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【イベント参加レポート】福島の食を未来へつなぐ挑戦

こんにちは。株式会社リアルインベント 広報の山本です。

福島県が主催するセミナーシリーズ「ローカルシフト福島」は、地域との“関わりしろ”を探る全5回の連続企画。
移住や定住といった形に限らず、都市と地域を柔らかく結ぶ「関係人口」をテーマに、多彩なゲストの実践を共有してきました。

これまで vol.1 から vol.4 では、「ゆるやかな関わり」「巻き込む力」「飲むことを通じた関係」「カフェから見えるつながり」といった切り口で、福島と人が交わる可能性を描き出してきました。

そして今回、9月10日に開催されたのは第5回。
テーマは「福島の食を育て、形にして届ける人たちの想い」。

農業、水産、飲食という食の異なるフィールドで活動する3名のゲストが登壇し、参加者とともに“福島の食の未来”を語り合った時間をレポートします。


🍅 トマトで地域をつなぐテーマパーク|元木 寛さん(ワンダーファーム代表)

大熊町出身の元木さんは、大学卒業後に東京でJRへ就職し、鉄道の設備設計や工事監督といったインフラの仕事に携わっていました。都会の中心で働きながらも、週末になれば地元・福島へ戻り、大好きなサーフィンに打ち込む日々。その「どうしても海のそばで暮らしたい」という純粋な気持ちが、後に農業へ挑戦する大きなきっかけとなりました。

ただ、サーフィンを続けたいからといって、生活の基盤がなければ成り立ちません。そこで目を向けたのが農業でした。妻の実家が米農家であったことも背中を押し、「食べるものがあれば生きていける」と思い立った元木さんは、思い切って東京を離れ、福島に戻る決断をしたのです。

最初に取り組んだのは米作り。しかし、当時の米農業は収入面で厳しく「このままではやっていけない」と感じることも多かったといいます。そこで新たに選んだ作物が「トマト」でした。

福島・いわき市は「東北のハワイ」と呼ばれるほど日照時間が長く、雪が少ない温暖な気候。加えて海風のおかげで夏も比較的涼しく、全国的にも珍しい“一年を通じてトマトが栽培できる土地”だったのです。消費量が多く、単価も安定しているトマトは経営の視点からも理想的であり、地域の環境条件とも合致していました。こうして本格的にトマト栽培をスタートさせます。

しかし、現実は甘くありませんでした。農業の経験はゼロ。栽培の知識もなく、最初の数年間は赤字続き。それでも試行錯誤を繰り返し、5年ほど経ってようやく手応えを感じ始めた矢先、東日本大震災が襲います。放射能被害の風評も加わり、経営は存続の危機に立たされました。
「会社をたたむしかない」――そんな思いが頭をよぎる中でも、「東京から仕事を辞めて戻ってきたのだから、ここで諦めたくない」と強い意志で踏みとどまったといいます。

やがて立ち上げたのが、農業と観光を融合させた「ワンダーファーム」です。単なる農園ではなく、トマトをテーマにした“地域の交流拠点”。直売所やレストラン、体験型の施設を備え、訪れた人が農業の魅力に触れられる場となりました。現在では年間に約1500トンものトマトを出荷し、大手スーパーや外食チェーンでも広く取り扱われています。

ただし農業には「規格外品」という課題が常につきまといます。形や大きさが少しでも基準を外れると市場に出せず、廃棄や自家消費に回すしかありません。元木さんの農園でも、全体の5%前後、年間で50トン以上ものトマトが規格外として残ってしまう状況がありました。
「せっかく育てたトマトを捨てるのはあまりにももったいない」――そう考えた元木さんは、規格外品を加工品へと生まれ変わらせる取り組みに挑戦します。ジュースやソース、トマト味噌、スイーツまで多彩な商品を開発。これにより廃棄を減らすだけでなく、農業の価値を新しい形で消費者に届けることにもつながりました。

「震災で一度は諦めかけた。でも“人と人をつなぐハブを作る”という思いがあったから続けてこられた」

そう語る元木さんの言葉には、農業を単なる生産活動として捉えるのではなく、地域の人々や訪れる人々をつなぐ“場づくり”として発展させたいという確固たる覚悟が込められています。トマトという一つの作物を通じて、人が出会い、語り合い、福島の未来を描く。その挑戦は、食と地域を結ぶ新しい物語を紡ぎ続けています。

