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なぜ「鳥取砂丘コナン空港」は成功したのか?20年PMが解剖する「引き算の地方創生」とブランディング構造

プロローグ

正直に言う。

私は数年前、鳥取行きの飛行機のチケットを予約しながら、行き先の空港名を見て、思わず一人で吹き出した。

「鳥取砂丘コナン空港」。


パソコンの画面に、その正式名称が表示されていた。

砂丘。コナン。空港。

三つの単語が、なぜか一列に並んでいる。

これは、ふざけているのか。

それとも、本気なのか。

判断がつかなかった。


情けない話だが、私はそのとき、少しだけ、こう思っていた。

地方は、大変なんだな、と。

有名な観光地も、大きな産業もないから、漫画のキャラクターにすがるしかないのだろう、と。

失礼な話である。

上から目線もいいところだ。


だが、実際にその空港に降り立って、私は言葉を失った。

そして、帰りの飛行機の中で、二十年PMをやってきた自分の考えが、根っこから覆されているのに気づいた。


結論から先に言う。

私は、地方創生というものを、完全に勘違いしていた。

大きな予算をかけ、大きな施設を作り、大きな企業を誘致する。

それが地方創生だと思っていた。

だが違った。

本当に街を動かすのは、そういう「足し算」ではなかった。

たった一つ、名前を変えるという「引き算」に近い一手のほうが、はるかに街を生き返らせていたのだ。



第一章 Before――私が信じていた「正しい地方創生」

二十年PMをやってきて、私は数々の「地域活性化プロジェクト」を、外から見てきた。

そこには、ある共通のパターンがあった。


まず、大きな箱を作る。

立派な観光施設。ぴかぴかの物産館。巨大な駐車場。

補助金を使い、何億円もかけて、建物を建てる。


次に、たくさんの機能を詰め込む。

レストラン。ショップ。展望台。体験コーナー。イベントホール。

とにかく、あれもこれも、盛り込む。


そして、大々的にオープンする。

テープカット。テレビ取材。市長の挨拶。

初日は、人でにぎわう。


だが、三年後。

私が見てきた多くの施設は、閑散としていた。

平日の午後、広い駐車場に、車は数台。

立派な物産館に、店員のほうが客より多い。


なぜ、こうなるのか。

当時の私は、こう分析していた。

立地が悪いのだろう。

宣伝が足りないのだろう。

もっと機能を追加すればいいのだろう。


つまり、私は、うまくいかない原因を、いつも「足りなさ」で説明していた。

施設が足りない。機能が足りない。予算が足りない。

だから、もっと足せばいい、と。


今ならわかる。

問題は、足りないことではなかった。

足しすぎていたことだった。

大きな箱に、意味を詰め込みすぎて、結局、何の街なのか、誰にも伝わらなくなっていたのだ。


第二章 「名前」は、なぜこれほど効くのか

ここで少し、構造の話をする。

なぜ、何億円もの施設よりも、空港の名前を変えるほうが、街を動かすのか。

答えは、名前の持つ、三つの機能にある。


一つ目。名前は、街の「一言」を決める。

人は、複雑なものを、覚えられない。

「鳥取には、砂丘があって、二十世紀梨があって、温泉もあって、海の幸も豊かで……」

こう説明されても、頭に残らない。

だが、「コナンの街」と言われれば、一発で覚える。

名前は、街の情報を、たった一言に圧縮する装置なのだ。


二つ目。名前は、行動を生む。

「鳥取空港」では、人は「移動の通過点」としか思わない。

だが、「鳥取砂丘コナン空港」と聞くと、人は思う。

行ってみたい。写真を撮りたい。SNSに上げたい。

名前が、ただの通過点を、目的地に変えるのだ。


三つ目。名前は、街の人を、一つにする。

空港に「コナン」とつくと、街の商店も、宿も、飲食店も、自然とコナンでつながりはじめる。

みんなが、同じ旗のもとに集まる。

名前は、バラバラだった街を、一つのテーマでまとめる、旗印になるのだ。


ここに、名前の恐ろしい構造がある。

何億円もの施設は、お金はかかるが、街を一つにはできない。

たった一つの名前は、お金はかからないのに、街全体を動かす。


私は、二十年、これに気づかなかった。

大きな箱ばかり見て、名前という一言の力を、完全に見落としていた。


第三章 転機――「コナン空港」で、私が見た光景

実際に、鳥取砂丘コナン空港に降り立って、私は驚いた。


まず、空港そのものが、テーマパークだった。

