「あの子コンプレックス」の「あの子」は、ライバルではなかった。──追いかけていたのは、何年も前の星の光だった
この記事はこんな人へ
かつて思い描いていた「理想の自分」に、今も届いていないと感じ続けている人
若い頃に書いた目標や夢を見返して、落ち込んだ経験がある管理職・PM
誰かと比べてではなく、過去の自分と比べて苦しくなることが多い人
=LOVE「あの子コンプレックス」が、なぜ多くの人の心を掴んだのか、その理由を知りたい人
プロローグ
正直に言う。
先日、古いノートを整理していて、20代の頃に書いた「なりたい自分」のメモを見つけた。
そこには、今の僕とは、かなり違う人物像が書かれていた。もっと決断が速く、もっと部下から慕われ、もっと迷いのない人間。
僕はそのメモを見て、しばらく動けなくなった。
あの頃思い描いていた自分に、僕はまだ、なれていなかった。
理由は、まだ分からなかった。
第一章 昔のメモに、押しつぶされそうになった夜
これは、僕自身の話だ。
そのメモを見つけた夜、僕は自分を、静かに責めていた。「20年もPMをやってきて、まだこの程度なのか」と。
比べていたのは、同僚でも、他社のPMでもなかった。20代の自分が思い描いていた、理想の自分だった。
その理想の自分は、もうどこにもいない。でも、僕はずっと、その姿を追いかけ続けていた。
第二章 「あの子」を歌う、3人の声
=LOVEの11thシングル「あの子コンプレックス」は、2022年5月25日に発売された楽曲だ。センターは佐々木舞香さん。
公開されたミュージックビデオは、グループ史上最速で500万回再生を突破し、のちに1,000万回再生を超えるヒットとなった。
同年11月には、佐々木舞香さん、野口衣織さん、諸橋沙夏さんの3名が、YouTube「THE FIRST TAKE」に初登場し、アコースティックアレンジの一発撮りに挑戦している。
作詞を手がけた指原莉乃さんは、インタビューの中で、思春期にはコンプレックスを感じることが多く、誰かを羨ましく思う気持ちに寄り添えるような曲にしたい、という趣旨のことを語っている。
第三章 今夜見える光は、何年前の光か
もう一つ、これは天文学の事実として知られている話だ。
夜空に見える星の光は、その星から届くまでに、長い時間がかかっている。数年、数百年、あるいは何万年も前に、その星を出発した光を、僕らは今、見ている。
つまり、今夜見えている星の姿は、「今この瞬間」のその星の姿とは限らない。すでに形を変えているかもしれないし、場合によっては、もう存在していないかもしれない。
それでも、その光は、確かに美しく、夜空に瞬いている。
三つとも、バラバラの話に見えるかもしれない。昔のメモに押しつぶされそうになった話と、「あの子コンプレックス」という曲の話と、星の光についての話。
きっと、こう思っているはずだ。「全部バラバラじゃないか」と。
その通り。僕も長いあいだ、これらを別々の話だと思っていた。
第四章 多くの人はこう考える
こういう話をすると、たいてい「ただの青春ソング、失恋ソングでしょう」という反応が返ってくる。
半分は正しい。表面上、この曲は、誰かを羨む気持ちを歌った曲として聴くことができる。
でも、それだけでは、「なぜこの曲が、これほど多くの人の胸を締めつけ、グループ史上最速のヒットになったのか」の説明にはならない。
でも、まだ全部は言わない。
第五章 そういうことだったのか
この曲に出てくる「あの子」は、単なるライバルや恋敵として描かれているのではないように、僕には感じられる。
「あの子」は、自分がなりたかった、届かなかった理想の姿の象徴なのではないか。誰かに負けた痛みよりも、「理想の自分になれなかった」という痛みの方が、実はずっと深く、聴く人の胸に刺さる。
そして、星の光の話が、ここで重なってくる。
僕らが「理想の自分」として追いかけているものは、多くの場合、過去のある時点で見た「光」だ。20代の頃に描いた理想像も、その時点での自分が見えていた、精一杯の未来予想図に過ぎない。今の自分を、その過去の光と比べ続けることに、そもそも無理があったのかもしれない。
「あの子コンプレックス」を歌った3人は、グループのデビュー当初には、この曲を、今のようには歌えなかったはずだ。数々の葛藤や挫折を越えてきた今だからこそ、あの円熟した表現ができている。理想に届かなかった自分を否定せず、積み重ねてきた時間ごと引き受けたからこそ、生まれた説得力だったのではないかと、僕は思う。
そして、いちばん大事なことを言う。
あなたが今、かつての理想に届いていないと感じているのだとしたら、それはあなたが劣っているからではない。追いかけているその理想自体が、もう何年も前の光かもしれない。今のあなたが見るべきなのは、過去の光ではなく、今この瞬間、自分が積み重ねてきたものの方だ。
第六章 構造は、仕事にも、AIにも、人生にも、一つだった
PMの現場では
若手の頃に描いていた「理想のPM像」と、今の自分を比べて、落ち込むことがある。人を責めるより、構造を見る。その理想像は、当時のあなたが見えていた、限られた情報の中での光に過ぎない。今のあなたが積み重ねてきた経験は、その光には映っていなかった。
AI活用では
AIは、いつでも「理想的な模範解答」を、すぐに提示してくれる。だからこそ、自分の出したものと、AIの出す理想形とを比べて、落ち込みやすくなる。半径五メートルの中で、AIが示す理想像もまた、一つの「光」に過ぎないと捉え直すことが、健全な付き合い方につながる。
人生では
足し算より引き算。何を大切にしているかで決まる、というのは、まさにこの話だ。過去の理想の自分を追い続けるのではなく、今の自分が積み重ねてきたものを、正しく見つめ直すこと。巡航速度で、自分の現在地を、過去の光ではなく、今の座標で確認し続けること。それが、長期残存価値のある自己受容につながっていく。
構造は、一つだった。
理想に届かないのではなかった。追いかけている理想自体が、もう存在しない過去の光だった。
第七章 じゃあ、あなたはどうする?