🐟 常磐ものを未来へ届ける挑戦|小野崎 雄一さん(株式会社小野崎商店 代表取締役/鮮魚店4代目)

「常磐もの」とは、福島県沿岸で水揚げされる魚介類の総称です。黒潮と親潮が交わる豊かな漁場で育まれる魚は、脂のりが良く、身が引き締まっていることで知られています。江戸時代から「常磐ものは日本一」と称され、東京の市場でも高値で取引されてきました。まさに福島が全国に誇る“食のブランド”です。

しかし、その誇り高いブランドも、2011年の東日本大震災と原発事故により深刻な打撃を受けました。放射能の影響を懸念する声から出荷制限が続き、長く「福島の魚は食べられない」と思われてしまったのです。港に魚は戻ってきても市場に出せない。多くの漁業者と同じく、小野崎商店も厳しい現実に直面しました。

それでも、海と魚を諦めることはありませんでした。震災直後から続けられた徹底的なモニタリング検査により、漁獲された魚が基準を大幅に下回っていることは科学的に示されてきました。小野崎さんは「ただ安全だと説明するだけではなく、どうすれば人々に安心して食べてもらえるか」を考え、取り組みを重ねてきました。

その一つが、いわき市・小名浜港での体験型イベントです。漁師が水揚げしたばかりの魚をその場で提供し、参加者が漁師から直接「常磐もの」の魅力を聞きながら味わう。そこには単なる試食を超えた交流の場が広がっていました。地元の家族連れや観光客が集まり、「美味しい」「また食べたい」と声をあげる。その反応は漁業者にとっても大きな励みとなり、「食べてもらうことが次の漁につながる」という実感を生む機会になりました。

また、小野崎さんは次世代を担う若者との連携にも力を入れています。福島の高校生たちと共に商品開発を行い、水産加工会社と協力してサバの味噌煮缶や新しい海鮮丼メニューを考案しました。生徒たちにとっては「自分のアイデアが形になり、地域の魚を広める」という貴重な経験となり、地域を誇りに思う気持ちを育てるきっかけになりました。小野崎さんは「若い世代が海や魚に触れ、自分ごととして捉えることこそ未来につながる」と語ります。

現在、漁獲量は震災前の2割程度にとどまっていますが、小野崎さんは「量」ではなく「価値」を大切にしています。限られた水揚げだからこそ、一匹一匹の魚を丁寧に扱い、どう届けるかに工夫を凝らす。店頭では「この魚は〇〇漁港で今朝水揚げされたものです」といった情報を添え、消費者が魚を通じて漁師や海の背景を知ることができるようにしています。

「常磐ものはただの魚ではなく、地域の誇りを取り戻す象徴です」
小野崎さんはそう語ります。震災を経て改めて見えたのは、魚そのものの価値だけでなく、それを支える人や文化のつながりでした。漁業者、飲食店、観光業、そして消費者が一体となり、「常磐もの」というブランドを守り、未来に手渡していく。その取り組みは今も続いています。

鮮魚店の4代目として受け継いできた責任。震災を経験した世代として果たすべき役割。そして、地域の仲間と共に新しい時代を切り開こうとする姿勢。小野崎さんの挑戦は、魚を届ける仕事を超えて「地域の物語を未来へつなぐ営み」となっています。

🍶 熱燗とアートで双葉を描く|髙崎 丈さん(料理人/アートプロジェクト発起人)

福島は米どころとして知られ、酒造りの歴史も長い地域です。なかでも会津地方は雪解け水が豊富で、良質な酒米「五百万石」や「夢の香」が育ちやすい土壌を持ち、数多くの酒蔵が集まっています。冬の寒さが発酵をゆっくり進め、旨味を引き出すこともあり、全国の酒ファンから「福島の酒は外れがない」と言われるほど高い評価を受けています。全国新酒鑑評会での金賞受賞数も常に上位に入り、その実力は折り紙付きです。

