見出し画像

看護師は、ときどき探偵になる。——左下腹部痛の奥にあったもの

70代の男性が来院された。
訴えは、左下腹部の間欠的な痛み。

“間欠的”というのが、まず気になった。
ずっと痛いわけではない。
波があるように痛む。

こういうとき、看護師の頭の中では、いくつもの可能性が静かに並びはじめる。

便秘かな。
尿路結石かな。
憩室炎だろうか。
それとも、もっと別の何かか。

患者さんの表情をみる。
痛みの強さはどうか。
お腹の張りはないか。
吐き気は?
最後に便が出たのはいつか。
ガスは出ているか。
食事はとれているか。

ひとつずつ、問いを重ねていく。

まるで探偵が、
現場に散らばった小さな手がかりを拾い集めるみたいに。

腹痛といっても、
ただ「お腹が痛い」という言葉だけでは見えてこないことが多い。

どこが痛いのか。
いつからなのか。
ずっと続いているのか、波があるのか。
何をすると強くなるのか。
吐き気や嘔吐はあるのか。
便やガスはどうか。

そのひとつひとつが、
診断に近づくための大事な手がかりになる。

今回、私の中で少し強く引っかかったのは、
間欠的な痛みという訴えと、
お腹の状態だった。

腸は、詰まりかけたり、流れが悪くなったりすると、
なんとか中身を送ろうとして動く。
そのたびに、波のある痛みとして現れることがある。

もしかしたら、腸閉塞かもしれない。

もちろん、看護師が診断をするわけではない。
でも、こうして症状を整理し、
「何が起きている可能性があるのか」を頭の中で考えながら医師へつなぐことは、
とても大切な役割だと思っている。

患者さんは、ただ「痛い」と言って来られる。
その言葉の背景に何があるのかを、丁寧にみていく。

見逃してはいけない痛みなのか。
少し様子を見られるものなのか。
急いで検査や対応が必要なのか。

そこを考える時間は、
私にとって、看護師としての緊張感と責任を感じる時間でもある。

探偵のように推理する。
でも、相手は事件ではなく、ひとりの患者さん。
だからこそ、冷静さと同時に、安心してもらう関わりも必要になる。

「痛みが強くなるタイミングはありますか?」
「吐いたりはしていませんか?」
「最後に便が出たのはいつ頃ですか?」

そんなやり取りの中で、
少しずつ全体像が見えてくる。

看護師は、
ただ医師の指示を待つだけの存在ではないと、私は思う。

患者さんの最初のサインを受け取り、
そこから必要な情報を集め、
異変を見逃さず、
次につなげていく。

その役割は、やっぱり少し、探偵に似ている。

今日もまた、
症状という小さな手がかりを拾い集めながら、
私は静かに考えている。

看護師は、ときどき探偵になる。



こうしてつい推理してしまうのは、
赤川次郎さんの「三毛猫ホームズシリーズ」の読みすぎかもしれません。

なお、院内に三毛猫はおりません(笑)


いいなと思ったら応援しよう!