コナンのトリックアート。キャラクターのフォトスポット。等身大の像。

到着した瞬間から、ここは「コナンの街」なのだ、というメッセージが、全身に届く。


そして、面白いのは、ここからだ。

空港を出て、街を歩いても、その世界が続いていた。

商店街に、キャラクターがいる。

飲食店のメニューに、テーマがある。

道を歩いていた地元のおばあちゃんに道を聞いたら、当たり前のように「コナン通りならあっちだよ」と教えてくれた。


私は、そのおばあちゃんの一言に、鳥肌が立った。

なぜか。

名前が、地元の人の言葉になっていたからだ。


行政が決めた名称ではない。

地元の人が、自分の街を語る言葉として、その名前を使っている。

これこそが、本物の浸透だ、と思った。


そして、帰りの空港で、私は自分の勘違いに気づいた。

「地方は、有名な観光地がないから、キャラクターにすがっている」

そう思っていた私は、完全に間違っていた。

彼らは、すがっていたのではない。

戦略的に、街の一言を、選び取っていたのだ。


一人で吹き出したプロローグの自分を、少し恥じた。

笑っていたのは、私のほうが浅かったからだった。


第四章 After――「引き算の地方創生」という発想

この経験のあと、私の地方創生を見る目が、根っこから変わった。


以前の私は、「何を足すか」で考えていた。

施設を足す。機能を足す。イベントを足す。


だが今は、「何を一言にするか」で考える。

この街を、一言で言うと何か。

その一言を、どうやって全員の言葉にするか。


これは、足し算ではない。

引き算に近い。

たくさんの魅力の中から、たった一つを選び、それ以外を、いったん脇に置く。

一つに絞る勇気こそが、街を動かす。


米子鬼太郎空港も、同じ構造だった。

境港には、たくさんの魅力があっただろう。

だが、彼らは「鬼太郎」という一言に絞った。

そして、水木しげるロードには、妖怪の像が並び、街全体が、一つの物語になった。


高知龍馬空港も、そうだ。

日本で初めて、空港の愛称に人名を使った。

「龍馬の街」という一言が、高知という街を、一発で人の心に刻んだ。


おいしい庄内空港に至っては、もっとすごい。

「おいしい」という形容詞を、空港名に入れてしまった。

降り立つ前から、旅人の期待が、味覚に向かって整えられる。

これは、極めて高度な、引き算のデザインだ。


私が二十年、大きな箱で解こうとしていた問題を、彼らは、たった一つの名前で解いていた。


第五章 構造で読み解く――これは「地方」だけの話ではない

ここで、構造を一段、抽象化する。

すると、これは地方創生だけの話ではないことが見えてくる。


会社の商品も、同じだ。

「高性能で、多機能で、あらゆるニーズに応えます」

こう言う商品は、たいてい売れない。

なぜなら、一言で言えないからだ。


逆に、売れる商品は、必ず一言がある。

これは「〇〇のための商品だ」と、一言で言える。

その一言が、鳥取砂丘コナン空港の「コナン」なのだ。


チームも、同じだ。

「うちのチームは、いろいろやっています」

こう言うリーダーのチームは、たいてい、まとまらない。

なぜなら、旗印がないからだ。


強いチームには、必ず、一言の旗印がある。

「うちは、〇〇をやるチームだ」

その一言が、バラバラのメンバーを、一つにする。


ここで、私の思想の根っこにある考え方を持ち出したい。

足し算より、引き算。


私たちは、価値を高めようとすると、つい、足したくなる。

機能を足す。魅力を足す。言葉を足す。

だが、足せば足すほど、一言が消える。

一言が消えると、誰にも伝わらなくなる。


本当に強いのは、たくさんの中から、たった一つを選び取れる勇気だ。

鳥取は、コナンを選んだ。

境港は、鬼太郎を選んだ。

高知は、龍馬を選んだ。

選ぶとは、捨てることだ。

そして、捨てられる人だけが、一言を手に入れる。


第六章 これは、人生そのものの話でもある

ここまで、街と、商品と、チームの話をしてきた。

だが、これは、人生そのものの話でもある。


私たちは、自分の価値を高めようとすると、つい、足したくなる。

資格を足す。スキルを足す。肩書きを足す。

私自身、若い頃、名刺に書ける肩書きを、必死で増やしていた。


だが、肩書きを増やせば増やすほど、私は、自分が何者なのか、わからなくなっていた。

あれもできます、これもできます、と言う人は、結局、何をする人なのか、伝わらない。

私は、肩書きの多い、一言のない人間だった。


