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新作「英之・昔の恋」06-07 (Hideyuki no koi) 2001年 新世界物語

『昔の恋』のあらすじ
二千一年、冬。大阪・新世界の居酒屋「雅子」に、夫婦がやってくる。 それは、店主・鈴木英之の大学時代の友人・田中と、三十年前に英之を捨てたかつての恋人・美子だった。
教師を辞め、船場の大店の社長に収まり、絵に描いたような幸せを手に入れたはずの二人。しかし、平成不況の荒波と親族の裏切りにより、大店は三十億の負債を抱えて倒産寸前に追い込まれていた。
激しい掴み合いの過去、引き裂かれた原因である「差別」、そして美子が秘めていた命の罰。 後日届いた一通の手紙が、三十年間逃げ続けてきた英之、そして偽りの幸せに縋っていた美子の心を、本当の意味で解放していく。

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「高子ちゃん、ビールついだって」
「はーい」
 高子は田中と美子に二人にビールをついだ。美子は飲み干した英之のコップを見て、ビールを注いだ。
「すんまへんな、奥さん…。田中、教師をやってんのやて」
「高校に十年ほど勤めていたんやけど、お父さんが、いや美子のお父さんがどうしても店をついでくれというもんで」
「そうか、船場の『丸吉』の三代目か」
「毎日、資金繰りで四苦八苦してるよ」
「わしらと違う世界の話やな」
 そうは言ったものの、英之には田中がやつれて見えた。大店の社長の風情を感じる事はできなかった。
「兄が店を継いだのですが、どうしても商売に向いていないようなので…。父が田中に店を継がせると強く言うものですから、教師を辞めて慣れない商売をやって貰っています」
 美子も変わった。あのはち切れるような、わがままをまるで太陽のように発散させていた若い頃の面影はなかった。
「僕にはとてもできないと言って断ったんやけど…」
 しかし、田中は大店の社長になっている。英之を美子から引き離した美子の父と兄が選んだ男だ。そして何よりも美子が選んだ男だ。英之は、自分を殴った美子の兄を思い出していた。
 英之と美子が付き合っていることを知った美子の父は、英之の家族が同和地区で暮らしている事を調べた。そして美子の父と二人で英之の下宿に押しかけてきた。
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話しがこじれ、興奮した美子の兄は英之を殴った。どこか粗暴な感じのする男だった。あれから三十年、美子の兄は商売の上で不始末をしでかしたのかもしれない、それで田中に店をまかせたのではないかと英之は思った。
「子供は二人います。男の子と女の子」
「ほんまに、絵に描いたように幸せそうな家族やな」
 二人を笑わせるつもりで言ったのだが、重苦しい空気が流れた。雅子が調理場から顔を覗かせ、そんな三人の様子を見つめていた。突然、田中が姿勢を正して頭を下げた。
「英之、すまなかった」
 美子も頭を下げた。
「すみませんでした」
「やめてんか。そんなことせんといて」
 岡島達もじっと英之達を見つめていた。気まずい雰囲気が狭い店内に流れた。
「おーい雅子、CDかけてんか。陽気にやらんとな、陽気が一番や」
 音楽が流れてくると、英之はいつも岡島達とやっているように手拍子で唄いだした。しかし、素直に楽しめなかった。やがて胸が苦しくなり店の外に出た。雅子が英之のそばへやってきた。
「どないしましたん?」
「何か目に入ったんや」
「そうでっか、でもお友達の方が心配しますよ、はよ戻ったらんと」

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