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同じ場所#36「お別れの歌/never young beach」

この物語は、タイトルの曲を聴いたときに完成します。
物語の世界と曲を一緒に楽しんでください。


引っ越しの前日だった。
拓海は広くなった部屋で、いつか捨てるが一応取っておいてあるものを適当に入れた、無印の大きな箱を開ける。
これが最後の仕分け作業だった。
いらないものは右に積み、取っておくものは左に積む。
時間を逆行していくような作業だった。
大学4年の授業レジュメの間には、当時映画館で見たリバイバル映画のパンフレットがあったり、その映画を見る前に読んでいた本が出てきたり、もっと進んでいくと、大学3年の授業レジュメが出てきた。
中身を少しだけ読んでみたりして、物思いにふける。
どれも思い入れが微かにあるものばかりで、左に積みそうになるが、心を鬼にして、右へ積む。

大学二年生くらいまで時が進む。
ここからは元カノとの痕跡が多くみられた。
拓海はもうなくなったと思っていた彼女の匂いを感じて肩を落とす。
レジュメには彼女が描いた落書きがあったり、男同士で行くわけがない水族館の案内図など、なんで取っておいているのかわからない紙切れがたくさん残っていて、嫌気がさす。
右へ右へと積んでいると、箱の奥の方から前に使っていたiPhoneが出てきた。
iPhoneは大分前の機種で、まだホームボタンがついていた。
拓海は電源とホームボタンを同時に押してみる。
再起動の仕方をよく覚えていたなと自分に驚いた。
画面には、充電切れのサインが表示された。
拓海は自分のiPhoneを充電器から外し、前のiPhoneを付ける。

仕分け作業を終わらせた頃、もう一度iPhoneの電源とホームボタンを押してみる。
appleのロゴが表示され電源がついた。
冷凍保存されていた記憶が解凍されるように、ロック画面が浮き出る。
パスコードを入力してみるが、開かない。
もう一度。
開かない。
まさかと思い、彼女の誕生日を打ち込む。
ロックが外れた。

積み上がった段ボールを背にして座り、iPhoneを眺める。
当時の乱雑なホーム画面にイライラしながら、Google Photoのアイコンを探す。
Google Photoには、高校3年生から大学2年生までの写真や動画が綺麗に収まっていた。
ホーム画面とは大違いだ。
写真を一枚ずつ見返すと、高校時代の雑な写真が並ぶ。
映えを意識して、綺麗に撮ることなど知らなかった拓海の写真達は当時の雰囲気がそのまま残っていて、なんだかお洒落にまで見えてきた。
卒業式の写真達を超えると、大学時代がやってきた。
さっきまで時間を逆行しているようだったのに、写真は時間と並行している。
1日で数年を往復するのは、拓海にとっても初めての経験である。
しばらくすると、あの元カノの写真やらが並ぶ。
さっき箱の中から出てきた紙切れと、同じ日の写真が並ぶ。
拓海は何も考えずに写真をスクロールし続ける。
ただ、それだけの時間だった。

拓海は古いiPhoneを右に積み、外へ出る。


この物語の曲:「お別れの歌/never young beach」

読み終わった後に聞いてみると、物語がさらに立体的になります。

ぜひ、曲とともに、物語の余韻を味わってください。

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