【エッセイしりとり】時間が流れるということ
時間が流れる。
それは、時計の秒針がぐるぐると回って、分針と連動し、最後には時針が重く動くことである。
そして、人間が寝ている間に、時針が横のカレンダーへと手を伸ばして、日めくりの一枚をゴミ箱へ放り込むことでもある。
私は、先日、気になっていた大学のオープンキャンパスに行ってきた。
事前に予約していた模擬授業を受け、配られたテキストに取り組み、その大学の雰囲気を身体で感じ取ってから、帰りの電車に飛び乗った。
その帰り道、懐かしい声に鼓膜が揺らされた。
「○○ちゃん?」
振り返ると、そこにいたのは中学進学を機に疎遠になり、それ以来会っていなかった、あの子であった。
けれど、記憶の中の姿とは大分違う。
目元には紅色のチークが施されて、耳元には大きな輪っかのイヤリングが揺れていた。
私が知らぬ間に、驚くほど可愛く垢抜けていたのだった。
「なんか、可愛いね」
そう笑みを浮かべながら、私の胸に押し寄せていたのは懐かしさだけではなかった。
過去のあの子がいなくなってしまった寂しさ、そして自分自身に対する強烈な劣等感である。
隣のあの子が抱いている「私」のイメージは、きっと、誰とでも気兼ねなくコミュニケーションを取れていた頃の私だ。
それなのに、あの子と会わないうちに、私はほんの少しの発言ですら怖がるようになってしまった。
張り詰めるような空気の中、私は金魚のように口をパクパクとさせ、「凄いね」とだけを繰り返す。
時は刻一刻と過ぎていき、アナウンスが最寄り駅を告げると、ともに改札を横切った。
「じゃあ、バイバイ」
帰る道が違うからと私が手を振ると、あの子が一瞬だけ眉を曇らせた。
「もうちょい、一緒に帰ろうよ」
そう言って、体重をこちらへ傾けてくる。
懐かしい重み。
目が細長く潰れるあどけない笑顔。
身体の奥底から過去の感覚が蘇り、胸を満たしていた邪な感情が空へ解けていくのがわかった。
あの子につられるようにして、「仕方ないな」という顔を作ると、久しぶりに大きく動かした表情筋が痛みを訴えた。
時間が流れる。
変わってしまったものは、もちろん沢山あった。
あの子の趣味、口癖。
そして、私の人間関係への臆病さ。
だけど、変わらないものも確かにそこにあった。
あの子がおねだりする時の笑い方やそれを受け入れてしまう私の癖。
時間の流れは容赦なく、過去を押し流していく。
けれど、あの子と過ごした楽しかった時間は、変わらずそこへ残り続けていたのであった。
マイキーさんの「エッセイしりとり」という企画に参加させていただきました。
エッセイの基準が分からず、エッセイになっているのか不安ですが、あたたかく読んでいただけたらと思います。
また、今日の午前中に投稿した7/26の描写練習と内容が重なっている点がありますが、そこには目を瞑っていただけると、ありがたいです。
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました。
