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レコード男子|マーヴィン・ゲイ|『Midnight Love』|深夜0時を過ぎて、魂はもう一度よみがえった

深夜0時を過ぎて、魂はもう一度よみがえった
コロンビア移籍後に鳴った復活の音
「Sexual Healing」という癒やしのグルーヴ
70年代の声が80年代の音をまとった瞬間
復活は、ただ戻ることではない
生前最後のスタジオ・アルバムが未来を向いていた
夜の都市に灯ったマーヴィン最後の輝き

✽     ✽     ✽

マーヴィン・ゲイのレコードを順に棚から出して聴き直していると、  どうしても特別な気持ちになる作品がある。

それが、1982年の 『Midnight Love』 だ。

このアルバムは、マーヴィン・ゲイにとって17枚目のスタジオ・アルバムであり、生前最後のスタジオ作品でもある。

そして同時に、長年在籍したモータウンを離れ、
コロムビア移籍後に放った、見事な復活作でもあった。

マーヴィン・ゲイという人は、ただ“うまい歌手”ではない。
声そのものに、色気、孤独、やわらかさ、弱さ、祈り、そういうものが同時に宿ってしまう人だった。

だから、彼のアルバムを聴くときは、曲を聴いているようでいて、その時々の人生の気配まで一緒に聴いてしまう。

『Midnight Love』には、まさにそういう気配が濃くある。

当時のマーヴィンは、薬物中毒、借金、レーベルとの確執などで、精神的にも肉体的にもかなり追い詰められていた。

そこからベルギーへ渡り、生活を立て直しながら、
このアルバムを作り上げていったという流れを知ると、この一枚が単なる“新作”ではなく、再生のドキュメントにも思えてくる。

サウンドは、70年代のマーヴィンとはずいぶん違う。
生楽器のぬくもりを前面に出したソウルというより、シンセサイザーやリズムマシンを取り入れた、80年代型のアーバン・ソウルへと踏み込んでいる。

でも、不思議なことに、
音が新しくなっても、
歌の芯にあるマーヴィンらしさはまったく消えない。

代表曲 「Sexual Healing」 はもちろん別格だ。

この曲は大ヒットし、マーヴィンにとって最大級の復活劇を演出した。

けれど、アルバムとして聴くと、

ぼくは 「Midnight Lady」や
「Rockin' After Midnight」、
そして 「Joy」 あたりにも強く惹かれる。

夜の街の灯りのようにきらめくシンセ。
少し乾いたリズム。
その上を、マーヴィンの声が、
艶っぽく、時に寂しげに、
時に軽やかに滑っていく。

その感じが実にいい。

特にこのアルバムでは、

“復活”という言葉にありがちな、

大げさな勝利宣言のようなものがあまり前に出てこない。

もっと静かで、もっと私的で、

自分の体温を取り戻していくような復活に聞こえるのだ。

だからこそ、

このアルバムを聴くと胸を打たれる。

そして残酷なことに、

この見事な復活のあと、

マーヴィンはわずか1年半ほどでこの世を去る。

そう思うと『Midnight Love』は、

単なる晩年作ではなく、

最後に到達した新しい現在形として聴こえてくる。

棚から出して、針を落として、

また聴き直す。

そういう時間のなかで改めて思うのは、

マーヴィン・ゲイは最後まで、

過去の人にならなかったということだ。

『Midnight Love』は、

生前最後のスタジオ・アルバムであると同時に、

最後に未来へ手を伸ばしたアルバムでもある。

深夜0時を過ぎて、

魂はもう一度よみがえった。

そんな一枚だと思う。


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