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惨死伝 〜墨子の盾と春秋の風〜8

惨死伝8

惨死伝序・1 処刑場処刑場 
2・3 賀備(がび))の登場/蓁英(しんえい)の処刑
4・5 蓁英(しんえい)の処刑/王の登場  
6 王の独白
7 老臣の不安
8 牢獄の王母
9 賀備(がび))の戦い
10 子儀(しぎ)盲目の少年の死
11 賀備(がび))の苦悩老人の言葉
12・13  反乱軍、砦を襲う
14・15 捕虜を陣地へ
16・17 反乱軍と過す捕虜の兵士達  王の城を攻める
18・19  王の城を攻める
20・21 勇士の死 崩壊を始めた城
22・23・24 牙をつきたてる王。

1. 墨子(ぼくし)とその思想:最強の防御集団

墨子は、単なる思想家ではなく、**「ハイテク技術を持った軍事エンジニア集団」**のリーダーという側面があります。

  • 兼愛(けんあい): 「すべての人を平等に愛せよ」という教え。

  • 非攻(ひこう): 侵略戦争を否定。ただし、守るための戦いは肯定しました。

  • 墨守(ぼくしゅ): 墨子が城を守り抜いた故事から「信念を頑固に守る」意味の言葉になりました。

  • 軍事技術: 雲梯(うんてい・攻城用はしご)を無力化する装置や、地下道を掘って侵入する敵を撃退する煙幕など、当時の最新兵器に精通していました。

2. 春秋戦国時代の「空気感」

紀元前770年から紀元前221年まで、中国全土が戦乱に明け暮れた時代です。

項目特徴社会の状態「下剋上」の始まり。力がある者が王になる時代。諸子百家墨子のほか、孔子(儒教)、老子(道教)、孫子(兵法)など、天才たちが競い合った。生活環境青銅器から鉄器への過渡期。人々の移動には馬車が使われ、連絡は竹簡(竹の札)に文字を書いていました。

