AIがうばえなかったもの|第1話 双子
「また彩乃が学年一位だったって?」
母の嬉しそうな声が食卓に響く。
「さすがだな」
父も満足そうにうなずいた。
テーブルの上には通知表が広げられている。
学年順位、一位。
教師からの評価も申し分ない。
彩乃は照れくさそうに笑った。
その隣で千夏は黙って味噌汁を飲んでいた。
彩乃と千夏は双子だった。
顔はよく似ている。
だが性格はまるで違った。
彩乃は勉強ができた。
本を読むのが好きで、何事にも真面目。
先生たちから期待される優等生だった。
一方の千夏は活発だった。
友達が多く、誰とでも仲良くなれる。
だが勉強は苦手だった。
テストのたびに彩乃と比べられる。
それが少しだけ苦しかった。
「千夏も頑張りなさい」
母は悪気なく言う。
「うん」
千夏は笑顔で答えた。
慣れていた。
比べられることに。
―――
高校二年。
教室ではいつものように彩乃の周りに人が集まっていた。
「彩乃、この問題教えて」
「進路は法学部?」
「将来は弁護士?」
彩乃は丁寧に答える。
その姿を少し離れた場所から見ている男子がいた。
裕太だった。
幼なじみ。
昔から彩乃が好きだった。
だが気持ちは言えない。
彩乃は人気者だ。
将来も約束されている。
自分とは違う世界の人間に思えた。
「見すぎ」
隣から声がした。
振り向くと直人がいる。
成績上位の同級生だ。
「別に」
裕太は視線をそらした。
直人は笑う。
「分かりやすいな」
裕太は返事をしなかった。
―――
放課後。
千夏は介護施設へ向かっていた。
祖母が入所している施設だ。
高校生の頃からボランティアを続けている。
「千夏ちゃん!」
利用者たちが笑顔で迎える。
千夏も笑顔になる。
勉強は苦手だ。
でもここでは必要とされている気がした。
その日、一人のおばあさんが泣いていた。
家族がなかなか面会に来られないらしい。
千夏は隣に座った。
話を聞く。
ただそれだけだった。
三十分後。
おばあさんは少し笑顔を取り戻していた。
「ありがとうね」
その言葉が嬉しかった。
―――
帰り道。
千夏は偶然、直人と出会った。
塾帰りらしい。
「また施設?」
直人が聞く。
「うん」
「偉いな」
千夏は笑った。
「そんなことないよ」
直人は少し考えて言う。
「俺にはできないかもしれない」
その言葉がなぜか印象に残った。
―――
夜。
彩乃は机に向かって勉強していた。
将来は弁護士になる。
困っている人を助ける仕事。
そのために誰よりも努力する。
そう決めていた。
同じ頃。
直人も医学部を目指して勉強していた。
裕太は実家の弁当屋を手伝っていた。
千夏は介護施設のことを考えていた。
まだ誰も知らない。
十数年後。
世界が大きく変わることを。
AIによって、
医師も。
弁護士も。
官僚も。
多くの仕事が姿を変えることを。
そして、
今は普通だと思われている仕事が、
人々に最も必要とされる時代が来ることを。
四人の運命が大きく交わる日が、
少しずつ近づいていた。
第2話に続く

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