その酒文化を新しい形で広げたいと考えたのが、料理人でありアートプロジェクトの発起人でもある髙崎さんです。彼が取り組むのは、日本酒の中でも「熱燗」に焦点を当て、それをアートと掛け合わせるという挑戦です。酒蔵や古民家といった場を舞台に、杜氏が厳選した酒を熱燗でふるまい、絵画や工芸、音楽など多様なアートが空間を彩ります。

熱燗は日本酒の飲み方の中でも特に奥深いものです。温度によって香りや味わいが変化し、甘みや酸味が立体的に広がる。その魅力を五感で体験できるように工夫された場では、「日本酒を飲む」という行為が嗜好品を超え、文化的な体験へと昇華していきます。湯気を立てる盃を片手に絵画を眺め、工芸品に触れ、耳には音楽が流れる。気づけば隣の席の人と自然に会話が生まれている――そこには“酒が人をつなぐ”という日本古来の文化が息づいていました。

イベントを訪れた人からは「ただの試飲会ではなく、作品や人と一緒に味わうから記憶に残る」「ここに来て良かったと感じる」といった声が寄せられています。観光客にとっては「アートと酒を同時に楽しむ特別な体験」となり、地元の人にとっては「自分たちの文化を再発見する機会」として受け止められています。

ある酒蔵の若手杜氏は熱燗の魅力をこう語りました。
「冷酒ももちろん美味しい。でも、熱燗にすると酒米の旨味や甘み、酸味がより立体的に感じられる。寒い会津の冬だからこそ、熱燗は人の心を温める飲み方なんです」
この言葉からも分かるように、熱燗は単なる飲み方ではなく、土地の風土や暮らしと深く結びついた文化そのものだといえます。

さらに、髙崎さんが大切にしているのは「アートとの相互作用」です。参加したアーティストの一人は「作品を見てもらう場が広がるだけでなく、日本酒をきっかけに普段出会わない人と交流できるのが嬉しい」と語りました。酒蔵が一夜限りのギャラリーに変わり、ギャラリーが居酒屋のように賑わう。そんな不思議な変化が町に息づき、新しい交流の文化を生んでいます。

そしてこの取り組みを、震災と原発事故で大きな被害を受けた双葉町でも広げていきたいと、髙崎さんは考えています。人を呼び戻すには「特別な理由」が必要です。そこで「熱燗とアート」をきっかけに、人が自然と集まり、語り合える場をつくろうとしているのです。双葉で地元の人と一緒に酒を酌み交わし、アートを鑑賞する時間は、訪れた人に「ここでしか味わえない体験」を届けると同時に、町の再生へとつながる一歩となります。

熱燗の湯気に包まれながらアートを味わう夜。そこに広がっていたのは、会津の伝統と双葉の挑戦、そして現代文化が交わる豊かな時間でした。日本酒は単なる飲み物ではなく、人と町をつなぎ、新しい文化を育てる“媒介”となっている――髙崎さんの活動は、そのことを鮮やかに示していました。

🤝 地元を盛り上げる本質とは

ディスカッションで繰り返し語られたのは「地元の盛り上がりは内発的なもの」という考え方でした。外からのイベントやキャンペーンは一時的な効果にとどまり、継続には地元の人たち自身の「やりたい」「必要だ」という思いと行動が欠かせない――この点に多くの参加者がうなずいていました。

農業では規格外トマトを加工し新しい価値を生み出す工夫、水産業では常磐ものの信頼を取り戻す粘り強い努力、飲食や観光では「この町にこんな店が欲しい」という純粋な動機から生まれる挑戦が紹介されました。これらはすべて、外部からの支援ではなく、地元の人の主体性によって動き出した取り組みです。

参加者の声も印象的でした。「外から応援してもらうのはありがたい。でもまず自分たちが“面白い”と思えなければ何も始まらない」「地元の人が自分の町を誇れることが一番の観光資源になる」。地域を動かす本当の力は“人の気持ち”にあることが伝わってきました。

📝 「届ける」ための工夫と実践

最後の質疑応答で会場から投げかけられたのは、シンプルかつ本質的な問いでした。
「どうすれば届けたい人に、本当に届くのか?」

SNSや広告を通じて広く情報を発信することはできる。しかし、その情報が受け取り手の心に響き、実際に「行ってみたい」「食べてみたい」と行動に結びつくには、何が必要なのか。参加者の多くが関心を寄せたテーマでした。

