21世紀の永遠平和のために その10原則
ジェフリー・サックス 2024年6月24日
来年は、イマヌエル・カントの有名な著作『永遠平和のために』(1795年)が発表されてから230年目にあたります。この偉大なドイツの哲学者は、当時の諸国の間で永遠の平和を達成するための一連の指導的原則を述べたのでした。戦争状態の世界、事実、核のアルマゲドンの深刻な危険に曝されている世界に取り組んでいる今、私たちは私たちの時代のために、カントの取り組みを受け継ぎ、発展させるべきです。これら諸原則は、更新されて、9月の国連「未来サミット」で検討されるはずです。
カントは、自分の提案が「実務」政治家には素直に受け取られないだろうことを十分に承知していました。
「実務政治家は、大いなる自己満足を以て、政治理論家を衒学的な人間だと見下し、国家は経験的原理によって運営されるものである以上、理論家の空虚な着想が国家の安全を脅かすことなど決してないと思っているものである。だから、理論家は、世故に長けた政治家からの干渉を受けることなく、自分の遊戯を続けることが許される。」
それにもかかわらず、歴史家マーク・マゾワーが世界統治を論じたその大著(*)の中で述べているように、カントの著作は「今日に至るまで、幾世代もの思想家が世界政府について考えるのに、繰返し影響を与え」、国際連合の、そして人権、戦争遂行、軍備管理に関する国際法の、基盤を築くのに役立ってきたのでした。(*Governing the world: the history of an idea, Penguin press, 2012. 邦訳『国際協調の先駆者たち――理想と現実の200年』(依田卓巳訳、NTT出版、2015年)を指すと思われる)。
カントの思想の核心をなすのは3つの着想です。
第1は、常備軍を認めないことです。常備軍は「常時戦争の準備が出来ていることによって、絶えず他の国の脅威になる」からです。この点でカントは、米国大統領ドワイト・D・アイゼンハワーの有名な「軍産複合体の危険性」の警告に、1世紀半先んじていました。
第2に、カントは、他国の内政に対する不干渉を要請しました。ここでカントは、アメリカが外国の政府を転覆するために容赦なく行ってきた隠密作戦のようなことを厳しく非難しています。
第3に、カントは「自由な諸国家の連合」を提唱しました。これが、今日、国連となったのです。193の加盟国が国連憲章の下で行動することを誓約した「連合」です。
カントはまた、戦争の遂行を抑止するためには、国家は一人の人物によって支配されるべきではないとして、共和制に大きな希望を託しました。かれは、単一の支配者は、戦争をしたい誘惑に容易に屈してしまうものだと論じています。
「宣戦布告は世界で何よりたやすいことである。戦争は、国家の所有者であって、その一員ではない支配者の、食卓、狩猟、別荘、宮廷儀式などでの享楽をほとんど損なわないからである。したがって彼は、最も些細な理由からでも、遊興を決めるように戦争を決めることができ、礼儀上、戦争の正当化が求められても、それにはまったく無関心で、いつでもそれを考える用意のある外交団に任せておくのである。」
しかし、「宣戦布告に市民の同意が必要だとなれば(共和国の憲法ではそうするほかないが)、彼らが、そんなお粗末な遊戯を始め、戦争のあらゆる災厄を自分の身に引き受けることに慎重になるのは、何にもまさって当然なことだからである。」
カントは、戦争を抑制する世論の力というものについてあまりに楽観的でした。アテナイも、ローマも、共和国でしたが、悪名高い好戦的な国でした。英国は、19世紀の代表的な民主主義国家でしたが、最も好戦的な大国でした。アメリカも数十年にわたって、代表的な諸戦争を絶え間なく遂行し、諸外国政府の横暴な転覆を行ってきました。
こんな誤りをカントが犯したのには、少なくとも3つの理由があります。
第1は、民主主義国でも、開戦の決定はほとんどつねに世論から隔絶された少数のエリートによってなされることです。
第2は、同じくらい重要なことですが、世論というものは、大衆の戦争支持の気持をかき立てるプロパガンダによって、わりに容易に操作されるのです。
第3は、短期的には、戦費が税ではなく国債で賄われ、国民の目につかず、徴兵でなく軍事会社や傭兵や外国兵士に依拠して行われることによって、戦争がどんなに高くつくかは、大衆の目に触れないからです。
永遠平和に関するカントの着想の核心は、20世紀には国際法、人権、戦争における適切な行動(例えばジュネーブ条約)へと向かう世界の前進を助けました。しかし、世界的諸機関においてさまざまな革新的な制度が作られたにもかかわらず、世界はなお平和とはおそろしくかけ離れた状態にあります。原子力科学者会報の「終末時計」によれば、我々は真夜中まで90秒のところにいます。1947年にこの時計が始められて以来最も核戦争に近い時刻です。
国連と国際法の全世界的な機構が今日まで第三次世界大戦を防いできたことは、まちがいないでしょう。例えば1962年のキューバ危機では、ウ・タント事務総長が平和的解決に重要な役割を果たしました。しかし、国連に基づく仕組みは脆弱であり、緊急な改善を要します。
このため、私は、今日の4つの地政学的に肝要な現実にもとづく、一連の新しい原則を策定し、採択するこ
とを強くお勧めします。
