花火の音が、重なった夜 |第2話
裏手の神社は、人気がなかった。 夏の闇と、遠くであがる花火だけが、俺たちを包んでいた。
「……ほんとに偶然だね」
「うん。まさか再会するとは思わなかった」
彼女は石段に腰を下ろすと、草履を脱いで足をくずした。 鼻緒で擦れたらしく、親指の付け根が少し赤くなっていた。
「ちょっと痛いかも」
「大丈夫?」
「見てくれる?」
冗談交じりに足を差し出してきたので、俺は苦笑しながら手を伸ばす。 彼女の足首は冷たく、でもどこか汗ばんでいた。
「……ほら、やっぱ気になる」
「バンソウコウとかないんだよね」
「……だったら、こうするしかないか」
俺はそっと指先でそこを撫でた。 彼女が、小さく息を呑んだのがわかる。
「……なんか、変な感じ」
花火の音が、間近であがる。 どん、と音がして、空が照らされ、彼女の頬がまた赤く染まる。
「昔はさ、ぜんぜん話せなかったのにね」
「……今は?」
「今は……ちゃんと、見てくれてるんだって、思う」
浴衣の袖が、そっと俺の手を包み込む。 細くて、小さな手。 けれど、その温もりははっきりしていた。
「……もっと、こうしてたかったかも」
花火の音にまぎれて、彼女が言った。
「今日が、最後かもしれないから……」
言葉の意味が、胸に深く刺さった。
離れていた時間。 届かなかった思い。 それがいま、ここで、重なりかけている。
「……終わっちゃうね、花火」
「……終わる前に、何かしておきたいことある?」
「あるかも」
そう言って彼女は、ゆっくりと顔を近づけてきた。
花火が最後の光を放つ、その瞬間——
唇が、触れた。
