指示を1回送って席を立ったら、45分後にウェブサイトが公開されていた話
ウェブ制作会社をやっています。
先日、AIに「架空の音楽フェスの公式サイトを作って」と1回だけ指示を送って、席を立ちました。
戻ってきたら、サイトが公開されていました。
トップページ。出演者18組の一覧。ジャンルでの絞り込み。3日分のタイムテーブル。お気に入り登録。自分専用の予定表。予定が重なったときの警告。チケット3プランの比較。会場案内とアクセスとFAQ。
全部、動く状態で。URLを開けば、私以外の人にも見られる状態で。
私がやったのは、最初の指示文を書いて送信ボタンを押しただけです。
コードは1行も書いていません。デザインの修正指示もゼロ。公開ボタンすら、私は押していないんです。
45分でした。
まず、何を指示したか
使ったのはGPT-6 Astra。OpenAIが2026年9月3日に発表した最新モデルの、いちばん深く考えさせるモードです。
指示文で私が書いたのは、こういうことでした。
・誰のためのサイトか(若い音楽ファン、でも初参加の人にも使いやすく) ・何ができないと困るか(絞り込み、重複警告、FAQ……) ・守ってほしい条件(キーボード操作、文字コントラスト、動きを減らしたい人への配慮) ・すべて架空で作ること、架空だと明記すること
逆に、書かなかったことがあります。
色。フォント。レイアウト。「かっこよくして」すら書いていません。
つまり私が書いたのは、デザイン発注書というより要件定義書だったんですね。
ここが今回のいちばんの学びでした。
本当に動くのか、全部触って確かめました
「AIがサイトを作った」という話は世の中に溢れています。
でも、本当に動くのかを1機能ずつ確認した記事は、あまり見かけない。
なので私が全部やりました。ブラウザを自動操作して、実際にボタンを押して、値を入れて、数値を測って。
結果を一部だけ書きます。
ジャンル絞り込み:動きました。Electronicを押すと4組に絞られて、件数表示も変わる。しかも、その件数表示にはスクリーンリーダー用の読み上げ指定が入っていました。
検索結果ゼロ:「まだ出会っていない音が、あるかも。」という文言と、その場で戻れるボタンが出ました。0件で終わらせていない。
予定の重複警告:ここがいちばん驚きました。
わざと時間が重なる2公演を選んだんです。18:00–19:00と18:30–19:30。
出てきた警告がこれでした。
DAY 01 · 18:30–19:00 LUMA KIDS + NAMI.wav
「18:30–19:00」。
重なっている時間帯そのものを計算して出している。
「重複しています」と言うだけなら簡単です。でも実際に何分かぶるかを示すかどうかで、ユーザーの判断は変わるんですよ。30分の重なりなら「前半だけ観て移動しよう」と決められるので。
しかも勝手に片方を消さない。「両方を予定に残せます」と書いたうえで、外し方だけ案内している。
そして注記にこう書いてありました。
移動時間は重複判定に含まれません。
これ、私は指示していません。
でもフェスの現場では、ステージ間の移動で10分かかるから実質かぶる、というケースが山ほどある。その但し書きを、AIが自分で書いていたんです。
文字コントラスト:測りました。本文13.66:1。国際指針の最高基準(7:1)を大きく超えています。
アクセシビリティの機械検査:主要5ページに業界標準の検査ツールをかけたら、4ページが違反0件。1ページだけ「見出しの階層が1段飛んでいる」という軽微な指摘が1件。
正直に言うと、人間が数日かけて作ったサイトを検査して0件で返ってくることは、実務でもそう多くないです。
3体のAIが分担して、互いに検品していた
私は普段、AIエージェントの動きを可視化する自作ツールを動かしています。
今回の制作中も起動していたので、裏側の記録が残っていました。
・Lagrange(0分00秒に起動):フェスのデータ設計 ・Anscombe(1分16秒に起動):アーティストのアートワーク制作 ・Raman(20分56秒に起動):ブラウザでの品質確認
見てほしいのは、3体目のRamanが20分後に生まれていることです。
最初からいたわけじゃない。
データと絵が仕上がってきた段階で、検品担当が後から投入されている。
