見出し画像

認知症の母と家電と、積み重なっていく私のストレス

私の母は認知症で、要支援1の認定を受けている。一人暮らしを続けているが、いつもと変わりない日常を送る分には、まだ支障はないようだ。私は隔週の週末、様子を見に実家に通っている。

実家に着くとまず、「どこか行きたいところや、用事はないか」と尋ねる。今回もいつも通り聞いてみると——

「なんかあったけど、なんやったっけ??」(しばらく考え込む)

「あっ……」(黙り込む)  
「あっ……」(やっぱり黙り込む)

しばらく待つが、じわじわと私の心に焦燥感が募っていく。

これが最初に私にやってくるストレスタイム。思い出す時もあれば、「もういいや」とあきらめてしまうこともある。

今回は、思い出した。
「掃除機が壊れたから、新しいのを買いに連れて行って」

ここ数年、母から「電化製品がおかしい」という訴えを聞く機会が増えた。大半は本人が気づかぬうちに設定を変えてしまっただけ、というケースだ。

「どんなふうに壊れたのか」と問うと、「本体のフタがちゃんと閉まらない」との返答だ。確かに言う通りの状態だったが、どうやら故障ではなさそうだ。
紙パックの取り付け方が間違っているのでは、と推測した。ただ、我が家は紙パック式ではないサイクロン式の掃除機を使っているため、よく分からない。

「説明書を見たい」と言うと、
「そんな見ても分からんものは邪魔になるから捨てた」と、バッサリ。
見るのはあなたではなく私。捨てるなら、いろんな家電の不具合を直してくれと言わないでほしい。

「これからは、家電の説明書は絶対に捨てないように」と毎度のことだが念を押すと、
「はい、分かりました」といつも気持ちの良い返事が返ってくる。が、決してその通りにはしてくれない。

「この中にあるかも」と、母が数冊の説明書を持ってきたが、掃除機のものは見当たらない。
「じゃあ、もうこれ捨てといたらええな」と母が言った。

(あの〜、さっき私何と言いましたか?説明書は捨てないでと言ったはずですが。)

喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
何度言っても、すぐに忘れてしまうからだ。もしくは理解できていないのだろう。

こんなふうに、言いたいことを伝えず、心に留めておくことが増えたな、と最近よく思う。

とりあえず掃除機を持ち帰り、電子版の説明書をダウンロードして調べた。実家にはWi-Fiがないため、その場では調べられないからだ。
推測通り、紙パックを取り替える際の手順が間違っていただけで、壊れてはいなかった。説明書があれば持ち帰らずとも済んだのにと、少々腹立たしい。

掃除機はこれで解決したが、次は電話で気になることが出てきた。

私はいつも電話の発着信履歴を確認する。実家の今の電話機は、登録済みの番号からの着信は相手の名前を読み上げ、それ以外の番号からは「迷惑電話の可能性があります。ご注意ください」というガイダンスが流れる仕様になっている。

「名前を読み上げない電話には、絶対に出ないように」と何度も繰り返し伝えているのだが、なぜか時々出ている。今回も、見知らぬ番号からの着信に1回出ていた形跡があった。
電話機には通話録音機能があるので聞いてみると、エアコン清掃業者を名乗る営業の電話だった。

録音からは、母のこんな声が聞こえてきた。
「私、おばあちゃんだから、何も分かりません」
「一人暮らしだから、使っているエアコンは少ないです」

なんて事を……。
背筋が凍りつきそうだった。詐欺や迷惑電話の相手には絶対に言ってはいけないことを、次々と口にしている。

「一人暮らしとか、おばあちゃんとか、そんなこと知らん人に言ったらあかんで」と注意すると、母は「そうなん?」とキョトンとした顔をした。こんなことが分からなくなってきているのか。

セールスの電話に出たくないと言うので今の電話機に変えたのだが、うまくいかないものだ。
昔ながらの「ベルが鳴る」電話を長年使用してきたからだろう。アナウンスでの着信にはなかなか馴染めないようである。びっくりして電話に出てしまうようだ。

実家に帰ると、いつもこんなふうに心穏やかではいられない、小さなイライラが増えている。

先日、介護保険更新申請の案内が届いた。介護認定を受けてから、もうすぐ1年が経とうとしている。
小さくはあるが、こうした「あれ?」と思うことが積み重なってきている。
今の母の『危うさ』を調査員に、どううまく伝えられるだろうか。

いいなと思ったら応援しよう!