がんは外からやってこない。私たちの「歪んだ分身」に迫る、まるでサスペンスな傑作『がん‐4000年の歴史‐』
シッダールタ・ムカジーが2010年に発表し、ピューリッツァー賞を受賞した『がん‐4000年の歴史‐』は、人類とがんとの4000年にわたる戦いを描いた大作です。
この本が画期的なのは、がんを単なる病気としてではなく、独自の性格を持った一つの生き物のようにとらえ、その伝記を書くようなスタイルをとっている点です。
いったいどうやったら、そんなこと思いつくんでしょうか。笑
医学の難しい話だけでなく、歴史、政治、そして何より患者たちの感動的なドラマが詰まった、誰もが読むべき傑作ノンフィクションなので、今日はこの本を紹介!
著書はたぶん今のアインシュタイン
著者のムカジーは、インド生まれでアメリカで活躍するがんの専門医であり、研究者です。
彼がこの本を書くきっかけになったのは、ある末期がんの患者からの言葉でした。
「治療を続けるために、自分が何と戦っているのかを知りたい」
この切実な問いに答えるため、彼はがんの起源から現代の最新治療、そして未来にいたるまでを徹底的に調べ上げる決意をしたのです。
手探りの戦い
がんは現代の病気と思われがちですが、実ははるか昔から存在していました。
古代エジプト(紀元前2500年頃)
文献に初めてがんが登場します。
しかし、その治療法の欄には残酷なまでに一言「なし」とだけ書かれていました。
古代〜中世
長い間、がんは体の中の黒胆汁(こくたんじゅう)という悪い体液が多すぎるせいで起こる、と誤解されていました。
19世紀〜20世紀前半
麻酔が発明されると、がんを外科手術で大きく切り取ることが一番だという時代が来ます。
その後、X線などの発見により、放射線でがんを焼く治療も始まりました。
20世紀のがん撲滅運動と抗がん剤の誕生
20世紀に入ると、白血病(血液のがん)の子供たちを救うために、薬でがんをやっつける化学療法(抗がん剤)が開発されます。
シドニー・ファーバーという熱心な医師と、メアリー・ラスカーという影響力のある女性がタッグを組み、国を巻き込んだ大規模な「がん撲滅運動」を起こしました。
これにより、がん研究に莫大なお金が集まるようになり、医療は一気に進歩します。
私たちの細胞の「歪んだ分身」
科学が進歩すると、がんの本当の原因が遺伝子の突然変異(エラー)であることがわかりました。
がんは、外からやってくるウイルスやバイ菌ではありません。
細胞を増やす「アクセル」が踏みっぱなしになり、増殖を止める「ブレーキ」が壊れてしまった状態です。
つまり、がんは私たち自身の正常な細胞が暴走し、無限に増え続けるようになった「歪んだ分身」だったのです。
自分の細胞から生まれているからこそ、がんだけをやっつけるのは非常に難しいのです。
患者たちのドラマと「予防」の大切さ
この本が素晴らしいのは、カーラ・リードという白血病の女性など、がんと必死に戦う患者たちの姿が、とても温かい目線で描かれている点です。
がんという病気がいかに患者の人生や心に大きな影響を与えるかを実感させられます。
また、治療だけでなく「予防」の重要性にも触れています。
特に、タバコ産業との激しい対立を経て、喫煙が肺がんの原因であることを証明した歴史は、サスペンスドラマみたい。
希望の未来へ向けて
本の終盤では、がんの正体が遺伝子の異常だとわかったことで、がん細胞だけをピンポイントで狙い撃ちにする分子標的治療薬などが開発されていることが書かれています。
がんは自分の細胞が変化したものなので、完全にこの世からなくす(根絶する)のは難しいかもしれません。
しかし、人類の知識と技術は確実に進歩しており、未来への希望がはっきりと示されています。
がんという病気を正しく恐れ、深く理解するために、自分や家族のためにもぜひ一度は読んでおきたい一冊です。
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