かまど炊きホクホクごはんと通訳案内
通訳ガイドのぶんちょうです。
今日は、ハワイの日系3世さんへの通訳案内の話です。
70代後半の女性。日本からハワイへの移住が始まったのは、明治時代のようです。今70代で3世という年齢を考えると、1世である、彼女の祖父母がハワイの地を踏んだのは明治初期でしょう。
ハワイ在住の日系の方が来日されて案内する機会は、ままあるのですが、日系と聞くと、いつも何となく親しみを感じます。「平たい顔族」(テルマエ・ロマエからの言葉)効果か?同士よ!
彼女は来日経験も数回あるため、一般的な観光は最小限に留めた「体験もの」の多いツアー内容でした。
観光地をめぐるだけではなく、体験、つまり、茶道をしたり、和太鼓をたたいてみたり、着物を着て歩くなどの経験をちょっとだけするプログラムは人気で、なかには、本物の日本刀を扱うものなど、普通に暮らす日本人が滅多に体験できないようなこともします。
このような体験は、観光客の便宜を図り、都会のど真ん中で行われるのが主流です。
ですが、今回は神奈川県にある古民家で「かまどでご飯を炊き、味噌汁を作る」ものでした。私にとっても初のツアー内容で、なんて楽しそう!とワクワク。
その時のインスタグラムこちらです。
東京のホテルから専用車で出発して走ること2時間。会話していると、あっという間に着いた感じです。いつもは大都市の観光地の雑踏の中で案内をすることが多いので、目の前に田んぼが広がる、静かな田園風景を見た時、私自身の心がふーっと安らぐのを感じました。
5月末のこと。ちょうど田植えが先週終わったばかりだという田んぼには、一面に水が張られ、等間隔に植えられた苗は、まだ頼りなげです。半年後には沢山のお米を黄金色の稲穂に蓄えて、収穫の日が来るのを待つことになるでしょう。
そんなことを、考えてから立派な古民家の門をくぐりました。元は、地元の名主さんの家だったそうで、敷地内に蔵や水車までありました。
職業柄、各地で沢山の古民家を見てきましたが、観光客のひとりとして、中を覗いて通る程度です。でも今日は、家の中で料理をして、囲炉裏端でそれをいただくというものです。
そして、いよいよ、ご飯炊きから。
大きな、ずっしりと重たい釜に入れた生米を、屋外の井戸の水で米を研ぐところから始まります。3世さんは、日頃からお米研ぎをしているので慣れた手つきです。言われずとも、指の関節を物差しにして水の分量も測っていました。さすが日本人!(かな?)そして、その釜を家の中へ運び、かまどに乗せます。
かまどの前で「トトロの世界ですね」と指導してくださる若い男性に私は感想を漏らしました。「そうですか?」とにこやかにお兄さん。きっと、かまど使いが日常になっているのですね。
火吹き棒の使い方を教えていただき、試してみるお客様。「通訳さんもよかったら」と勧めてくださいました。ひゃー、うれしい!いつもお客様の体験するところを見ている仕事なので、実際に何かを体験させていただけると、ものすごーくうれしいです。
かまどは、3つの火口と鍋を置く場所(コンロなら五徳がある場所)があり、それぞれにお釜や鍋を乗せます。右端でご飯を炊き、真ん中はお茶沸かし用、左端はおかずを作る鍋用だそうです。
それぞれは、内部でつながっていて、直接、薪をくべない真ん中は火力が弱いので、お茶を温めておくのに使うとのこと。3つ共、中がつながっていたのか。なるほどですね。同時に調理することで熱を有効に使えます。
薪をくべたかまどに、火吹き棒で口から空気を送り込みます。炎が赤々と燃えていくのが、よく見えます。電気と違い、鍋釜の材料が温まっていくのが実感できます。
ご飯が炊き上がるまでは、外を散歩しながらタケノコ狩り。市販でよく見る太いタケノコではなく真竹のシーズンだそう。その細身のタケノコをナタでさっと刈り取ります。
採ったタケノコを片手に家に戻ると、ちょうど、ご飯が炊ける時間。さあ、どうでしょう。分厚い木の蓋を持ち上げると、ふわーっと湯気が、築300年の古民家の天井へと立ち上っていきます。
木のしゃもじで、さっくりとご飯をすくうと、白いツヤツヤごはんが!このごはんだけでごちそうですよ。薪で火力を調節するという高度な技を使い、20代の男性スタッフが見事に炊いてくれた
、これはもう作品です。ここへ来て、電気の炊飯器のごはんが食べられなくなっちゃったという彼の気持ちがわかる気がしました。
みんなで囲炉裏を囲んで座り、雑談しながら食事の時間です。タケノコは焼くだけ。手作りの醤油麹でいただきました。採れたてのタケノコはえぐみも全くなく、こんなにホクホクしたおいしいタケノコをいただいたのは初めてです。
ハワイからのおふたりも、味と雰囲気を最高に楽しんでいらっしゃいました。普段の生活で日本語を使うことは全くないとおっしゃっていましたが、前世代、前々世代から受け継がれた日本の味は今も楽しんでいらっしゃるとのこと。
ハワイという、日本とは文化も言葉も全く違う国に生まれ育っても、子どもの頃に覚えたであろう日本の味を舌はちゃんと記憶しているのですね。
奇しくも今、令和米騒動のまっただ中ですが、お米のおいしさ、お米が中心の日本の食文化、永遠に継承されるといいですね。
