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森のくまさんのお名前は?|エッセイ


「かえるを食べに行くんですか?」

幼稚園のお迎え時、戸惑い顔で聞いてきた先生の誤解を解くのに必死だった。

──少し遠いけれど、息子が大好きなパン屋さんで、6月はかえるのパンが売れているんです。それを食べに行くんですよ。


息子は横でうむうむとわたしの説明に頷き、意気揚々と補足する。

「5月はね、おたまじゃくしだったの!」

──そうだね、5月はおたまじゃくしのパンだったんだよね。


「素敵なパン屋さんだね!なんていうパン屋さん?」
「森のくまさん!」

──違うんです!えーと、森のくまさんのお名前は…キャスバルだったかキャスパルだったか…。


5月限定のおたまじゃくしパン
5月限定のおたまじゃくしパン


わたしの悪い癖のひとつに、「ろくに店の名前や商品名を覚えない」というものがある。

常連の店でさえわからなかったり、こっちの店をあっちの店の名前で覚えていたりして、夫にはよく呆れられる。

商品名も、見当違いの名前を言うから物を頼まれる人は大変である。
夫はそれをよく心得ていて、自分の知らない商品名が出た時はしっかり特徴までヒアリングしてくれる。


「チョコぼうき」を食べたい。というわたしのLINEを見て、「チョコバッキー」を買って帰ってきた時には感動した。
かれこれ20年以上の付き合い。阿吽の呼吸というのはこういうことを言うのだろうか(ただの夫の賜物である)。




さて、問題のパン屋さんについて。

遠出をしてコストコへ行く際、よく寄るパン屋さんだ。
とても人気で、木々に囲まれた素敵な外観をしている。

はじめて行った時、息子が「森のくまさん」と言い出した。

ややこしい話だが、「森のくまさん」というパン屋さんは別に存在する。
わたしの故郷である島根県松江市に。
思ってみればこの2つのパン屋さんは雰囲気が驚くほど似ているのだ。
なるほど息子がそう言ったのも頷ける。

以来、わたしと息子の中では「森のくまさん」になった。


そんな塩梅だから、いざという時に名前が出てこないのだ。
森のくまさんのお名前、なんだったっけ。

キャスバルだったか、キャスパルだったか。

先生にはうろ覚えの店名を言って、そそくさと帰ってきた。

ただ、なぜか「キャスバル」には自信があった。




実際の店名は「キャピタル」だった。

──なかなかわたしも良い勘してるじゃないか。

そう思いながら、一緒にかえるを食べるんだと聞かない息子のためにかえるパンを2つ購入し、お外のテラス席に腰を下ろした。
かえるがバカにしたようにこちらを見ている気がして、写真を撮った(サムネイルの写真)。


早速その日の夜、夫に報告する。
──キャスバルとキャピタル。2文字しか違わなかった。凄くない?


すると夫は、何を言っているんだこいつはというような顔をしながら、
「キャスバルなんてパン屋さんがあったら見てみたい。」と言う。まるでキャスバルを知っているような口ぶりである。


──キャスバルってなんだっけ?頭の中にポンと浮かんできたんだけど…なんか聞いたことあるんだよね。


と、首をかしげるわたしに、
「だろうね。」
と夫は鼻で笑った。

「キャスバルなんて、モビルスーツのパンでも売ってるんかなと思われるわ。似てるなんて言ったら怒られるで。」


──あ。



キャスバル・レム・ダイクン。
機動戦士ガンダムに出てくる赤い彗星シャアの本名である。

なるほど、聞き覚えがあるはずだ。


「幼稚園の先生が若くて良かったわ」
続けて夫は言う。

その通りだ。
あの反応は、「えっ、赤い彗星?」とは思わなかったはず。きっと気づいていないはずだ。




でも、そういえば。

──わたしは「キャスパル」とも言った。これだって似ているじゃないか。そうは思わんかね?

そう夫に食いつくと、
「それは〇〇にあるスーパーの名前やん」と一蹴された。


あぁなんと紛らわしいことだ。
世の中には似たような名前がゴロゴロあるのだ。




問題なのは、わたしの中でますますキャスバルの印象が強くなってしまったことだ。


「森のくまさんのお名前?えーっとね、キャスバルって名前に近かったんだけど」
「えっ、ガンダム?」

こんな会話を今後2度と起こさないためにも、きちんと覚えなければ(そもそも店名を覚えないことは失礼である)。


noteに書けば本来の店名を覚えられるのではと思ったのだが、事態は思った以上に深刻らしい。
キャスバルはもちろんのこと、キャスパルと打っても、キャピタルと打っても、頭の中に池田秀一さんの声が聞こえてくる。

挙げ句の果てに、タイピングの最中にキャパトルという新しい名前までも作り出してしまい、もはやどれが正しいのかパニックになってしまった。


「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを」


残念なことに、これは若さではなく老化なのかもしれない。




石窯パン工房 キャピタル

カレーパンとトンカツサンドが人気。ホットコーヒーの無料サービスが嬉しい。
わたしの好きなのは、
…「ハーブの香り豊かなとても美味しいウインナーが入っているフランクフルトの小さい版のようなパン」である。


石窯パン工房 森のくまさんはこちら。
木々に囲まれ、テラス席があるのがキャピタルと良く似ている。種類がとても豊富で店を何周もしてしまう。こちらも無料コーヒーサービスがある。




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