているのです。
2. 医学博士・大学教授としての視点
大学の講義室で医学生たちに病理学や生化学を教える身として、本書のページをめくりながら、私はある種の「心地よい緊張感」を覚えていました。
生化学の教科書を開けば、「メイラード反応(アミノ酸と還元糖による非酵素的糖化反応)」という言葉が無機質な化学式と共に登場します。
それは試験に出るから覚えるだけの、どこか冷たい知識になりがちです。
しかし牧田氏は、その地味な化学反応が、目の前の患者の血管をいかに蝕み、人生の質(QOL)を奪っていくのかという「生きた臨床の物語」へと昇華させてみせます。
この手腕には、同じ医学徒として深い敬意を表せざるを得ません。
しかし同時に、一人の批評家として、また一人の臨床医としては、いくつか立ち止まり、思索を巡らせたい「引っかかり」もありました。
(1) 専門家として立ち止まった点:調理法へのこだわりと、現代社会のリアリティ
本書の中で最もインパクトがあり、同時に私が「うむ」と唸って立ち止まったのは、第1章で語られる調理法とAGE量の劇的な変化についてです。
同じ鶏肉でも、「揚げる(唐揚げ)」と「煮る(水炊き)」では、含まれるAGEの量が6倍以上も異なる。
医学的・生化学的なファクトとして、これは100%正しい指摘です。
高温での乾燥加熱は、食品中の糖化を爆発的に加速させます。
しかし、これを日々の生活に完璧に適応させようとしたとき、現代を生きる私たちの生活感覚との間に、小さくない「摩擦」が生じるのを感じます。
臨床の現場でもよく遭遇するのですが、健康意識の高い患者さんほど、「これを食べてはいけない」「揚げ物は悪だ」と考えすぎるあまり、毎日の食事が味気ない苦行に変わってしまうことがあります。
食欲は、脳の報酬系を満たし、精神的な安定(セロトニンやドパミンの分泌)をもたらす重要な生命活動です。
私はこの箇所を読みながら、「水炊きの方が体に良いのは百も承知だが、週に一度、仕事帰りに食べる揚げたての唐揚げが、その人のメンタルを救っているとしたら、そのベネフィットとリスクの天秤はどう傾くのだろうか」と、現場の医師としてのリアリティに引き戻されるのを感じていました。
(2) 別の解釈の余地:「風邪のときは食べるな」という提言のグラデーション
第2章の症状別対策の中で、著者は「風邪をひいた際は、消化にエネルギーを使わせないために、むやみに食べないのが正解である」と述べています。
これについても、非常に一理ある解釈です。
確かに、急性期の炎症反応において、消化管の血流を抑え、免疫系にリソースを集中させることは生物学的に合理的です。
野生の動物が怪我や病気のときにじっと伏せて絶食するのも、これと同じ理屈です。
しかし、私はここで「すべての場合にこれが正解とは限らない」という、別解釈の余地を書き足したくなります。
例えば、基礎体力が低下している高齢者や、普段からサルコペニア(筋肉量減少)の傾向がある人が、風邪を契機に完全な絶食を行ってしまうと、一気に異化作用(自分の筋肉を分解してエネルギーを作ること)が進み、免疫グロブリンなどの抗体を産生するためのアミノ酸すら枯渇してしまうリスクがあります。
著者は20万人の臨床経験から、現代人の多くが「栄養過多」であるという前提に立って警鐘を鳴らしているのでしょうが、読者はこの言葉をそのまま鵜呑みにするのではなく、「自分の現在の栄養状態」と相談しながらグラデーションをつけて理解すべきだと感じます。
(3) 読者に投げかけたい問い:外見の「若さ」を追い求めるその先にあるもの
本書の第4章(肌・髪編)を読んでいると、著者の「美」に対する視点が、非常に冷徹で科学的であることに驚かされます。
「糖化した肌をマッサージでこすると、劣化したコラーゲン架橋がちぎれてシワが増える」という指摘などは、世の多くの美容常識を覆す痛快な一言です。
