🧸育児エッセイ|鈍色の空に、大きな虹を見た日。
スーパーの入り口で、わたしと息子は立ち尽くしていた。
外は突然の夕立で真っ白だ。
横なぐりの雨が、びゅうびゅうと音を立てて吹き荒んでいる。
「これじゃあ、車に行けないねぇ…(わたし)」
「んー、そうだっ!おもちゃ売り場にいこっか(息子)」
そう言って、にこにこ顔でこちらを見る息子を横目に、わたしはスマホへ目を落とす。
時刻は16:50。
雨雲レーダー
「15分後に雨が止みます」
夕刻の15分間がどれだけ貴重な時間か、ママならわかるだろう。
小さなため息をひとつつき、わたしは心を決めた。
「抱っこするよ!走る!」
15キロの大台に乗った息子と
食材が詰め込まれたエコバッグを抱えて
真っ白な世界へ走り出す。
停めやすいから。と、広い駐車場の隅っこへ駐車した自分を呪いながら必死で走った。
30メートルくらい?
なんて長いんだろう!(え?)
「ヤァーーーーー!」
なぜかテンションが上がり、なかやまきんにくん化してしまった息子、
形が崩れたエコバッグ(卵大丈夫?)
ヘトヘトになった自分の体。
やっとのことで、全部車に押し込んだ。
予想以上にびしょびしょだ。
しかも少し寒い。
「めっちゃ濡れたね。寒くない?」
急いでタオルを取り出して息子を拭こうとしたその時。
「ママ見て!虹だよ!!」
息子のはずんだ声が、寒さを吹き飛ばした。
それは大きな…本当に大きな虹だった。
街全体を覆うように円を描き、7つの色がキラキラと輝いている。
「うわぁぁ、すごいねー!きれいだね!」
…!!
その言葉に驚いて、わたしは思わず振り向いた。
”うわぁ”
”すごいね”
”きれいだね”
息子の「感性の声」。
わたしはこの言葉を待っていた。
「ねぇ見て!このお花、綺麗だね🌼」
「すごーい✨このお魚美味しいね!」
そんな言葉をいくら投げかけてもずっと無反応だった息子。
きれい!とか、すごい!とか。
そんな簡単なことでいいから
この子が五感でなにかを感じ、心が震えた瞬間の声を聞いてみたい。
ずっとそう思ってきた。
だから嬉しかった。
びしょびしょの息子をひざに乗せ、
しばらく、雨の向こうの虹をふたりで眺めた。
「虹蔵(かく)れて見えず」
という言葉を、ふと思い出す。
寒くなって日差しが弱まり、
どこかどんよりした空が多くなる冬は、
虹を見ることが少なくなる。
そんな意味の言葉だ。
今年最後の虹かもしれないな。
ぼんやりと思う。
すぐ感傷的な気持ちになるのはわたしの悪い癖だ。
でもそれは、ほんの一瞬の感情だった。
「虹、見れてよかったねぇ!」
パチンと弾けるような息子の声が、あっという間にわたしを光の方へと導いてくれた。
それはまるで鈍色の空にきらきらと輝く、あの虹のようだった。


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