月と太陽|私の好きな言葉
ある朝。登校したら、教室が一面白くなっていた。
「初日の出」
「一期一会」
「日々是好日」
綺麗に整って並ぶ文字、最後に縮こまって明らかにスペース不足の文字。
「書き初めにも、らしさが出るんだなぁ。」教室の入り口にしばらく立ちつくし、ぐるりと見渡しながらそう思っていた。
そのとき、ひとつの言葉に目が留まった。
「心に太陽を持て、くちびるに歌を持て」
長半紙いっぱいに伸び伸びと書かれている。
しばらく目が離せなかった。
中学2年生。まだまだひよっこの人生歴だったが、それまでのどの言葉よりも心にずんとくるものを感じていた。
その書き初めはレイナが書いたものだった。
クラスの中で一番明るくて可愛い子。バレー部でエース。
よくとおる声でケラケラと笑った。笑うと出るエクボがとてもチャーミングで、彼女の周りには自然と人が集まった。
ちなみに「レイ」は私と同じ漢字。
そして私は、レイナと同じバレー部で、セッターをしていた。
レイナは太陽だった。そして私は月だった。
話し上手と人見知り、大雑把と慎重派、ショートヘアとロングヘア。
動と静。光と影。
私たちは驚くほど真反対だったのに、親友だった。
大好きな彼女が書いた言葉は、私の大好きな言葉になった。
友人との他愛のないおしゃべり。
どんなに盛り上がっていても、心の中にはどこか冷めたもう独りの私がいて、静かに私のことを見つめている。
そんな言い方して大丈夫?
大袈裟に笑いすぎなんじゃない?
ほうら、あの子が不快に思ったよ。
あーあ、嫌われたんじゃない?
私の耳元でヒソヒソ囁いてくる。
私はそれをまるでコバエを追い払うように頭を振ってかき消しながら、目の前の会話に戻ろうとする。
月は明るいけれど、とても冷たい。
ある日、私のお腹の中に命が生まれた。
お腹が大きくなるにつれ、心の中にあったかいものを感じるようになった。このあったかいものは絶対に失いたくないと思った。私はお腹に手をおいて、祈るように歌った。
生まれてすぐの抱っこ。
まるであたたかいお日さまが、胸に飛び込んできたようだった。抱きしめながら、私は歌った。
私は月だ。太陽にはなれない。
それでも。
夜中に息子が泣く。大切に抱きあげて、私は歌う。
ヒヨコのようによちよち歩く。隣で手を繋ぎながら、私は歌う。
夕暮に自転車を走らせる。赤とんぼを見て、一緒に歌う。
小さな命は、私の心に陽を灯し、あたたかく照らしてくれている。
「心に太陽を持て、くちびるに歌を持て。」
(1,000字)
この作品は、「まきと須川の文藝大賞2026」応募作品です。

「私の好きな〇〇」
ものすごく考えましたが、一番シンプルで、今も私の核となっている「言葉」をテーマにしてみました。
私自身を見つめなおす、とても貴重な経験をさせていただきました。
まきさん、須川さん、そしてりっちゃんさん、素敵な企画をありがとうございました!
それにしても…1,000字はきつい!
文字数ダイエット、本当に苦労しました。
レイナはこの言葉を、「書き初めのお手本帳から選んだだけ」と言っていました。ですので記事を書くにあたり、改めて調べてみました。
私は知らなかったのですが、ドイツの詩人ツェーザル・フライシュレンの詩からきた言葉でした。
日本では、山本有三さんが『心に太陽を持て』の中で訳されたものが有名なようです。
早速その本を購入し、今読んでいる途中です。

詩を全文読むのと、一部を読むのとではまた印象が変わります。
私が全文を知っていたら、恐らくこのエッセイは生まれなかったと思います。
一部を掲載しておきますね。
苦しんでいる人、
なやんでいる人には、
こう、はげましてやろう。
「勇気を失うな。
くちびるに歌を持て。
心に太陽を持て。」
全文はネットなどでも確認できるので、ぜひ。
#まきと須川の文藝大賞2026
#文藝大賞2026
#エッセイ部門

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