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ずっと同じ地平を見てきた

正しいことを学んできたはずなのに、
どこかで、ずっと噛み合っていない感覚があった。

説明はできる。理屈も分かる。
それでも、決定的な何かが抜け落ちている気がしていた。
この文章は、その「抜け落ちているもの」を探した記録です。
答えではなく、状態について。
ずっと同じ地平を見続けてきた、ひとりの視点の話です。


第1章 それは、違和感から始まった

正しさに触れているのに、どこか足元が浮く。
名前のつかない引っかかりは、いつも静かに始まる。

ノウハウに違和感を覚えた最初の瞬間を、はっきりとは覚えていません。
ただ、気づいたときには、手順や方法論が書かれた文章を読んでいても、どこか地に足がつかない感じがしていました。
間違ってはいない。でも、そこではない。
ずっとそんな感覚がありました。

描かれてきたすべての、その先に。

第2章 思考は、同時に鳴る

考えているというより、受信している。
整理される前の世界が、そのまま届いてしまう。

思考は、一本の線ではありませんでした。
同時にいくつもの像が立ち上がり、音が鳴り、言葉になる前の塊が頭の中を行き交います。
まるで、複数のラジオが同時に鳴っていて、どれか一つを選ぶ前に、すべてが一瞬ずつ耳に触れていくような感じです。

集中できないわけではありません。
むしろ逆で、常に受信感度が高すぎる状態でした。
情報が多いのではなく、世界との距離が近すぎる。
まだ形になっていない気配まで、まとめて届いてしまう。
だから、整理する前に、まず“在ってしまう”のです。


第3章 やり方が、言葉にならない

順序を聞かれても、答えが出てこない。
始まりが、そもそも言葉ではないから。

だから「やり方」を聞かれると困ります。
順序立てて説明できません。
なぜなら、始まりが言葉ではないからです。
先にあるのは、ビジュアルであり、気配であり、完成形の影のようなもの。
論理はあとから追いついてくるか、あるいは最後まで来ないこともあります。


第4章 理由ではなく、状態を見る

説明がなくても、伝わってしまう日がある。
人は、原因より先に“違い”を感じ取る。

スポーツを見ていても、同じ感覚があります。
ロードレースの解説で語られる「バッドデイ」。
理由は詳しく説明されません。
ただ「今日は合わなかった」と言われるだけです。

それでも、観ている側は分かってしまう。
ペダルの重さや風向きの話がなくても、
画面越しに、何かが噛み合っていないことだけは伝わってくる。
原因ではなく、状態を見ているからです。


第5章 同じなのに、違ってしまう夜

同じ言葉、同じ動き、同じ段取り。
それでも、帰り道の空気は変わってしまう。

芸人が言う「今日は客が悪い」。
演出家が言う「今日は観客を宇宙に連れて行けた」。
同じネタ、同じ芝居、同じ段取り。
それでも結果はまったく違います。

そこにあるのは、構造の差ではありません。
場と人と状態が噛み合ったかどうか。
終演後、同じ席から立ち上がったはずなのに、
帰り道の足取りがまるで違ってしまう。
それだけの差です。


第6章 書くのではなく、通る

力を入れた瞬間に、遠ざかるものがある。
近づくのは、手放したときだ。

作家が言う「今日はペンが走る」も同じです。
技術が急に上がったわけではありません。
論理が整理できたわけでもない。
ただ、迷いが消え、行為と結果の距離がなくなった状態。
書いているのではなく、通過している感覚でした。


第7章 極限で、選択肢が消えた

考える前に、もうそこにある。
意志より先に、形が現れる瞬間。

人生で数回、極限のときにだけ起きたことがあります。
白紙の上に、絵が浮かびました。
時間の感覚が薄れ、選択肢というものが消えていた。
考えていない。選んでいない。
ただ、そこに在った。

あれは才能の証明ではありません。
長年積み重ねたものが、余計な雑音をすべて失った瞬間に、
圧縮された形で現れただけです。


第8章 理屈の外側を生きる人たち

一度、向こう側を知ってしまうと、
戻れない場所がある。

だから、僕は自分がすごいとは思いません。
むしろ逆です。
ほんの少し触れてしまったからこそ分かる。
あれを当たり前に出力する人間が、この世界にはいる。
トップランナーと呼ばれる人たち。
化け物たちです。

彼らは理屈の外側を知っています。
構造を完成させた先に、まだ別の地平があることを、体で知っている。
だから、ベテランほどAIを脅威だとは感じません。
理詰めで届く世界が、すでに通過点だと分かっているからです。


第9章 結果では測れない距離

小さく見えるのは、立っている場所のせいだ。
見ている方向が違うだけ。

結果だけを見れば、僕は取るに足らない存在かもしれません。
逆算すれば、小さく見えるでしょう。
それも事実です。
でも、見ている景色が違うだけです。


終章 地平は、いつも先にある

辿り着いたと思った瞬間に、また遠ざかる。
それでも、人は歩き続けてしまう。

天上はどこにあるのだろう、と時々思います。
けれどそれは、到達したい場所ではありません。
進むたびに、さらに遠くへ引いていく地平のことです。
近づいたと思った瞬間に、また先が見える。

結局、分かったことはひとつだけでした。
人の心を揺さぶるものは、ロジックや構造の内側にはありません。
その外側、言語が追いつかない場所にあります。

そして僕は、ずっとそこを見てきた。
ただ、それだけの話です。


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