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レコード男子|棚からひとつかみ|The Jacksons『Victory』|宇宙ジャケの向こうに見える1984年

新しく始める「棚からひとつかみ」シリーズ。
最初に取り出したのは、ジャクソンズの『Victory』だった。マーヴィン・ゲイからダイアナ・ロスへ。
そしてダイアナ・ロスを橋にして、マイケル・ジャクソンへ。その流れで棚を見ていたら、自然とこの一枚が顔を出した。

The Jacksons『Victory』。
1984年のアルバムである。

ジャケットを見るだけで、もう時代の匂いがする。

青い宇宙。
渦を巻く銀河。
未来都市のような道。
そこに立つジャクソン兄弟たち。

80年代のポップスには、こういう“未来は光っている”という感覚があった。

まだインターネットもスマホもない時代なのに、音楽のジャケットだけはやけに宇宙まで飛んでいた。

裏ジャケットもいい。

惑星の荒野の向こうに、未来都市か宇宙基地のような建造物が沈んでいる。SF映画の背景画のようでもあり、アーケードゲームの画面のようでもある。
この頃のレコードジャケットは、音を聴く前に、まず世界に入らせる力があった。

『Thriller』後のジャクソンズ

『Victory』が特別なのは、時期である。マイケル・ジャクソンは、すでに『Off the Wall』でソロアーティストとして大きく羽ばたき、『Thriller』で世界的な存在になっていた。
その直後に、ジャクソンズ名義で出されたアルバムが『Victory』である。つまり、これは単なる兄弟グループの新作ではない。

世界中がマイケル・ジャクソンを見ている時代に、改めて兄弟たちが集まったアルバムだった。
しかも、このアルバムでは、ジャーメイン・ジャクソンも復帰し、ジャッキー、ティト、ジャーメイン、マーロン、マイケル、ランディという6人兄弟体制が揃っている。

ジャクソン5からジャクソンズへ。
モータウンからEpicへ。
兄弟グループから、巨大なソロスターの時代へ。

そのいくつもの線が、この一枚の上で交差している。

グループというより、兄弟それぞれの持ち寄り

ただし、このアルバムを聴くと、全員が一丸となって同じ方向を向いたグループ作品というより、兄弟それぞれが自分の曲を持ち寄った作品のように感じる。

ライナーノーツの曲ごとのクレジットを見ても、それがよくわかる。

ジャッキーが主導する曲。
ティトが歌う曲。
ランディが前に出る曲。
マーロンが手がける曲。
そしてマイケルがリードする曲。

ジャクソンズという名前でまとめられてはいるけれど、その中身は兄弟それぞれの小さなソロ展示会のようでもある。

ここが『Victory』の面白いところだ。

グループの結束を確認するアルバムというより、むしろ、それぞれの個性が別々の方向へ伸び始めていることを示すアルバムでもある。

「State of Shock」の派手さ

アルバムで最も派手なのは、やはり「State of Shock」だろう。

マイケル・ジャクソンとミック・ジャガー。

この組み合わせだけで、当時のポップス界とロック界が無理やり同じステージに引っ張り出されたような迫力がある。

曲はとにかく押しが強い。

細やかな余韻というより、力で押してくる。

マイケルの鋭い声と、ミック・ジャガーの荒っぽいロックの声がぶつかる。

これは、美しいデュエットというより、異種格闘技である。ただ、その乱暴な感じも含めて、80年代らしい。

巨大スター同士を組み合わせれば事件になる、という時代の空気がある。

「Torture」と兄弟の緊張感

「Torture」は、アルバムの中でもジャクソンズらしさが強く出ている曲だと思う。

マイケルとジャーメインの声が並ぶ。

ジャーメインの復帰という意味でも、象徴的な曲である。

タイトルの通り、曲にはどこか緊張感がある。

明るく弾けるだけのダンスナンバーではなく、少し暗さを含んだ80年代のポップ・ファンク。

ジャクソン5の頃の無邪気な兄弟感は、もうここにはない。

成熟した兄弟たちが、それぞれの立場を抱えながら同じアルバムにいる。

そんな感覚がある。

「Be Not Always」の静けさ

一方で、「Be Not Always」はかなり印象が違う。

マイケルが作詞・作曲し、静かに歌うバラードである。

『Thriller』以後のマイケルというと、どうしても「Billie Jean」や「Beat It」のような鋭いダンスと映像のイメージが強い。しかし、この曲では、派手なショーの向こう側にある、繊細で内省的な声が聴こえてくる。

宇宙ジャケットの派手さ。
「State of Shock」のスター共演。
巨大ツアーへ向かう熱狂。

その中に、こういう静かな曲が置かれているのが、このアルバムの不思議なところである。

1984年という時代

1984年という年を考えると、このアルバムはとても象徴的だ。

音楽は、レコードやカセットからテレビ映像へ、さらに大規模なライブ興行へと広がっていた。

ミュージックビデオの力も大きくなり、スターは“聴く存在”であると同時に“見る存在”になっていた。

マイケル・ジャクソンは、その変化の中心にいた。

『Victory』は、そんな時代に出たジャクソンズのアルバムである。

兄弟グループの作品でありながら、どうしてもマイケルの巨大な影が差し込む。

その影が強すぎるからこそ、ほかの兄弟たちの曲や声も、少し違った意味を帯びて聴こえてくる。

これは、成功した家族グループのアルバムであると同時に、すでにひとりのスターが銀河の中心になってしまったあとのアルバムでもある。

ジャケットに描かれた巨大な銀河は、偶然ではないように見える。

棚から出すと、記憶も回り始める

僕にとって、このあたりの80年代ポップスは、海外生活の記憶ともつながっている。

レコードを棚から出すと、音だけではなく、その頃の空気も一緒に出てくる。

部屋。
ラジオ。
テレビ。
レコード店。
ニュース。
知らない街の夜。
そして、日本から遠く離れた場所で聴いていた音楽。

『Victory』は、作品としてだけでなく、そうした時代の匂いを持っている。しかも、ジャケットが宇宙だから余計にいい。

実際には自分の部屋で聴いているだけなのに、針を落とすと、急に1984年の未来都市へ連れて行かれる。

レコードというものは、そういうタイムマシンでもある。

勝利という名の終章


タイトルは『Victory』。
勝利。

だが、今聴くと、このアルバムには勝利の輝きと同時に、終章の気配もある。

兄弟6人が揃った記念碑的な作品。
しかし、その後マイケルはさらにソロの道を進み、ジャクソンズというグループの中心は変わっていく。

つまり『Victory』は、頂点であり、分岐点でもある。

グループが最も注目された瞬間。そして、その先にそれぞれの道が広がっていく瞬間。

だから、このアルバムは面白い。
完成された名盤というより、巨大な時代の変わり目がそのまま封じ込められたレコードである。

棚からひとつかみ。

最初の一枚として、これほどふさわしいものもない。

ジャクソンズ『Victory』。

宇宙を背負った兄弟たちのレコード。

その青い銀河の向こうには、1984年のポップスと、マイケル・ジャクソンという巨大な星の引力が見えている。



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