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「何ひとつ拒否されなかった」。Google EarthのAI画像生成、公開1日で撤回

猫のいる方へ

学生の頃、同じ古本屋でアルバイトをしていた女の子に、地図をまったく見ない人がいた。スマートフォンより前の話だから、正確に言えば、地図を持たない人だった。店主に配達を頼まれると、伝票の住所を一度だけ見て、あとは歩き出す。角に来るたび、迷う気配もなく曲がる。あるとき、理由を訊いてみた。
「どうして道を覚えられるの」
「覚えてないよ」と彼女は言った。「足が勝手に曲がるの」
彼女はときどき「こっち」と言って、頼まれてもいない近道に入った。アーケードの、魚屋の脇の細い路地。天井のガラスから落ちる光が、そこだけ床を白くしていた。理由を訊くと「猫がいるから」とだけ答えた。猫は、いる日といない日があった。
一度だけ、二人で盛大に迷ったことがある。町はずれに新しくできた住宅地で、同じ形の家が同じ角度で並んでいた。彼女は二つ目の角で立ち止まり、しばらく考えて、「ここ、まだ足に馴染んでない」と言った。結局、交番で道を訊いた。彼女の知っている町は、彼女の足が歩いた分だけだった。その外側は、白い紙だった。

僕はといえば、足で覚える代わりに、歩いたことのない町をGoogle Earthで眺める癖がある。行けないままの外国の海岸や、昔住んでいた町の屋根を、上からたどる。Google Earthは2005年から20年間、上から見た世界を、あったとおりに見せることを仕事にしてきた。七月の終わり、そこに「create image」というボタンが付いた。衛星写真の上に、AIで本物そっくりの画像を作れる。史跡の再現や、着工前の完成予想に、とGoogleは説明していた。
ボタンは丸一日もたなかった。画像の真偽を確かめることを生業にする人たちが、その日のうちに片端から試したからだ。調査の専門家ヘンク・ファン・エスは、メキシコ国境の難民、イランの原子力施設、アムステルダムの事故、ガザの病院、と順に作らせて、短く書いた。「何ひとつ拒否されなかった」。翌日、Googleはボタンを引っ込めた。ポリシーに違反するとみられる画像の共有を確認した、より強いガードレールに取り組む間はロールバックする、という文章だった。誤情報の危険があった、という言葉はそこにない。実際に誰かが騙されたという話も、いまのところ出ていない。試したのは、騙す側ではなく、見破る側の人たちだった。発表の文章は、いまも同じページに残っている。その頭の上に、翌日の撤回文が載っている。

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