第11章:ブラッククリニックの実態
理想と現実のギャップ
結婚を機に新天地での生活をスタートさせた私は、よりよい収入と働きやすさを求めて、あるクリニックへの転職を決意した。
──が、入ってみるとそこは、想像とはまったく違う世界だった。
まず院長。
いわゆる「オラオラ系」ではないが、人を小馬鹿にしたような物言いが多く、誰かを褒める姿を一度も見たことがない。スタッフからの提案にはすぐに「そんなの無駄やろ」と切り捨て、少しでもコストがかかる話になると、ネチネチと小言を言ってくる。
一方で、自分は高級車を複数台所有し、趣味には惜しみなく散財。医療の話題よりも、売上や経費のことばかり気にしていた。
経営者として数字に強いのは必要なことかもしれない。だが、もう少しだけ患者に寄り添う姿勢もあっていいのでは……と、日々モヤモヤが募っていった。
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女性社会の壁
さらに厄介だったのが、院長以外のスタッフが全員女性だったこと。
もちろん、女性が多い職場が悪いわけではない。
問題は、その中で幅を利かせていた“お局的存在”のおばちゃん看護師と事務員たち。
リハビリ職への理解は皆無に等しく、力仕事や手間のかかる業務はすべてこちらに丸投げ。
休憩室では常に誰かの陰口が飛び交い、笑い声の裏にどす黒い空気が漂っていた。
それが自分のことではなくても、精神的にじわじわ効いてくる。
そして、そんな雰囲気の中では、誰にも何も相談できない。
居心地の悪さだけが日ごとに積み重なっていった。
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その制度、ギリギリじゃなくて完全アウトです。
このクリニック、制度面もなかなか“攻めている”。
まず、**「変則労働制」**を導入しているのだが、これがクセモノ。
建前としては「1日8.5時間勤務で週6日、うち週2回は4時間の半日勤務」とされていた。
──が、実態は違った。
患者対応が終わってからの書類整理や備品管理、院長からの細かい業務命令などで、毎日10時間以上の拘束が当たり前。
昼休憩もまともに取れず、下手すればサービス残業すら発生していた。
ここで労働基準法の基本をおさらいしておこう。
労働時間の原則は「1日8時間、週40時間まで」。これを超えた時間外労働には割増賃金の支払いが義務付けられている。
有給休暇は労働者の権利で、会社が労働者の同意なく勝手に消化することは原則違法だ。
また、変則労働制は法に則って正しく運用しなければ違法となる。
つまり、ここでの10時間拘束は明らかに法定労働時間を超えており、割増賃金が支払われていない可能性が高い。
加えて、有給を本人の意思に関係なく「お盆」や「年末年始」に強制消化するのは労働基準法違反である。
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実利のない約束
この院長、口ではよく「頑張ってくれたら給料上げるからな」「うちは実力主義やで」なんて言う。
が、実際に給料が上がった試しはない。
「来年には昇給するって言ってませんでしたっけ?」と聞いても、「あ〜、まあ、それは様子見てやな」とあいまいに流される始末。
どれだけ成果を出しても、院長の気分次第ですべてがひっくり返る不安定な評価制度。
どこまでも信用ならない、そんな職場だった。
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次章へ──反撃の一歩
心身ともに疲弊していた私だったが、ここで終わるわけにはいかなかった。
ある日、何気なく見ていたYouTubeで出会った“節約・投資系YouTuber”たち。
「月10万円の配当金を得る方法」「FIREするために取る行動」「資産1000万を越えると勝ち組」など、これまでの自分の価値観をひっくり返すような情報が、次々と目に飛び込んできた。
──それは、人生を変える“反撃の一歩”だった。
だが一方で、私は心の奥で自分自身を責めてもいた。
あれだけ「二度とブラックなんか行かへん」と誓ったのに。
ブラックの雰囲気には人一倍鼻が効いたはずやのに、また引っかかってもうた……
なにをやってるんや、ほんま。
自分の見る目のなさ、決断力の弱さ、そして現実を直視しきれなかった甘さ──。
情けなさでいっぱいになりながらも、「今度こそ抜け出したる」という決意が、私の中に静かに灯っていた。