今、私は、noteで「人生を構造で読む人」という、たった一つの旗を掲げている。

これが、私にとっての「コナン」だ。

他のたくさんの肩書きを、いったん脇に置いて、一言に絞った。

すると、不思議なことに、人が集まりはじめた。


自分の人生を、一言で言うと何か。

これを問うことは、少し怖い。

たくさんの可能性を、捨てることになるからだ。


だが、半径五メートルの人たちに、自分を一言で伝えられない人は、遠くの一万人には、絶対に伝わらない。

まず、隣の一人に、自分を一言で語れること。

そこから、すべてが始まる。


なお、本記事を含む一連の記事は、書籍化を視野に入れながら執筆を続けている。


統合章 「一言」を、思いつきではなく設計にする

ここまでを、一本の線でつなぎたい。


私が伝えたいのは、街も、商品も、人生も、一言に絞ることで動きだす、ということだ。

そして、その一言は、思いつきではなく、構造で設計できる。


まず、焦って結果を出そうとしなくていい。

鳥取砂丘コナン空港も、一日で街が変わったわけではない。

名前を掲げ、少しずつ、地元の人の言葉になるまで、時間をかけて浸透していった。

大切なのは、巡航速度だ。

一つの一言を、長く、掲げ続けること。速さは才能だが、続けることは設計である。


次に、その場のウケではなく、あとに残る一言を選ぶ。

一時的に流行る名前ではなく、十年後も街を語れる一言を選ぶ。

これが、長期残存価値だ。

コナンも、鬼太郎も、龍馬も、十年、二十年と残る一言だからこそ、効いている。


そして、たくさんの魅力を、引き算する。

一言を作るとは、魅力を足すことではない。

たくさんの中から、一つを選び、それ以外を脇に置くことだ。

足し算より、引き算。

捨てる勇気が、一言を生む。


かつての私は、コナン空港を見て、地方が漫画にすがっていると、笑っていた。

だが今は思う。

あの浅はかな勘違いも、経験は資産である。

自分の浅さに気づいたから、引き算の本当の力がわかった。

失敗も、遠回りも、あとから価値になる。


そして最後に、これだけは言いたい。

一言に絞れる人は、他人の目を怖がらない人だ。

「コナン空港なんて、ふざけている」と笑われても、揺らがない。

一つを選び、それを掲げ続けられる人は、折れない。

優しいまま、壊れない。

強さとは、すべてを盛り込んで八方美人になることではなく、一つを選んで、笑われても立ち続けることだ。


これらはすべて、人生を構造で読む、という一つの幹から伸びている。

一言を、センスではなく、設計の問題として見る。

それだけで、街も、仕事も、人生も、静かに動きはじめる。


エピローグ

先日、私はまた、鳥取行きのチケットを予約した。

画面に「鳥取砂丘コナン空港」の文字が表示された。


数年前の私は、この名前を見て、一人で吹き出していた。

地方は大変だな、と、失礼なことを思っていた。


だが今、私は、この名前を見て、静かに感心している。

こんなに難しいことを、たった一言でやってのけたのか、と。

同じ名前を見て、同じ私が、まったく逆の感想を持っている。

変わったのは、名前ではない。

名前を読む、私の目のほうだった。


そして、あの道を教えてくれたおばあちゃんのことを、今でも思い出す。

「コナン通りならあっちだよ」

行政が作った名前が、いつの間にか、街の人の、生きた言葉になっていた。

あれこそが、私が二十年追いかけてきた、本物の浸透だった。


空港に名前をつけただけで、街が生き返った。

いや、正確に言おう。

名前をつけただけではない。

たくさんの魅力の中から、たった一つを選び、それを街の全員が、長く掲げ続けた。

その積み重ねが、街を生き返らせたのだ。


私は、娘にこの話をした。

娘は「コナン、行ってみたい」と言った。

一言の力は、五十二歳のおじさんの考えを覆し、十代の娘の心も動かす。

半径五メートルの、うれしい瞬間だった。


本記事を含む一連の記事は、書籍化を視野に入れながら執筆を続けている。あのコナン空港で吹き出した話も、いつか一冊の中の一章になればいいと思っている。


今日からやること、一つだけ。

今日、あなたの仕事でも、商品でも、自分自身でもいい。

「これを、一言で言うと何か」を、紙に書いてみる。

うまく書けなくていい。書けないことに気づくだけでいい。

その「一言を探す問い」から、あなたの周りは、静かに動きはじめる。


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