桜舞い散る南風 〜いざ大宮! うなぎの乱〜
「お弁当を持って、お花見に行くっていうのはどうだい?」
彼の到着を待っている僕に、彼から連絡が入った。
残念ながら快晴ではないが、サラリーマンの僕らは、日にちを晴れの日に合わせることは難しい。
休日にお花見をするという選択肢しか持っていない。
今年の桜は、たくさん道端に咲いている。
?
そんなことは分かっている、別に桜を一人で見上げたいわけでは無いのだ。
たとえ薄曇りで風があろうとも、お花見として今年の桜を見上げることは、今日しか出来無いのである。
そんな事情がある。
たとえ晴天では無くとも、今年のお花見を最高のパフォーマンスで迎えたい。
そう感じさせる彼の決意であった。
「高架下に、うな◯って言う鰻屋さんがあって、お弁当もあるみたいなんだよ。」
「だから、お弁当持ってお花見に行くっていうのはどうだろう?」
早速彼と合流して、彼がお店からもらったメニュー表を見つめる。
お弁当は何種類かあったが、さすがに『 うなぎ 』である。
最安値のものでも、17◯✕円であった。
想像はしていたが、かなり値が張っていた。
写真の付いていないメニュー表では、内容は想像する他になかった。
うな丼 17◯✕円。
うな玉丼 17◯✕円。
奇しくも同じ値段ではあったが、そこが我々の懐具合からすると限界の値だった。
僕はうな丼で、彼はうな玉丼のお弁当を注文し、うなぎが焼けるのを見つめる。
お昼前でもあり、開店前の準備で忙しそうに大量のうなぎに、手早く次々と焼き目をつけていた。
しばらくして、ようやく出来上がった二つのお弁当のパックには、お店のオリジナルの包装紙が巻かれていた。
まさに、『 うなぎ弁当 』と言う出で立ちにドレスアップされて、僕らの手に渡された。
駅弁と同じように、中に何が入っているのか分からなくさせることで、僕らの期待値を存分に高めてくれる。
「おい・・・、これ、ずっしり重いよ!」
二つ入った弁当の袋は、彼の言う通りにずっしりと重たい。
すでに美味しさを確信した僕らの、大宮公園に向かう足取りは、曇天を吹き飛ばすほどに軽やかであった。
大宮公園は、先日の土曜日は混み合っていたとの情報であったが、本日は曇り空のためか、身動きの取れなくなるほどの混み具合ではなかった。
そうかと言って、寂しいほどでもない。
まさに丁度いい人混みと、ぼんぼりのように満開の桜が僕たちを迎えてくれていた。
レジャーシートは持って来ていなかったのだが、ちょうどベンチにも空きがあった。
一人でお花見を楽しんでいる年配女性に声をかけ、ベンチの隣を失礼する。
嵐の前を思わせる風が曇天より、時折サーッと吹き抜けていく。
まだ花びらの付け根も、その先端と同じ薄い色合いにも関わらず、風に吹かれた花びらがサラサラと舞い降りてくる。
「お〜っ、これはいいな。」
優雅さとは無縁なおじさん達が、一瞬だけ春の風情を満喫する。
「じゃあ、桜を眺めながら、うなぎを食べましょうか?」
心の中は、すでに満開の桜からずっしりと重たいうなぎ弁当へとシフトしていた。
大勢の人がいるこの大宮公園の中で、一体何人の人達がこの食事時に、優雅にうなぎを食べながら桜を見上げているであろうか。
厳重に包まれた包装紙を丁寧にめくっていくと、セロテープでしっかりと止められていた。
このドレスは、なかなか綺麗に脱がすことが難しい。
いつものように脱衣で手間取っている僕を尻目に、彼がうな玉弁当の蓋を開けた。
!?
黄色い卵があらわになる。
「えっ ? 何これ?」
「卵とじなの? これ、うなぎ入っているの?」
そこには、弁当いっぱいに黄色い卵の風景が、ダイナミックに広がっていた。
この海にも似た黄河のどこかに、多分、うなぎが泳いでいるはずである。
「これは、うな丼の方が良かったかもな。」
そう言う彼に対して、僕はある種の優越感を感じながら、膝の上に置いたうな丼の蓋を開いた。
!?
真新しいキャンバスを思わせる白さが広がっていた。
タレのうす雲が全体を覆うご飯の中で、こじんまりとした可愛らしいうなぎと奈良漬が、弁当の片隅で、遠慮がちにススキのような秋を描いていた。
3/4以上の大量のご飯が目視出来る。
このうな丼の消費スケジュールは、綿密に立てても、必ず後で困るほどのバランスの悪さであった。
「これ、どうやって食べればいいのかな?」
鰻玉丼の方が、たとえ黄色い卵であっても、何かが掛かっている分だけ、いくらかまともではないかと思えた。
二人共、黙って桜を見上げる。
しっかりと、僕らの広げる弁当を見ていた隣に座った年配の女性も、すでに美しい春の姿を見上げていた。
時折、風が吹き抜け、花びらが宙を舞っている。
米を食い、卵を食う。
三寒四温。
暖かくなり出した春の中で、気まぐれで嘘のような現実が、不意に吹き抜けていく。
サラサラと美しい満開の桜の花びらの中で、うなぎの夢を味わいながら、ずっしりと重い現実をかき込んでいく。
