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ヨルシカ『盗作』『創作』考察


2026年10月9日(金)、10日(土)にヨルシカLIVE『盗作』プレミアム上映会が開催決定しました。
『盗作』とその次のEP.『創作』全19曲を聴いて、個人的に書き溜めていたものをnoteに。
初noteです。


アルバム『盗作』と『創作』について

『盗作』と『創作』は、単純な「前編・後編」ではなく、同じ男の人生を別々の角度から描いた二枚の作品なのではないか。

『盗作』は主に「俺自身の欲望・欠落・盗むこと」から人生を見る。

『創作』はそこから少しカメラを引いて、「愛すること・失うこと・時間」を見る。

だから、必ずしも曲順=人生の時系列ではない。

Ⅰ.『盗作』――「何もないから、僕は欲しい」

01. 音楽泥棒の自白

いきなり「音楽泥棒」。

そしてベートーヴェンの『月光』。

ここで作品そのものが、「既存の音楽を借りる=盗む」という構造を持っている。

つまり、

主人公が音楽を盗む物語なのに、アルバム自体も“引用”によってできている。

これは単なる演出じゃなくて、『盗作』という作品そのものが主人公の思想を体現しているように見える。

02.昼鳶――すべての始まり

何も無いから僕は欲しい

https://yorushika.com/lyrics/detail/32/

これが、主人公の根っこ。

最初は「欲深い男」に見える。

でも19曲全部聴いた後だと、もっと悲しい。

彼は本当に何も持っていなかったんじゃなくて、自分が持っているものを「持っている」と認識できなかったんじゃないか。

父親のレコード。

少年時代の思い出。

妻との時間。

自分自身の才能。

そういうものが既にあったのに、「足りない」と思い続ける。

だから外側にあるものを欲しがる。

そして、

欲しい → 盗む → 一瞬埋まる → また足りなくなる

という循環に入っていく。

「君の全部が欲しい」も、愛情と所有欲の境界が曖昧。

ここで既に、この男の「盗む」という生き方が始まっている。

03.春ひさぎ――「愛されたい」もまた欲望

「春をひさぐ」=自分を売る。

ここでは音楽そのものが商品になる。

主人公は、

自分の音楽を大衆に合わせて売ることで、愛されようとする。

「愛して欲しい」。

『昼鳶』の「欲しい」と繋がっている。

つまり彼は、

物が欲しいだけじゃなく、「価値があると思われたい」「愛されたい」

という欲望も抱えている。

でも、それも自分の中の穴を完全には埋めてくれない。

04.爆弾魔――「君」が現れる

ここで一気に主人公の内面が「君」に向かう。

君を消せるだけでいい

https://yorushika.com/lyrics/detail/7/

でも、

君だけを覚えていたい

https://yorushika.com/lyrics/detail/7/

という矛盾。

青春の全部に君がいる。

もっと笑えばよかった。

ずっと戻りたかった。

ここではじめて、

この男が欲しかったものの中に「誰かとの時間」がある

ことが見えてくる。

そして「爆破」は、過去そのものを消したいという願望にも見える。

でも消したいほど大切だったからこそ、忘れられない

05.青年期、空き巣

ここで主人公が昔から「泥棒」だったことが示される。

重要なのは、

盗む対象が変わっただけで、「盗む」という行為自体は変わっていない

こと。

昔は物。

大人になってからは音楽。

つまり彼の人生は、

空き巣 → 音楽泥棒

と進んでいく。

そしてアルバムそのものも、その人生を真似るように音楽を引用している。

06.レプリカント――「全部偽物なら、盗んでもいい?」

ここで主人公の思想が一段深くなる。

僕ら皆レプリカだ

https://yorushika.com/lyrics/detail/35/

もし何もかも誰かの影響を受けているなら、

「完全なオリジナルなんて存在しない」

とも考えられる。

だったら盗作とは何なのか。

この考え方は、主人公にとって都合のいい理屈でもある。

そして、

思い出だって偽物だ

https://yorushika.com/lyrics/detail/35/

という言葉。

ここが後半でひっくり返る。

この時点では、主人公はまだ自分の人生そのものを信じ切れていない。

07.花人局――妻の不在

ここで妻の存在がかなり大きくなる。

公式にも「主人公の妻」を描いた曲とされている。

妻がいなくなった後、部屋には服や匂いなどの痕跡だけが残る。

明日にはきっと戻ってくる
なにげない顔で帰ってくる

https://yorushika.com/lyrics/detail/36/

でも、

昨日の夜のことも本当は少し憶えてるんだ

