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相手の話を奪ってしまうとき ~やさしいコミュニケーション連載 第八章

「それ、分かる。私も前にね――」


相手の話を聞いている途中で、つい自分の話を始めてしまったことはありませんか?

相手が悩みを話している。
相手がうれしかった出来事を話している。
相手が最近あったことを話している。

その話を聞いているうちに、自分の中にも似た経験が浮かんでくる。

「あ、それ自分にもあった」
「この話なら分かる」
「自分の経験を話せば、共感になるかもしれない」

そう思って話し始めた。

けれど、気づけば相手の話は途中で止まり、会話の中心が自分の話になっていた。

相手は笑って聞いてくれているように見える。

でも、どこか少し表情が薄い。

あとになって、

「あれ、もしかして相手の話を最後まで聞けていなかったかも」

と気づいて、少し落ち込む。

みなさんも、そんな経験はありませんか?


相手の話を自分の話に変えてしまうことは、必ずしも悪意から起こるわけではありません。

むしろ、共感したかった。
会話を盛り上げたかった。
自分も似た経験があると伝えたかった。
相手との距離を縮めたかった。

そんな気持ちから出ることもあります。

でも、相手の話を十分に受け取る前に自分の話へ移ってしまうと、相手には、

「まだ話し終わっていなかったのに」
「私の話は聞いてもらえなかったのかな」
「結局、この人は自分の話がしたかったのかな」

と感じられてしまうことがあります。


今回のテーマは、『相手の話を奪ってしまうとき』

自分を責めるためではなく、会話の流れを少しやさしく整えるために、一緒に見ていきましょう。


 シリーズを最初から読みたい人はこちらからどうぞ♪



こんなこと、ありませんか?


