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【放課後ライティング俱楽部/シロクマ文芸部】熱帯夜de読書

 1.
 熱帯夜は読書に限る。言うまでもなく、寝落ち狙いだ。

 寝室にはエアコンが付けられない構造で、室温が30℃になるとリビングに枕と毛布を持ち込むことになる。

 2.
 今夜の1冊を選ぶ、私的トーナメント戦は、帰りの電車の中で吊革に体重を預けた脳内で始まった。1回戦は「梟示抄」と「球形の荒野」(いずれも松本清張)。「球形の荒野」はTVドラマで見ると消化不良を起こし、全集を手に取ることになるが、私にとっては手に余る長編である。
 その点「梟示抄」は短いのが良い。

 3.
 2回戦は「梟示抄」(松本清張)と「カンザキさん」(ピンク地底人3号)である。「梟示抄」には宇和島が登場するので、そこで本を閉じて脳内の記憶を反芻し、おもむろに寝落ちすることを目論んでいるが、展開が安らかとはいえない。
 「カンザキさん」では少なくとも誰も死なない。ちがった意味できわどいところを狙ってくるものの、「神との対話」をベースにしているので安心して読める。ただ、酷暑とかぶる場面では、会社の近くの街中華で、うっかり食べ過ぎたピリ辛チャーハンが正しく消化されるよう、気を付けるに越したことはないだろう。

 4.
 最近は、履歴書も電子データで作成できる。検索すれば、無料の履歴書作成サービスというものまでヒットする。それまで、黒インクの色味だとか、紙質がどうとか、紙の履歴書しか知らなかった私にとって、その発見はキラキラするほど画期的だった。

 WEBで作成した履歴書をメールに添付して送信できるのが令和らしい。
 前に私が履歴書書いていたのは平成半ばだったから、手書きのアナログ派でも許されていたのかもしれないけど、きっと今は絶滅危惧種。

 3回戦は、「カンザキさん」(ピンク地底人3号)と「オリガ・モリソヴナの反語法」(米原万里)を脳内で戦わせてみる。ささやかな個人の、ささやかな今夜の1冊なので、そこは温かく見守って頂きたい。
 米原氏の長編小説は長い夜を味わえそうだ。ただ、本が分厚い。寝落ちで落とすと痛そう。そして眠くなるか、鋭い描写に逆に目が冴えてしまうか微妙なところになる。

 5. 

──もしかしてカンザキさんは「神」のメタファーなんでしょうか。

 はい。本作は神との対話を試み、拒否され、翻弄される人間の話でもあります。明確に「ヨブ記」を意識していますね。

青春と読書  ピンク地底人3号氏インタビューより抜粋

 
 私は、正社員で雇用されていたメーカーの現場で、新卒で入社した10年後輩から

「私は神で、おまえに天啓を与える。おまえは私を信仰するのだ」
 
 と、ありがたい掲示を受けたことがある。

「こぶたちゃん どうしたの」飯野和好 /福音館書店 

 人は見た目で判断してはいけないが、どちらかというと10年後輩の見た目は美女よりは、控えめに言って野獣よりだった。食べても肥えるし、食べなくても痩せないとこぼしつつ、休日はドカ食いと言っていたから、今は立派な若年メタボとして、その界隈に君臨しているかもしれないが、私は退職したので知らない。

 したがって「カンザキさん」は、かなり笑える。

 退職し、新しい仕事からもまた転職する今となっては、あのとき感じた理不尽さがコントにすら見えてくるのだ。

 今夜も笑いすぎたあげく、フタが甘かった日焼け止めが転がり、白い液体が流れてしまった。 
 
【終】

 

「カンザキさん」ピンク地底人3号 2026年集英社(野間文芸新人賞)
著者インタビュー:青春と読書

《今週の三題噺》

1.ピリ辛チャーハン
2.トーナメント戦
3.日焼け止め



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