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1.「東京発・脂汗経由、四国行き。」

2023年9月3日仕事終わり間近の18時

そこには、今回の旅のために新調したばかりの輪行袋が待っていた。

前に使っていた輪行袋は、いい具合にゆとりがあって、前輪を外して自転車を入れてしまえば「はい終了!」という感じだった。

ところが今回の新しい相棒は違った。

きっちり計算して、パズルのように自転車を収めないと、チャックが絶対に閉まらない。

「……え?」

「ちょ、まじで入らないんだけど!?」

旅の始まりから、まさかの自転車収納パズル。

時計を見る。

18時30分過ぎ。

店から東京駅までは約1時間40分ちょい。

そして、絶対に乗り遅れてはいけないサンライズ瀬戸の発車は21時50分。

……。

あれ?

これ、余裕なくない?

いや、余裕がないどころか、

普通にヤバくない??

そこから店内で、自転車を相手に一人で格闘開始。

「ここをこうして……いや違う!」

「なんで閉まらんの!?」

仕事終わりの疲労+焦り+輪行袋の謎仕様。

体中から脂汗が一気に吹き出してきた。

どうしよう
この時自転車置いて行こうとか
でも現地でUber稼ぎたいしとか
自転車なかったら移動がめんどくさいしとか
最悪を考えておこうかとか
でもせっかく新しい輪行袋買った意味がなくなるしとかいろいろ考えてたら変な汗が噴き出してきた、、、

約15分後。

なんとかチャックをねじ伏せることに成功。

もう完璧に収納できたかなんてどうでもいい。

閉まった。

それだけで勝利だった。

輪行袋を担ぎ、ほぼ逃げるように店を飛び出す。

旅のスタートから、すでに汗だく。

まだ東京にも着いていない。


なんとか電車に滑り込み、21時過ぎに東京駅へ。

ここまで来れば、あとはサンライズに乗るだけ。

……と思ったら、そう簡単にはいかなかった。

次なる敵は、

「乗車券の発券」

元々、切符は有人の窓口でゆっくり買う予定だった。

ところが東京駅に着いてみると、

人。
人。
人。

「人多すぎィ!!」

東京駅の巨大な人間迷路に飲み込まれながら、スマホの画面と睨めっこ。

時間は刻々と過ぎていく。

焦りつつも、予定通り有人の窓口へダッシュ。

無事に切符をゲット。

よし。

そのままNewDaysへ突撃。

酒、つまみ、おにぎり。

「これも!」

「これも!」

「まあ、これもいるだろ!」

完全に旅モードに入った勢いで商品を鷲掴みにして、そのままホームへ。

そして――
聞こえてきた。

サンライズの入線メロディー。

初めて聴く、あの独特の電子音。

さっきまで、

「輪行袋閉まらねぇ!」

「時間ねぇ!」

「東京駅どこだ!」

と脂汗を流していた人間とは思えない。

その音を聞いた瞬間、

全部どうでもよくなった。


かっこよ!


「……来た。」

「これから四国行くんだ。」

テンション、爆上がり。

さっきまでの絶望はどこへやら。

旅、始まった。



サンライズに乗り込む。

狭い。

でも、いい。

この狭さがなんとも言えない。

個室に入ると、そこには自分だけの小さな秘密基地が完成した。

服は確か新しいのに着替えました
ウバックはとりあえずここ
糖質オフ

サンライズが発車した

しばらくして

部屋を暗くして、窓の外を見る。

東京の夜景が、ゆっくりと後ろへ流れていく。

「うん……悪くない。」

いや、

めちゃくちゃ最高じゃん。

さっきまで輪行袋と死闘を繰り広げていたことなんて、もう完全に忘れている。

そして、この日のもう一つのお楽しみがあった。

毎週めちゃくちゃ楽しみにしていた日曜劇場、
『VIVANT』の見逃し配信。

酒を片手に、

車窓には夜景。

個室。

サンライズ。

そしてVIVANT。

「いやー、最高だなぁ……」

仕事終わりからここまでの苦労が、全部報われた気がした。

現在、熱海あたりを通過していた。








?、
、、、


ん?

どこ、ここ?


そしてアナウンスが
「本日もサンライズ瀬戸・出雲にご乗車いただきありがとうございます。この電車はあと30分で岡山に到着します。」

…………。


は?

一瞬、意味が理解できない。


「…………岡山?」

待て待て待て。

夜中に岐阜を通過するところを見る予定だった。

京都も見る予定だった。

もしかしたら大阪あたりまで起きているつもりだった。

そして何より、
サンライズの夜景を楽しむつもりだった。

それが――

全部寝た。

全部。

きれいさっぱり。

途中経過、ゼロ。

車窓の記憶、ゼロ。

残っているのは、

「熱海の手前までは起きていた気がする」
という、あまりにも頼りない記憶だけ。

サンライズの抜群の寝心地と、仕事終わりの疲労そして酒。

この三つが組み合わさった結果、
計画していた「夜行列車を満喫する旅」は、
ただの超高級な睡眠になった。


ただただボーゼンとした


「岡山まであと30分……」かあ

寝ぼけた頭で、ようやく状況を理解する。

もうこうなったら仕方ない。

もし起きてなければ楽しみにしていた切り離し作業も人生初の瀬戸大橋を渡る瞬間も見逃していたかもしれない。

ここで目を覚ました自分を褒めてあげよう、、、

そして岡山駅に到着。

とりあえずお約束の一枚。

サンライズの連結部分

とりあえずパシャリ


閉まったからパシャリ


……寝た。

でも、

サンライズには乗った。

しかも、

めちゃくちゃよく寝た。

そしてここから、いよいよ四国へ向かう。

岡山を出発し、瀬戸大橋を渡る。

朝日が目に染みるぜ
にしても晴れ男
ガラスに映る3本の空き缶がなぜか憎い


さっきまで東京の夜景を見ていたはずなのに

気づけば目の前には瀬戸内海。

そして――

四国上陸。

旅はまだ始まったばかり。

ただし、この時点ではまだ知らない。

この先も、

「予定通りにいかない旅」

が続いていくことを……。


短い間だったけどありがとう


とんがってるねー

つづく

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