『寝たふり』
朝が満ちていく音の中で、
少しだけ布団に潜っていた。
騒がしさと優しさが混ざる、家族の朝。
“寝たふり”のまま見える世界もある。
子どもが起きて騒いでいる。
朝からサーカスでも始まったのかなと思った。
寝たふりをして、様子をうかがう。
足音が台所から聞こえてくる。
フライパンの音と、笑い声。
家の中に、朝が満ちていく。
ほんとうは目を開けて、
「おはよう」と言えばいいだけのことなんだ。
布団の中の世界は、
いまのところいちばん平和に保たれている。
ドンドンとした音が近づいてきた。
布団の端をトランポリンみたいに跳ねながら、
「パパ、まだ寝てるの?」と聞く。
寝たふりのまま、心の中で返事をした。
もう少しだけ。
この“もう少し”が、どれだけ尊い時間か、
親になって初めてわかった。
静けさと騒がしさのあいだ。
目を閉じていれば、
世界はまだ優しく見える。
小さな体が布団の上によじ登ってきた。
僕の顔の上にそっと乗っかるようにして、
「もう起きてよー」
目を開けると、
太陽がカーテンの隙間から
まぶしく差し込んでいた。
そして思った。
明日もきっと…
僕は寝たふりをするだろう。
☕️あとがき
子どもが小さい頃の朝は、
戦場のようで、宝物みたい。
もう少し寝かせてほしいのに、
あの時間がいちばん幸せ。
そんな朝の“ゆらぎ”を残したくて書きました。
夜が明けて、朝が始まりました。
次は「演じる人たち」へ。
(シリーズ:ゆらぎの中で ― 日のゆらぎ編/朝)
どこから読んでも、世界は静かに回っている。
今日という日が、少し優しく始まりますように。
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