レコード男子丨マーヴィン・ゲイ丨『メロウ・マーヴィン』丨没後に見えた、もうひとつの歌声
マーヴィン・ゲイの棚出しシリーズも、いよいよ没後作品へ入る。
今回取り上げるのは、1985年にリリースされた『Romantically Yours』。
邦題は『メロウ・マーヴィン』。
『What’s Going On』の社会性でも、『Let’s Get It On』の官能でも、『Midnight Love』の復活でもない。
ここにいるのは、スタンダードやバラードを甘く歌う、もうひとつのマーヴィン・ゲイである。
代表作では見えにくい歌手の横顔を、棚の奥からそっと取り出してみたい。
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マーヴィン・ゲイのレコードを順に棚から出して聴き直していると、どうしても代表作に気持ちが引っ張られる。
『What’s Going On』の社会性。
『Let’s Get It On』の官能。
『Midnight Love』の復活。
でも、没後に出たこの 『Romantically Yours(邦題:メロウ・マーヴィン)』 を聴くと、そんな定番イメージの少し外側にいた、もうひとりのマーヴィン・ゲイに出会える。
このアルバムは、1985年にリリースされた未発表音源集。
モータウン時代、そしてコロムビア時代にお蔵入りしていた録音をまとめた、死後2作目の遺作アルバムだ。
正直に言うと、最初は“編集盤”“未発表集”という言葉に対して、少し構えてしまう。
本編ではなく、周辺。
本人の意思が十分に反映されていない可能性もある。
そういう距離感が、没後作品にはつきまとう。
けれど、このアルバムは、そういう先入観を少し和らげてくれる。
なぜなら、ここには単なる“残り物”ではない魅力があるからだ。
まず印象的なのは、スタンダード曲の存在だ。
「Fly Me to the Moon」や「The Shadow of Your Smile」といった名曲を、マーヴィンは力みなく、やわらかく歌っている。
いわゆる“熱唱型”ではない。
むしろ、甘く、端正で、夜の静けさに寄り添うような歌い方だ。
マーヴィン・ゲイという人は、ソウルの巨人であると同時に、もともとポップ・スタンダードやジャズ・バラードへの憧れを抱いていた人でもある。
このアルバムを聴くと、その志向がよくわかる。
彼の歌は、社会を語る時も、愛を語る時も強いが、こういうロマンティックな曲に入った時の“品の良さ”もまた、かなり魅力的だ。
そしてもうひとつ良いのが、「Walkin’ In The Rain」のような曲。
甘いだけでは終わらず、ちゃんとグルーヴがある。
メロウでありながら、身体の芯に残る。
このあたりは、やはりマーヴィン・ゲイだなと思う。
このアルバムは、代表作のような圧倒的な一撃を持つ作品ではないかもしれない。
けれど、だからこそいい。
超名盤の陰に隠れていた歌、表に出なかった選択肢、そしてマーヴィンが本来持っていた歌手としての幅。
そういうものが、静かに浮かび上がってくる。
『メロウ・マーヴィン』という邦題も、なかなか悪くない。
たしかにここにいるのは、熱いマーヴィンでも、怒れるマーヴィンでもなく、甘く都会的な“メロウ・マーヴィン” だからだ。
棚からレコードを出して、針を落として、代表作ではない一枚に耳を澄ます。
そういう時間のなかで、アーティストの輪郭はむしろ深くなる。
このアルバムは、まさにそんな一枚だった
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『Romantically Yours』は、マーヴィン・ゲイの代表作として最初に名前が挙がるアルバムではない。
けれど、こういう一枚を聴くことで、アーティストの輪郭はむしろ深くなる。
社会を歌った人。
官能を歌った人。
復活を歌った人。
そして、ただ美しい歌を歌いたかった人。
その全部がマーヴィン・ゲイだった。
棚から一枚ずつ出して聴き直すという行為は、名盤を確認するだけではない。
まだ知らなかった声に、もう一度出会うことでもある。
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