推しの良席のために、理不尽おばあさんに微笑みかけた件
「犬に噛まれたような出来事」ってたまにある。
すれ違ったおじさんが耳元でなんか不平不満っぽいこと言って去っていくとか。バスで並んでいる時横入りされるとか。
この間あったことも、バス待ちの時に起こった。その日の朝、通勤のためバス停に赴き、先客がいなかったので先頭で、本を読みながら待っていたのだった。
いつもと同じ朝、何も変わらない朝。
そのうちバスが接近する音が聞こえてきたので、(あ、来たな〜)と思ったら、後ろから「来ましたよ!」と声がした。
複数人で並んでいて、連れの人に声かけてるのかと思って反応せずにいたら、また「来ましたよ!」って声がした。後ろ振り向いたら、小柄なおばあさんが、こっち見てニヤッてしながら「来ましたよ!」と。
ただ純粋に教えてくれただけなのなら、何も3回も言う必要はないだろう。バスの接近音はすでに聞こえていたから、「存じ上げております」と返したら、そのおばあさんときたら、「早く乗って!」と。
ええええ…バスの方を見やると、ちょうど歩道に向かって斜めに滑り込んでくるところだった。戸も開いていないバスにどうやって乗り込めと?
急いでいるのはなんとなく感じられたから、「お先乗りますか?」と譲ったら、「うん、そうね!全く遅いんだから…」とずかずか乗っていった。
車内では運良く座れたので、本の続きを読もうとしても、表面をツルツル視線が滑るのみだった。
おばあさん、奥の席に座ってたな、今からでも追いかけて横に座って「どういう了見ですか?」と終点まで問い詰めてくれようか…そんな妄想が脳内を駆け巡るばかりで、もはや読書どころじゃない。
おばあさんも相当急いでいたのだろう。だからといって、なんだって私がこんな目に遭うんだろう。
もうこれはこう考えるしかない。交通事故とか、もっと大変で嫌な目にあうはずだったのに、犬、もといおばあさんに噛み付かれただけで済んだ。つまり厄落としができた。
あるいは、相手の失礼な振る舞いに同じ土俵に降りずに、上品に返せた。これは、徳の貯金できちゃったに違いない。これで次の推しのコンサートも良席間違いなしだ!ガハハ!(徳を積めば積むほど、良席が充てがわれるというのが、善行のモチベーションでもある)
厄落としと徳の貯金ができてラッキー、とまで思えたところで、バスはいつの間にか終点についていた。軽快に降り、そのまま駅に向かった。
あのおばあさんに、もう会うことはないだろう。さらばおばあさん、徳を積ませてくれてありがとう。どうぞ達者で。幸せにお暮らしになってね。
と、思ったら。そのおばあさん、目の前を歩いていた。同じホームに向かっていた。
ゆっくり歩いていたので、軽やかに追い越し、ホームで電車待ちながら、本を顔の前に構えつつなんとなく階段の方を見ていると、案の定こちらに向かってくるおばあさん。
ついには、目があったのでニコッて微笑みかけてみた。圧倒的徳感を醸すためと、なにより敵意を向けてくる人には笑顔が一番効く気がする。おばあさんも、さっきバス停でせかした相手だと気がついたようだった。
そのまま私の後ろ通り過ぎるかと思ったら、すぐ後ろで「あなたの方が先だったのね」とぽつりと仰るではないか。
振り返ったら「バス降りて、あなたの方が先に来たのね」とバツが悪そうに苦笑いしている。
「急がれていたんですね」と答えたら、「そうなのよ、バスが遅れてて焦ってて…」とのこと。
そうですか、長い人生焦ることもありましょう。しかし言っていいことと悪いことがあるだろう。蘇る不快感。
満面の笑みを顔に張り付けながら、もうこうなったら言ったれ!と「突然あのように言われたので驚きました」と伝えたら、
「ゲームが始まってしまうから(?ここはよく聞き取れず)焦っていたの。ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
「本当にごめんなさい」
何度も謝ってくれたのだった!
すごいぞ、おばあさん。自分の非を認めて謝れるってかっこいい!うっかり街中で加害・被害の関係になってしまい(私が被害者と思いきや、おばあさんにとっては、私が遅刻を促進する加害者だったかも)、ただの噛みつきおばあさんと化した人が、心ある人間に戻った瞬間を目の当たりにできた。
不機嫌を撒き散らし、なんとなく嫌な思いをさせていく人から直接謝罪してもらえた稀有な体験でした。もう二度と会いたくないから、通勤ルートは変えるけれど!
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