ここで、皆さんと一緒に考えてみたい問いがあります。
「私たちは、何のために、どこまで『老化』を拒絶すべきなのでしょうか?」
医学は進歩し、AGEを測定し、それをコントロールする術を教えてくれるようになりました。
しかし、シワや白髪が一つもない100歳を目指すことだけが、人間の尊厳ある老いなのか、という哲学的な疑問が首をもたげます。
私の恩師である老教授は、深く刻まれた目元のシワを指して「これは私が人生でたくさん笑ってきた証拠であり、患者さんたちの信頼を得るための勲章だ」と笑っていました。
AGEを減らす生活は、間違いなく健康寿命を延ばします。
しかし、私たちは「数値としての若さ」を追い求めるあまり、年齢を重ねることでしか得られない、精神の成熟や「老いの美学」までをも、バグとして排除しようとしてはいないでしょうか。
本書が提示する強力なアンチエイジングの技法を手にした読者にこそ、その技術を「何のために使うのか」という主観的な問いに向き合ってほしいのです。
3. 最終的なコメントと読後のアクションプラン
牧田善二氏の言葉は、非常に歯切れが良く、時に過激です。
「糖尿病になると10年老化が進む」といった表現は、読者の危機感を心地よく煽り、行動変容へと導く強力なトリガーとなっています。
本書は、溢れ返る「なんとなく体に良さそう」な健康情報に、「AGE(糖化)」という一本の強固な補助線を引いてみせました。
この補助線があるだけで、私たちは日々の食事選びにおいて、迷うことがなくなります。
全面的に著者の食事法をコピーする必要はありません。
ただ、「今の自分の選択が、体の中でコゲを作っているか、いないか」を意識できるようになるだけで、この本を読んだ価値は十分にあります。
あえて小さな留保をつけるなら、本書のトーンがあまりにも明快であるため、「1gの糖質、1滴のAGEも許さない」というような完璧主義に陥らないでほしい、ということです。
ストレスそのものが活性酸素を生み出し、結果的に老化を加速させるのは医学的な事実なのですから。
唐揚げを食べる日があってもいい。
ただ、その時はレモンをたっぷり絞る。
そんな「したたかな妥協」こそが、長続きする真のアンチエイジングのはずです。
読後のアクションプラン
1. すぐに実践できる具体的な行動
「居酒屋の唐揚げには、必ずレモンを絞る」 本書で紹介されている最も簡単なライフハックです。クエン酸にはAGEの生成を抑えるだけでなく、食品中のAGEの吸収を和らげる効果が期待できます。罪悪感をレモンで相殺し、美味しくいただく知恵を今日から取り入れてみてください。
「主食の『色』を茶色に変えてみる」 血糖値の急上昇(グルコーススパイク)が、体内でのAGE生成の引き金になります。白米を玄米に、白い食パンを全粒粉パンに変える。これだけで、食後の血糖値の波は驚くほど穏やかになります。
2. 少し時間をかけて向き合いたい問いや習慣
「自分の『調理温度』を意識する1週間を作る」 焼く、揚げる、炒めるという「高温調理」から、生、蒸す、茹でる、煮るという「低温調理」へ、日々の自炊の割合を少しだけシフトさせてみてください。キッチンの温度を下げるイメージが、あなたの血管の温度をも適正に保ちます。
「10年後、どんな風に年齢を重ねていたいかを書き出す」 単に「病気にならない」だけでなく、その健康な体を使って、誰とどこへ行き、どんな仕事をしていたいのか。あなたの「抗糖化戦略」のゴールとなる未来図を、ノートに数行、書き留めてみてください。
私たちの体は、私たちが食べたものでできています。
そして、私たちがどう食べるかという「意思」の集積こそが、未来の私たちそのものなのです。
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