第1に、私たちはの頭上には、核というダモクレスの剣が吊り下げられ、いつ落ちてくるかわかりません。ジョン・F・ケネディ大統領は、60年前の有名な「平和演説」で次のように述べたとき、そのことを雄弁に表現したのです。
「私が平和を語るのは、戦争が新たな相貌をもっているからだ。今の時代に全面戦争は意味をなさない。いまや大国は大規模で比較的無敵の核戦力を維持することができ、それらの戦力に訴えなくても、降伏を拒むことができるからだ。一個の核兵器が、第2次世界大戦当時の連合国空軍の爆撃力をすべて合わせたものの、ほとんど10倍もの破壊力を持っている時代に、全面戦争は意味をなさない。」
第2に、私たちは正真正銘の多極化の時代に到達しました。19世紀以来初めて、アジアはで経済生産で西洋を追い越しました。米ソの二国が二極支配した冷戦時代や、1991年にソ連が崩壊したあと米国が主張した「単極の時期」は遠く過ぎ去りました。米国は今や、ロシア、中国、インドなどの大国、そしてイラン、パキスタン、北朝鮮などの地域大国と並ぶいくつかの超大国のひとつです。米国とその同盟国は、ウクライナ、中東、インド太平洋で、一方的にその意志を押し通すことはできません。これら他の大国と協力する術を学ばなければならないのです。
第3に、私たちは、広範囲にわたる、歴史的に前例のない一連の国際機関を持っています。それが、気候、持続可能な開発、核軍縮など、世界的な諸目標を策定し採択します。また、国際法を施行し、世界の諸国がそこで(国連総会や安全保障理事会において)その意思を表明できます。確かに、それら諸機関は今なお弱体で、大国はそれらを無視しますが、それでも、カントの考えたような、真の諸国家の連合体を築くための、測りしれないほど貴重な手段を提供するものなのです。
第4に、人類の運命は、かつてなく、相互に結びついています。世界的な公共財(持続可能な開発、核軍縮、地球の生物多様性の保護、戦争の防止、パンデミックの予防と対策)は、人類史のこれまでのどのときにもまして、私たちの共有する運命の中心的なものとなっています。再びケネディ大統領の知恵に耳を傾けましょう。それは今日も、かつてに変わらず真実です。
「だから私たちは相手との不一致に対して盲目にならないでいよう、ただし共通の利益、そして不一致を解決しうる手段にも注意を向けよう。相手との不一致を今終わらせることができないとしても、少なくとも世界を多様性にとって安全な所にするのを助けることはできる。結局のところ、我々の最も基本的な共通の絆は、みな同じこの小さな惑星に住んでいるということだからだ。我々はみな同じ空気を呼吸している。我々はみな子どもたちの未来を大切に思っている。そして我々はみな死すべきものなのだ。」
では、私たちは、この時代に永遠平和に寄与しうる、どんな原則を採択すべきでしょうか。私は、21世紀の永遠平和のための10原則を提案します。他の人々もこれをを改訂、編集、あるいはご自分で作成なさってみてください。
最初の五つの原則は、70年前に中国が提唱し、非同盟諸国によって採択された「平和共存五原則」です。すなわち、
1. すべての国が他国と相互に領土保全と主権を尊重すること。
2. すべての国が他国と相互に不可侵であること。
3. すべての国が他国と相互に内政不干渉であること(選択の戦争、体制転覆工作、一方的制裁などをしないこと)。
4. 諸国間の交流における平等と相互利益。
5. すべての国の平和共存。
これら5つの核心的原則を実施するために、私は具体的な行動原則を5項目提案します。
6. 海外軍事基地の閉鎖。これは米国と英国が断然多く保有しています。
7. 体制転覆の秘密工作と一方的な強制的経済措置をやめる。これは他国の内政に対する不干渉という原則に対する重大な違反です(1947年から1969年の期間に米国の行った秘密の体制転覆作戦と、そのような作戦が引き起こした不安定化の蔓延を綿密に跡づけた研究が政治学者リンジー・オルークによって行われています)。
8. すべての核保有国(米、露、中、英、仏、印、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が核拡散防止条約第6条を遵守すること。「すべての当事国は、核軍拡競争の停止と核軍縮に関する有効な対策と、厳格で実効性ある国際的管理のもとでの全般的かつ完全な軍縮のための交渉を誠実に遂行すること」。
9. すべての国は「他国の安全保障を犠牲にして自国の安全保障を強化しない(OSCE憲章による)」ことに責任をもつ。諸国家は、近隣国家を脅かす軍事同盟には参加せず、紛争の解決は国連安保理の承認を得た平和な交渉と安全保障の取り決めとを通じて行うことを誓約する。
10. すべての国は、気候変動に関するパリ協定、持続可能な開発目標の達成、および国連諸機関の改革を含め、世界共有の財産を守ること、また世界的な公共財を提供することに協力すると誓約する。
今日の大国間の対立、特に米国の、ロシア、中国、イラン、北朝鮮との対立は、米国が体
制転覆工作、選択の戦争、一方的な制裁、軍事基地と同盟の世界ネットワークを通じて単
極支配を追求し続けていることに起因するところが大きいのです。上に挙げた10の原則は、国連憲章と国際的な方の支配による平和的な多極的支配へと、世界を移していくのを助けることでしょう。