ゲストたちが共通して語った答えは、実にシンプルなものでした。
それは「他にはない価値を提供すること」。

🍅 トマトの事例では、一年を通じて安定した供給が可能な「東北のハワイ」と呼ばれる気候を強みにしたこと。さらに規格外品を加工品へと展開し、単なる農産物にとどまらず“トマトで広がる体験”を提供している点が、ファンを生み出しています。

🐟 魚の事例では、「常磐もの」という歴史あるブランドそのものが差別化の源泉。単なる魚介ではなく、「この海でしか育たない誇りある味」として発信し続ける姿勢が、消費者の共感を呼んでいます。震災後の試練を経たからこそ、そのストーリーが一層強い魅力を放っているのです。

🍶 日本酒の事例では、冷酒だけでなく熱燗という飲み方を改めて見直し、「会津の冬に寄り添う文化」として体験化する工夫が紹介されました。そこにアートや音楽を組み合わせることで、単なる試飲イベントを超えた“物語に出会う体験”が生まれています。

いずれの分野でも共通していたのは、単なる「商品」ではなく、「体験」や「物語」をセットで届けているということでした。つまり「ここでしか味わえない価値」に磨きをかけ、それを丁寧に伝えることで、人の心を動かし、現地を訪れるきっかけをつくっているのです。

会場からは「結局、届けたい人って“消費者”ではなく“共感者”なんだと感じた」という声も上がりました。情報を一方的に発信するのではなく、共感を軸にした関係性を築くことが、これからの地域ビジネスには欠かせない――そんな学びが自然と共有されていました。

💡 リアルインベントとして福島の未来へ

私たちリアルインベントも、今回の議論に強く共感しました。ITやデジタルの世界においても「どう届けるか」という課題は常に存在します。どれだけ最新の技術やサービスを用意しても、それを使う人にとって「他にはない価値」がなければ届かない。むしろ機能やスペックよりも、「このサービスを通じてどんな体験ができるのか」「どんな物語に参加できるのか」が大切です。

地域の取り組みと同じように、私たちも「リアルにしかできない価値」を磨き続ける必要があります。たとえば、イベントを通じたリアルな交流や、現場の声を直接届けるストーリーテリング。そこに私たちの強みであるITの技術を掛け合わせることで、人と地域、人と企業がもっと自然につながっていくのではないかと考えています。

📕福島の未来へ

ローカルシフト福島 vol.5 は、「食」を通じて地域の未来を描き出す時間となりました。一見シンプルに見える「届ける」というテーマの裏側には、挑戦する人たちの知恵や工夫、時に直面する葛藤や悩み、そして地域を次の世代へとつなごうとする強い意志が込められていました。農業、水産業、飲食や観光――それぞれの現場で積み重ねられてきた取り組みは、単なるビジネスや商品開発にとどまらず、「人と人をどう結びつけ、地域の文化や誇りをどう未来へ残すか」という共通の問いに向かっていました。

シリーズ全5回を通して見えてきたのは、“関わり方の多様性”です。移住や定住といった大きな選択だけでなく、コーヒー一杯から始まる出会い、漁港での一皿の魚料理、酒蔵で交わす盃――そうした小さな関わりが、やがて大きなつながりへと育っていく。都市と地域を結ぶ関係人口の在り方が、少しずつ具体的なイメージを伴って立ち上がってきました。

今回でシリーズはひと区切りとなりますが、10月には現地ツアーも予定されています。都内での学びを実際の風景や人との出会いにつなげることで、より深い“福島との関わり方”が提示されるはずです。オンラインやセミナーの場で得た知識を、五感で確かめ、体験に変えていく。そこから生まれる実感が、次の行動への原動力になることでしょう。

そして、この物語は「終わり」ではなく「始まり」です。参加者一人ひとりが自分自身の生活や仕事に引き寄せながら、福島との関わりを続けていく。その積み重ねが、また新しい物語を生み、語りたくなる人の輪を広げ、物語一つひとつが、未来の福島を形づくる力になるのです。

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取材・文・写真:株式会社リアルインベント 広報 山本真聡