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【子育てエッセイ】千葉豪雨、帰れなかった夜

今年の盆休み初日は妻の実家へ遊びに行った。

昼頃に到着し、1日を過ごし、夕飯をご馳走になり、帰路につく。


そして千葉豪雨の影響で家に辿り着く事は出来なかった。



――――



「線状降水帯が発生し………」


「Level4、土砂災害が………」


テレビではひっきりなしに豪雨に対する警告が流れている。

雨は降ってはいるが、妻の実家では、そこまでの雨は降っていない。

何なら時折小雨になるくらいだ。


私の心の中は『自宅は大丈夫なのか?』と不安で塗りつぶされていた。


自宅では高齢の母が留守番をしている。


電話で話をすると、どうやら自宅周辺ではものすごい雨が降っているらしい。


母は目が良くない。


そんな状況で、玄関先の様子を確認してもらうわけにもいかない。

我が家は以前から、大雨が降ると駐車場が足首くらいまで浸水する。 浄化槽のマンホールがボコボコと息をし、排水も悪くなる。

停電する可能性だってある。

できることなら、母には2階の自室で待機していてもらいたい。


「そろそろ帰ろう」


外を見ると、雨は小降りだ。


道中、冠水している場所があるかもしれない。

迂回や渋滞も予想される。

それでも、まあ何とかなるだろう。

とにかく母と自宅が心配だ。


私たちは挨拶を済ませ、帰路についた。


娘はすぐに寝息を立て始めた。

道も思ったほど混んでいない。

これは案外、スムーズに帰れるかもしれない。

そう思っていたが甘かった。


国道に出てから、一向に進まない。


15分経っても、1ミリも動かない。

ようやく車1台分進んだと思ったら、また止まる。

そんな事を繰り返し、やっと国道を逸れてスムーズに走り始めたのも束の間、また渋滞にはまる。


(確か、この先は駅の下を潜る道になっていたはず)


ノロノロと進み、そこへ差し掛かった私の目に飛び込んできた光景は、凄まじいものだった。


すでに水は引いている。

しかし、何台もの車が路上に止まっている。

中には、明らかに普通ではない方向を向いて止まっている車もあった。


ただ事ではない。


薄暗く、降りしきる雨に無数の停止車両。

荒廃した都市のような光景に恐怖を感じた。


車の間を縫うようにして何とか先へ進んだものの、また渋滞。


しばらくして、私たちは高台にあるコンビニの駐車場へ入った。


母と家が心配だ。


でも、妻と娘も心配だった。

このまま無理に進むべきなのか。 それとも、ここで一夜を明かすべきなのか。

娘はジュニアシートに座ったままスヤスヤと夢の中だ。

トイレの問題もある。


いろいろ考えた末、ここで寝ることにした。


車の中で一晩。

雨音を聞きながら、娘と妻が眠る横で、私も目を閉じた。


そして、夜中の12時を過ぎた頃、ふと目が覚める。

外を見ると、道路が空いている。


(今なら行けるかもしれない)


とりあえず、行けるところまで行ってみよう。

私は再び車を走らせた。


しばらくは、何事もなく進んだ。


時折、道路脇に停まっている車を見かける。

それでも走れる。


しかし、千葉市に近付くにつれて、その数が少しずつ増えていった。


そして、また渋滞。

今度は、本当に動かない。


目を覚ました娘も、だんだん不安になってきた。

しりとりや、歌を歌って気を紛らわせていたが、すでに限界だ。


無理をする必要はない。


再びコンビニの駐車場へ車を止めた。

トイレを済ませ、何か食べるものを買おうと店内へ入る。


深夜のコンビニ。


娘にとっては初めての経験だった。

ガランとした商品棚。

食べるものはほとんど売ってない。お菓子くらいだ。


私は努めて明るく


「パパ、お菓子食べたい。一緒に食べよ?」


そう言って、お菓子を買ってあげた。


こんな時間に、車の中でお菓子を食べる背徳感。

娘は少しだけ嬉しそうだった。


しばらくそこで過ごし、再び出発。


しかし今度は、警察による通行止めが増えてきた。


迂回すれば、そこも渋滞。

さらに停電で信号機まで止まり、道路は完全に交通マヒを起こしていた。


再びコンビニへ車を入れる。


今度は、さっきまでとは様子が違った。

照明の付いたその場所には、人が溢れている。

駐車場も満杯だ。

同じように帰宅を諦めた人たちなのだろう。


「もう、ここで朝まで待とう」


私はそう決めた。


娘は、本当によく頑張ってくれた。

激しい雨の音。

狭い車内。

長時間、ジュニアシートに座ったまま。


さぞ、不安だっただろう。


多少グズりはしたが、じっと耐えてくれた。

本当に助かった。



結局、家に着いたのは朝の8時頃だった。


長い、長い帰路だった。

その間、冠水したままの道路。

氾濫寸前の川。 

道路上で動かなくなった何台もの車。 

そして、さまざまな障害物。


普段なら何気なく走っている道が、まったく違う姿になっていた。


幸い、我が家に浸水の被害はなかった。

直接目にしたわけではないが、後から聞くと、本当にギリギリだったらしい。


"帰れるだろう"


そう思って家を出た。


しかし、帰るという当たり前のことが、こんなにも難しくなるとは思わなかった。

そして何より、無事に家へ帰ることができたことに、今はただホッとしている。


被害に遭われた方々の、一日も早い復旧を願います。


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