相手が、

「この前、初めて一人でイベントに行けたんだ」

とうれしそうに話してくれた。

その話を聞いて、自分も同じようなイベントに行ったことを思い出した。

そしてすぐに、

「すごいね。私も前に一人でイベントに行ったことがあってさ」

と話し始めた。

相手は、

「あ、うん」

と聞いてくれたけれど、相手がそのイベントで何を感じたのか、どんなところが楽しかったのかは、ほとんど聞けないままだった。


相手が、

「最近、仕事でちょっと失敗しちゃって」

と話し始めた。

それを聞いて、自分の失敗談を思い出した。

そして、

「分かる。私も前に大きなミスをしてさ」

と話し始めた。

相手は静かに聞いてくれたけれど、本当はその人も、自分の落ち込みを少し聞いてほしかったのかもしれない。


相手が、

「この前、旅行に行ってきたんだ」

と言った。

自分も同じ場所に行ったことがあったので、

「あそこいいよね。私が行ったときは――」

と、自分の旅行話を始めた。

気づけば、相手がどんな旅をしたのか、ほとんど聞けていなかった。


相手が、

「最近、少し疲れていて」

と言った。

自分も疲れていたので、

「分かる。私も最近ずっと忙しくて」

と、自分の大変さを話し始めた。


悪気はなかった。

むしろ、

「自分も似た経験があるよ」
「ひとりじゃないよ」
「あなたの気持ち、少し分かるよ」

と伝えたかった。


でも、相手の話を十分に受け取る前に自分の話へ移ってしまうと、相手には、

「私の話は、もう終わったことになったのかな」

と感じられてしまうことがあります。


こういうことは、誰にでも起こりえます。

特に、相手の話に心が動いたときほど、自分の経験も浮かびやすくなります。

だからこそ、少しだけ順番を意識することが大切です。


4コマ漫画



帆乃香のひとこと


似た経験を話したくなるのは、悪いことじゃないんだよ。

「分かるよ」
「自分にもあったよ」
「ひとりじゃないよ」

そう伝えたくなる気持ちは、相手を大切に思っているから出てくることもあるんだ。


でもね。

相手の話がまだ途中のときに自分の話を始めると、相手には、

「話を取られちゃった」

と感じられることがあるんだ。


大事なのは、自分の経験を話すかどうかではなく、順番だよ。

まず相手の気持ちを受け取る。

相手が何を言いたかったのか、少し聞いてみる。

そのあとで、自分の経験を短く添える。

そうすると、自分の話は「話題泥棒」ではなく、「経験の共有」になりやすいんだ。


大丈夫。一歩ずつで変われるよ♪



なぜ、人は相手の話を自分の話に変えてしまうのか


相手の話を奪ってしまう理由は、一つではありません。

「人の話を聞く気がないから」
「自分の話ばかりしたいから」

と決めつけてしまうと、自分を責めすぎてしまいます。

実際には、もっと複雑で、もっと人間らしい理由があることも多いのです。


1.共感のつもりで話している

一番多いのは、共感のつもりです。

相手が、

「最近、疲れていて」

と言ったときに、

「分かる。ボクも疲れていて」

と返す。

これは、

「あなたの気持ち、分かるよ」

と伝えたいのかもしれません。

似た経験を出すことで、相手との距離を縮めようとしているのです。


でも、相手の話を十分に聞く前に自分の話を始めると、共感ではなく、話題の移動になってしまいます。


共感とは、自分の似た話をすることだけではありません。

相手の気持ちに一度、目を向けることです。


2.沈黙が怖い

相手が話したあと、少し間が空くと不安になる人もいます。

「何か返さなきゃ」
「沈黙になったら気まずい」
「ちゃんと反応しなきゃ」

そう思うと、頭に浮かんだ自分の話をすぐに出してしまいます。


でも、沈黙は失敗とは限りません。

相手は言葉を選んでいるだけかもしれません。

もう少し話したいことがあるのかもしれません。

少し待つことで、相手の本音が出てくることもあります。


3.自分も分かってほしい

相手の話を聞いて、自分の中の未消化な気持ちが刺激されることもあります。

相手が仕事の大変さを話す。

自分も仕事でつらい思いをしている。

すると、

「自分の大変さも分かってほしい」

という気持ちが動きます。

その結果、相手の話を聞く前に、自分のつらさを話してしまうことがあります。


これは、相手を軽く見ているというより、自分自身も聞いてほしい気持ちがあるのかもしれません。


4.会話を盛り上げたい

相手の話題に対して、自分のエピソードを足せば盛り上がると思うこともあります。

実際に、エピソードを重ねることで会話が楽しくなることもあります。

ただし、それは相手の話が一度受け取られたあとです。

相手がまだ話したいのに、自分の話へ切り替わると、盛り上げたつもりが相手の出番を減らしてしまうことがあります。


5.会話の主導権を持っていたい

少し深いところでは、会話の主導権を手放すのが苦手な場合もあります。

自分が話していると安心する。

自分が分かる話題に持っていくと落ち着く。

相手の知らない話を聞くより、自分の得意な話をしているほうが楽。

そういう癖があると、無意識に会話を自分のほうへ引き寄せてしまいます。

ここに、マウントや比較が混ざることもあります。



「自分も」は、タイミングによって印象が変わる


「自分も」という言葉は、悪い言葉ではありません。

むしろ、相手を安心させることもあります。

相手が、

「初めての場所に行くのって緊張するんだ」

と言ったときに、

「私も緊張するよ」

と返されると、

「自分だけじゃないんだ」

とほっとする人もいます。


でも、相手がまだ話している途中で、

「自分もね」

と入ると、話を取られたように感じることがあります。


大切なのは、

相手の話を受け取ってから、自分の話を出すこと

です。


たとえば、

相手:
 
「初めての場所に行くのって緊張するんだ」

すぐ自分の話:
 
「分かる。私も前に初めての会場に行ったとき、すごく緊張してさ」

受け取ってから返す:
 
「初めての場所って緊張するよね。どんなところが一番不安?」

相手が少し話したあとで、

 「私も似たことがあって、最初の一歩がすごく怖かったよ」

と続ける。


同じ「自分も」でも、順番が変わるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。



うれしい話も、奪われると寂しくなる


相手の話を奪うというと、悩み相談の場面を想像しやすいかもしれません。

でも、実は、うれしい話でも同じことが起こります。

相手が、

「初めて一人でイベントに行けたんだ」

とうれしそうに話したとき。

そこで、

「すごいね。どうだったの?」
「行く前は緊張した?」
「行ってみて、一番楽しかったのはどこ?」

と聞いてもらえると、相手は自分の経験を大切に受け取ってもらえたように感じます。

でもすぐに、

「私も前に一人で行ったことがあってさ」

と自分の話に移ると、相手のうれしさは途中で置き去りになってしまうことがあります。


悩みだけではなく、喜びも、誰かに受け取ってもらえるとうれしいものです。

相手がうれしい話をしているときは、まずその喜びを一緒に味わってみましょう。

「それはうれしいね」
「よく行けたね」
「そのとき、どんな気持ちだった?」

そんな一言があるだけで、相手は話しやすくなります。



苦労比べになると、相手の気持ちが小さくされる


相手の話を自分の話に変えるとき、気をつけたいのが苦労比べです。

相手:
 