さて、ここまで読んで、あなたはもう構造には気づいている。
過去の理想と、今の自分を、切り分けて捉え直す。理屈としては、驚くほどシンプルだ。
でも、ここで難しいことがある。
「自分が今追いかけている理想が、いつの時点の、どんな光なのか」は、渦中にいる間は、自分では見えにくい、ということだ。
答えは、外側にはない。昔のメモにも、今の焦りの中にも、答えは書かれていない。
ここから先では、20年間PMとして現場で培ってきた、実際に使える棚卸しの道具を渡す。
ここから有料エリア(価格:1,980円)
ここから先では、記事だけではない。実際に自分が追いかけている「理想の光」を見つめ直すための
「理想の自分」棚卸しシート
星の光ワークシート
90日自己受容ルーティン
理想と現在地を切り分けるAIプロンプト
「なれなかった自分」と向き合うチェックリスト
を公開する。読むだけで終わらせず、今日から使える資産として持ち帰れるところまで書く。
① 「理想の自分」棚卸しシート
自分が追いかけている理想像を見極める、五つの質問だ。
今、自分を苦しめている「理想の自分」は、いつの時点で思い描いたものか
その理想を描いたとき、自分はどんな情報や経験をもとに、それを思い描いていたか
今の自分は、その理想を描いた頃には持っていなかった、どんな経験を積んでいるか
その理想は、今の状況に照らしても、まだ妥当なものだと言えるか
理想と今の自分を比べる代わりに、比べるべき「今の自分の基準」があるとしたら何か
② 星の光ワークシート
過去の理想と、今の自分を切り分けるシートだ。
自分を苦しめている「理想の自分」を、一つ具体的に書き出す
その理想が、何年前の、どんな自分が描いたものかを特定する
その理想を描いた頃の自分に、今の自分から一言かけるとしたら、何を伝えるかを書く
今の自分にふさわしい、新しい理想像を、一文で書き直してみる
③ 90日自己受容ルーティン
過去の理想ではなく、今の自分を見つめる習慣をつくる手順だ。
最初の30日:理想と現実を比べて落ち込みそうになったとき、「これは何年前の光か」と、一度自分に問いかける
次の30日:今の自分が、当時の自分にはなかった強みを、一つずつ書き留めていく
最後の30日:書き留めた強みを読み返し、今の自分の座標を、自分の言葉で描き直す
90日後、理想との比較で苦しくなる頻度が、どう変わったかを確認する
④ 理想と現在地を切り分けるAIプロンプト
以下のプロンプトを、ChatGPTやClaudeなどの対話AIにそのまま貼り付けて使ってほしい。
あなたは、自己受容とキャリアの振り返りに詳しい
アドバイザーです。
以下の情報をもとに、私が今も追いかけている
「過去に描いた理想の自分」と、
「今の自分がすでに積み重ねてきたもの」を
切り分けて整理してください。
また、過去の理想に縛られず、
今の自分を正しく評価するための視点を
3つ提案してください。
・今、自分を苦しめている「理想の自分」の具体的な姿:
・その理想を描いた時期と、当時の状況:
・今の自分が、当時にはなかった経験として
積み重ねてきたこと:
上記をもとに、率直に、
私自身が気づいていない今の強みも含めて
指摘してください。
⑤ 「なれなかった自分」と向き合うチェックリスト
最後に、過去の理想と健全に向き合うための、六つの確認項目だ。
□ 今の自分を、いつの時点の理想像と比べているかを、自覚できているか □ その理想像が、今も妥当なものかどうかを、見直したことがあるか □ 理想に届かなかったことを、自分の価値そのものの否定にしていないか □ 今の自分が積み重ねてきたものを、具体的に言葉にできるか □ 若い頃の自分に、今の自分から声をかけるとしたら、何を伝えたいか □ 半年後、新しい理想像を、自分の言葉で描き直せているか
答えは書かない。どんな理想を、今の自分の言葉で描き直すかは、あなたにしか選べないからだ。僕が渡せるのは、そのための「盤面」だけだ。
エピローグ
あの古いノートを、僕は結局、捨てなかった。
代わりに、最後のページに、一行だけ書き足した。
「あの頃の理想は、あの頃の光だった。今は、今の光を見る」
昔の自分に、少しだけ、優しくなれた気がした。
本記事を含む一連の記事は、書籍化を視野に入れながら執筆を続けている。
人を責めるより構造を見る。今日も、少し優しくなれる。
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©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090
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