https://yorushika.com/lyrics/detail/36/

つまり、

忘れたいのに忘れられない。

そして

その温もり、僕に残して
僕にひとつ、花を残して

https://yorushika.com/lyrics/detail/36/

何かを盗んで手に入れるのではなく、

失ったものを記憶として残そうとする

方向へ、主人公が少しずつ変わっていく。

08.朱夏期、音楽泥棒

「青年期、空き巣」と対になる。

青年期=空き巣。

朱夏期=音楽泥棒。

ここでも、

人生の段階と盗む対象の変化

が描かれる。

そしてサティの『ジムノペディ』が引用される。

主人公の「盗作」と、アルバム自身の「引用」が完全に重なる。

09.盗作――主人公の自白

ここが作品の中心。

この歌が僕のものになればこの穴は埋まるだろうか。

https://yorushika.com/lyrics/detail/37/

そして、

だから、僕は盗んだ。

https://yorushika.com/lyrics/detail/37/

『昼鳶』の、

ただ何も無いから僕は欲しい

https://yorushika.com/lyrics/detail/32/

が、ここでそのまま「盗作」という行為に繋がる。

さらに彼は、

現代の音楽はすべて何らかの意味で盗作だ

という思想まで持つ。

つまり、

「俺だけが悪いんじゃない」

という自己正当化でもある。

でも、この曲の面白いところは、アルバム自体もそれを実践していること。

メロディー、詩、文学、音楽史。

いろんなものを拾って、切り貼りして、新しいものにする。

まさにコラージュ。

10.思想犯

「盗む」が行為から思想になる。

単純に、

「俺は盗んだ」

ではなく、

「盗むことには意味がある」

と自分の中で理論化していく。

『レプリカント』で生まれた、

「そもそもオリジナルなんてあるのか?」

という疑問が、ここで思想として固まっていく。

11.逃亡

そして、その思想を抱えたまま逃げる。
ここから作品は、現在から過去へ、記憶へと沈んでいくように見える。

12.幼年期、思い出の中

ここだけ具体的な音楽的引用が前面に出ていない。

だから俺は、

「盗む音楽」から「思い出そのもの」へ視点が移る場所

なんじゃないかと考えた。

タイトルも「幼年期」だけじゃなく、

『幼年期、思い出の中』

ここで主人公の人生が、現在の「音楽泥棒」ではなく、もっと幼い頃まで巻き戻される。

13.夜行――「思い出だけが本当」

『レプリカント』では、

思い出だって偽物だ

だった。

ところが『夜行』では、

君はまだ分からないだろうけど思い出だけが本当なんだ

https://yorushika.com/lyrics/detail/40/

になる。

完全に価値観が反転する。

そして「僕ら」は一緒に旅をする。


いつか大人になったら、僕らどうなるんだろうね

https://yorushika.com/lyrics/detail/40/

その答えが最後に、

そっか、大人になったんだね

https://yorushika.com/lyrics/detail/40/

僕はここに残るんだね
ずっと向こうへ往くんだね

https://yorushika.com/lyrics/detail/40/

として返ってくる。

二人は同じ未来には行けなかった。

だからこそ、残ったものが「思い出」になる。

14.花に亡霊――最後に残ったもの

そして『盗作』の終着点。

夏。

木陰。

二人。

絵。

思い出。

そして、

ここで『昼鳶』と完全に繋がる。

『昼鳶』

何も無いから僕は欲しい

https://yorushika.com/lyrics/detail/32/



『盗作』

この歌が僕の物になれば、この穴は埋まるだろうか

https://yorushika.com/lyrics/detail/37/


『夜行』

思い出だけが本当なんだ

https://yorushika.com/lyrics/detail/40/


『花に亡霊』

言葉じゃなくて時間を
時間じゃなくて心を

https://yorushika.com/lyrics/detail/41/


つまり、

「全部欲しい」だった男が、「もう何もいらない」に辿り着いた。
これが『盗作』の中の男の人生の大きな変化なんじゃないか。

言葉も、メロディーも、いろんなものを使ってきた。
でも、妻との時間を振り返ったとき、

言葉だけでは足りない。

時間そのものを残したい。

でも、
時間そのものを残すこともできない。

だから最後に残るのが、

「心」

なんじゃないか。

つまり、

言葉 → 時間 → 心

と、どんどん形のないものへ向かっていく。

これって、彼がずっと追い求めていた「何か」の答えにも見える。