8(牢獄)
気のふれた王(おう)の母が閉じこめられている。
小さな窓から朝の光が差し込めている。
王(おう)母 「この世のことは誰に尋ねればよいのでしょう。天か、それとも私が慈しみ育てた    子供達にか。ああ! 恐ろしい。私の産んだ子が、その兄弟達を食べている。そ    の口に滴る血の何ておぞましいこと。その怪物はますます大きくなり実の父まで    食べてしまった。
   獣でもそのようなことはしない。だが、人であるからこそできるのか。何の知恵    もない私。誰か教えて欲しい。
    私もやがてその怪物に食べられれしまうの?」
小鳥のさえずりが聞こえてくる。
小鳥達、何羽も窓から入ってくる。
王(おう)母 「さあ、帰ってきたのだね。おまえ達の可愛い声。外ではもう光が満ちあふれてい    るのだ。
   私も緑の野で子供達と楽しいときを過ごした。どの子も母である私を慕い、その    無邪気な笑顔で歓ばせてくれた。
   こうやって、眼を閉じると水のせせらぎも聞こえてくるようだ。王(おう)であり優しい    夫であるあの方は、いつも私達を見守っておられた。
   たとえ、黒雲が空を覆い、雷鳴が轟こうともあの方のおそばにいるだけで、春の    日差しの中にいるように穏やかだった。
(王(おう)母、顔を曇らせる。)
   どうしてあの子は怪物になってしまったの。人の心がこんなにも恐ろしく変わっ    てしまうなんて。いくら考えても私には分からない。考えれば考えるほど私は苦    しくなってしまう。でも私は知りたい。なぜあの子が変わってしまったのか。
   もう止めましょう。私も鳥達のように歌いたい。ただ歌って日がな一日を過ごし    たい。歌声と光があるだけで、私の心は満たされる。
   さあ、歌いましょう。おまえ達も、そして子供達も。
(王(おう)母、突然に)
  やめて! やめて! なぜ私の子供達を殺すの。それは私の子供よ。私の命を分    けた子供!」
下手(しもて)より鶯花(おうか)と侍女(じじょ)登場。
鶯花(おうか) 「お母上様、お母上様」
王(おう)母 「誰、私を母と呼ぶのは」
鶯花(おうか) 「鶯花(おうか)です。お気分はいかがですか?」
王(おう)母 「私の気分を問うのかああ、この気分とやらをどのうに言えば分かってもらえるの    でしょう。私を鷲ずかみにして、そして引き裂いてしまうこの気分を」
鶯花(おうか) 「何かお役に立てることはないかと思い、忍んでまいりました。どうか、何なりと    おいいつけください」
王(おう)母 「おまえに何ができるというのかえ。その腹からあの怪物の子を何匹産み落とそう    というのか」
鶯花(おうか) 「お許しください。私にはおっしゃるとうり何の力もありません。ただお母上様の    気が少しでも晴れればと思い…」
王(おう)母 「優しいことを言ってくれる。ありがとう。(間)
   私は狂っているのです。でもおまえにも分かるでしょう。狂わずにいることの方    が間違っている。だから私は、狂っていなくて狂っているのです。
   今日は何を持ってきてくれたの」
  侍女(じじょ)、王(おう)母にバスケットから食べ物をわたす。
王(おう)母 「私は毎朝こうして、小鳥達に餌をあげるの」
王(おう)母、小鳥達を手に乗せる。もの悲しげな眼でじっと小鳥をみつめている。
やがて表情を変えずに小鳥を絞め殺す。
侍女(じじょ)、思わず声をあげようとするが、口に手をあてる。
王(おう)母 「ああ… 今日も一羽死んでしまった」
鶯花(おうか)、侍女(じじょ)を王(おう)母から引き離す。
鶯花(おうか) 「あの人は毎日ああやって小鳥を殺しているのです。でも自分が殺したとは思って    いない」
王(おう)母 「おまえのお墓を作ってあげる」
王(おう)母、牢獄に小鳥を置く。ライトそれを照らす。死んだ小鳥達が何十羽と並んで
いる。
王(おう)母 「帰るがいい。私も王(おう)妃と呼ばれた女。狂っているとはいってもね。
    おまえの一族を皆殺し、おまえの国を滅ぼしたのは私の子でありおまえの夫だ。    肉親を殺されたのはおまえも私も同じ。
   しかし、私はこうして牢に閉じこめられ、おまえはあいつの閨で夜毎抱かれてい    る。おまえは私の心の憎悪の火をいつもあおるようにやってくる。優しい言葉で    語りかけてくれるが、私の狂気は一層激しくなる。おまえは、私が狂うのが嬉し    いのでしょう。 さあ! 帰るのです」
ライト、鶯花(おうか)と侍女(じじょ)だけを照らす。
鶯花(おうか) 「どう思う。あの人を」
侍女(じじょ) 「狂っておられます。なぜ小さな鳥達をああも無残に殺すのでしょう」
鶯花(おうか) 「濁った血が何代にもわたり交じり合い、おぞましい狂気となったのです」
侍女(じじょ) 「すると王(おう)も…」
鶯花(おうか) 「命あるものを殺し尽くすのがあの狂気の正体」
侍女(じじょ) 「おぞましい。」
鶯花(おうか) 「あの狂気に私達は滅亡させられたのです」
鶯花(おうか)、遠くを見つめる。眼に涙が光る。
侍女(じじょ) 「鶯花(おうか)様は、蓁英(しんえい)様を愛していらっしゃるのですね」
鶯花(おうか) 「愛… なんて恐ろしい言葉なのでしょう」
侍女(じじょ) 「蓁英(しんえい)様はあなたのために命を投げ棄て、そしてその一族も皆殺されてしまった」
鶯花(おうか) 「あの方は私を愛してくださった。もし、そうでなければ、あの方もあんな惨い目    に会わずにすんだ」
侍女(じじょ) 「蓁英(しんえい)様の愛はいまもあなた様の心の中にいきています」
鶯花(おうか) 「それを知っているのは私とおまえだけ。誰に知られたくもない。私は、私の国の    神々に誓ったのです。この国を呪うことを。この国を滅ぼすことを」
───暗転 ───

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