人間のディレクションとして、あまりに自然な順序でした。
そして、いちばん唸ったのがこれです。
データ設計を担当したLagrangeの最終報告に、こう書いてあったんです。
新たな重大不具合はありません。残る1点:(略)別タブ同期時、開いたモーダルを再描画後に背面ボタンへ復帰しようとします。restoreFocus() はモーダルが開いている場合、その内部を検索対象にすると解消
「できました」じゃないんですよ。
「ここまでできて、残りはこれで、対策はこうです」と報告してくる。
しかも私が公開されているコードを確認したら、その対策が実際に実装されていました。自分で見つけて、報告して、直してから出している。
私が普段、人間のスタッフに求めているのとまったく同じ報告の形でした。
プロとして見た、足りないところ
褒めてばかりでは記事になりません。実測した数字で正直に書きます。
画像が重い。 トップページの初回読み込みで6.86MB。内訳を測ったら、プログラム部分は114KBなのに、画像だけで約9MBありました。桁が2つ違う。実案件なら真っ先に直す部分です。
文字が小さい箇所がある。 注記が10px、ラベルが8px。コントラストは満点でしたが、10pxの日本語は40代以降にはきついです。
データがそのブラウザの中にしかない。 スマホで作った予定はPCでは見られません。ログインやデータベースが要るサイトは、まだこの1発では出てきません。
そしていちばん大事なこと。
中身が全部架空だから成立している、という点です。
私は「出演者名も文章も画像も架空で」と指示しました。だからAIは自由に作れた。
でも実案件では、載せる情報はお客様の中にしかありません。
サービスの強みは何か。誰に届けたいのか。過去に何を言われて、何がうまくいかなかったのか。
この取材と整理こそが、私たちが時間をかけている部分の本体です。
AIは「もっともらしい構造」を秒で出します。でも「御社にしか書けない一文」は出しません。
で、これからどうなるのか
私の会社にはよく、こういう相談が来ます。
スタートアップで予算があまりない。でもサービスの顔になるサイトは、それなりのものを作りたい。
この2つは長いあいだ、両立しにくい要望でした。
クオリティを上げれば工数が増え、工数が増えればコストが上がる。当たり前の話です。制作側にとっても発注側にとってもジレンマで、だから「知り合いのデザイナーに個人的に頼む」みたいな形で折り合いをつけてきたケースも多かったと思います。
今回の45分は、その前提が変わったことを示しています。
「そこそこのクオリティで十分」という要望なら、専門家でなくても、これくらいのものは作れる。
公開まで持っていけるし、独自ドメインを当てることもできる。
これは脅しでもポジショントークでもなく、自分でやってみて出た結論です。
じゃあ制作会社の仕事がなくなるのか。
私はそうは思っていません。変わるのはお金を払う場所だと思っています。
AIで十分になったのは、ページの構成を組む、それらしいデザインを当てる、動く画面を作る、公開する——このあたり。
人間に残るのは、何を載せるかを決める、事実を裏取りする、更新し続ける仕組みを作る、問題が起きたときに責任を持つ——このあたり。
紹介用のLPを1枚。まず初期の公式サイトを立ち上げたい。
この手の依頼は、正直、自分で作ってしまった方が速い時代です。
そう言える会社でありたいと思っています。
最後に、ひとつだけ
今回の検証で私がやった作業——実際に全機能を触って、数値を測って、足りない部分を具体的に指摘する。
これがたぶん、これからの制作会社の仕事なんだと思います。
「作る」から「判断する」へ。
AIが出してきたものを、そのまま信じない。測る。確かめる。足りないところを言葉にする。
そういう役割になっていくんじゃないかと、45分のあいだ席を外していた私は考えていました。
サイトは今も公開しています。中身は全部架空です。
予定を2つ重ねて、警告が出るところまでやってもらうのが、いちばん面白いはずです。
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株式会社カンマン|カンマンの貝出 徳島でウェブ制作とAI活用支援をしています。作る側の視点から、AIで何が変わって何が変わらないのかを書いています。