「昨日、三時間も残業で疲れた」

自分:
 
「三時間ならまだいいよ。ボクなんて五時間だった」

こう言われると、相手は、

「自分の疲れは、大したことないと言われた」

と感じるかもしれません。


言った側は、自分の大変さも分かってほしかっただけかもしれません。

でも、相手のつらさを受け取る前に自分のほうが大変だと出してしまうと、会話が共感ではなく比較になります。


つらさは、競争するものではありません。

相手の三時間は、相手にとって大変だった。

自分の五時間は、自分にとって大変だった。

どちらが上かを決めなくても、両方とも大変でいいのです。


相手の話を聞くときは、まずその人の体験として受け取りましょう。


「三時間も残業したんだね。それは疲れるよね」

そのあとで、

「ボクも最近残業が続いていて、お互いしんどいね」

と共有すれば、比較ではなく、寄り添う言葉になります。



逆マウンティングにも注意する


マウントというと、

「自分のほうがすごい」
「自分のほうが上」

と見せる言い方を思い浮かべるかもしれません。

でも、会話の中には、反対に、

「自分のほうがダメ」
「自分のほうがつらい」
「自分のほうが恵まれていない」

という形で、相手の話を止めてしまうこともあります。


たとえば、相手が、

「最近、少し仕事が忙しくて」

と言ったときに、

「忙しいだけいいよ。ボクなんて評価もされないし、もっとしんどいよ」

と返す。


「いまの会社、超絶ブラック企業でさ」

と言ったときに、

「色があるだけまだいいじゃん。俺なんか色もないよ。無色(=無職)透明だよ」

と返す。


これは一見、自分を下げているように見えます。

でも会話の流れとしては、

「あなたの悩みより、自分のほうがつらい」
「あなたはまだ恵まれている」
「だから、自分の苦しさを見てほしい」

という方向に変わってしまいます。


弱音を吐くこと自体は悪いことではありません。

ただ、相手の話を受け取らないまま、自分のつらさで上書きしてしまうと、相手は自分の悩みを話しにくくなります。


自分もしんどいときは、

「その話、ちゃんと聞きたいんだけど、実はボクも今少し余裕がなくて。少し落ち着いてから聞いてもいい?」

と伝えてもいいのです。

自分のつらさを出すことと、相手の話を奪うことは、分けて考えられます。



相手の話を奪わないための合言葉


相手の話を聞いていて、自分の話をしたくなったら、心の中でこう聞いてみましょう。

「今、主役は誰の話だろう?」

相手が話し始めたばかりなら、主役は相手です。

自分の似た経験が浮かんでも、少しだけ待ってみます。

そして、

「それはどうだったの?」
「そのとき、どんな気持ちだった?」
「今も気になっているの?」

と、相手にもう一度返してみます。

相手が話し終わったあとで、

「少しだけ、ボクの似た経験を話してもいい?」

と聞いてから話すのもいい方法です。

この一言があると、相手は、

「自分の話を聞いてもらえた」
「そのうえで、相手も経験を共有してくれるんだ」

と感じやすくなります。




ここから先について


ここまでは、なぜ相手の話を自分の話に変えてしまうのかを見てきました。

ここからは、相手の話を奪わずに、自分の経験も自然に共有するための具体的な方法を紹介します。

  • 「自分も」と言う前に挟む一言

  • 相手の話を受け取る質問

  • 自分の経験を短く共有するコツ

  • 苦労比べや逆マウンティングを避ける言い換え

  • 会話の主役を相手に戻す方法

  • 「教えてください」で相手の興味関心に関心を向ける方法

  • 今日からできる実践ミッション


自分の話をしてはいけないわけではありません。

相手の話を受け取ってから、自分の話を渡す。

その順番を少し意識するだけで、会話はずっとやさしくなります。


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