Ⅱ.そして『創作』へ

『創作』は「その後の話」ではなく、
同じ人生を別の角度から見ているんじゃないか。

01.強盗と花束

いきなり異質。

強盗。

花束。

「奪う」と「贈る」。

これまでの「盗む」という行為と、誰かを「愛する」という行為が同じ場所に置かれる。

しかも、

愛するために盗む。

という矛盾。

だからこれは『盗作』と『創作』の境界に置かれた曲なんじゃないか。

02.春泥棒

ここで「盗む」というモチーフが完全に反転する。

今度は主人公が盗む側ではない。

春=人生・時間を、風が盗んでいく。

妻と過ごす春。

あと何回会えるのか。

今日も会いに行く

https://yorushika.com/lyrics/detail/43/

明日も会いに行く

https://yorushika.com/lyrics/detail/43/

でも時間は止められない。

つまり、

『盗作』では俺が何かを盗んでいた。
『創作』では俺から時間が何かを盗んでいく。

主人公が初めて「盗まれる側」になる。

03.創作

インスト。

ここも重要。

『盗作』では言葉で「俺は盗んだ」と説明してきた。

でもここでは何も語られない。

「言葉にできないものそのものを音楽にした場所」

と考えた。

春。

時間。

妻。

失われていくもの。

そういうものを、言葉ではなく音として残す。

04.風を食む

ここで「買う」が出てくる。

『盗作』の「盗む」に対して、

買う。

でも、

僕らは今日も買ってる
足りないものしかなくて

https://yorushika.com/lyrics/detail/44/

ここでも『昼鳶』の「何も無いから僕は欲しい」が響く。

ただし今回は、

売れ残りの心でいい
僕にとっては美しい

https://yorushika.com/lyrics/detail/44/

という価値観が出てくる。

これは大きい。

「誰かに価値を認めてもらわなきゃ意味がない」から、

「自分にとって美しいなら、それでいい」

へ変わっている。

妻についても、

「貴方の傷はわからない」

と認める。

愛する=全部理解することではない。

05.嘘月


最後は「嘘つき」と「泥棒」が繋がる。

そして、

僕は君を待っている

https://yorushika.com/lyrics/detail/45/

から、

僕は君を待っていない

https://yorushika.com/lyrics/detail/45/

へ。

『花人局』では、

明日にはきっと戻ってくる

https://yorushika.com/lyrics/detail/36/

と待っていた。

『嘘月』では、ついに待つことをやめる。

でも完全に忘れたわけじゃない。

君の鼻歌が欲しいんだ

https://yorushika.com/lyrics/detail/45/

月を飲む。

愛を飲む。

でも、

飲めば飲むほど喉が渇いて

https://yorushika.com/lyrics/detail/45/

これはまさに『昼鳶』の「渇き」の最終形態にも見える。

そして、二つを合わせると

そして最初と最後が、

「月」

でも繋がってる。

『盗作』の冒頭にある『月光』。

『創作』の最後の『嘘月』。

最初は盗まれた音楽としての月だったものが、最後には一人で見上げる月になっている。

『盗作』=『創作』

『盗作』は、音楽泥棒の話であると同時に、「自分には何もない」と思い込んだ人間が、人生をかけて“本当に価値のあるもの”を探していく話。

彼はずっと何かを盗んでいた。

でも、本当に欲しかったものは盗めなかった。

時間。
愛。
人の命。
一緒に過ごした瞬間。

だから最後に残ったのが「思い出」だった。

そしてその思い出こそ、かつて彼が「偽物」と呼んだものだった。

『盗作』と『創作』を最後まで聴いてからもう一回『昼鳶』を聴くと、

「何も無いから僕は欲しい」

が、

「この人、ずっと“何かが足りない”と思って生きてたんだ」

に変わる。

そして『花に亡霊』まで行った後に、

「言葉じゃなくて時間を時間じゃなくて心を」

を聴く。

そこで初めて、

「ああ、この人が欲しかったものって、最初から“物”じゃなかったんだ」

って気づく。

これが『盗作』という作品の一番大きな美しさだと思う。

そして『創作』は、その答えを真正面から説明するんじゃなくて、「じゃあ、その“欲しかったもの”を愛するってどういうことだったんだろう」という別角度から、もう一度同じ人生を見せてくれる。

だからこの二枚、

『盗作』=「俺は何を欲しかったのか」
『創作』=「俺は誰を愛して、何を失ったのか」

という位置づけと考える。

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