AX推進部門にいると、なぜ孤独を感じるのか― 「考える人」が消耗する瞬間
■ 孤独は「人数」の問題ではない
AX推進部門にいて、私が強く感じるのは「孤独」です。
推進部門として何十人規模の体制を組んでいたとしても、その感覚は簡単には消えません。
人が足りないからでも、
仲間がいないからでもありません。
もっと構造的な理由があると感じています。
⸻
■ スピードと多様性のジレンマ
推進部門を構成する際、
同じようなスキルセットを持つメンバーだけを集めれば、意思決定やアクションのスピードは上がります。
しかしその一方で、
思考の幅や視点の多様性は失われていきます。
逆に、多様性を重視し、
さまざまなキャリアや立場の人を集めれば、
今度は合意形成に時間がかかり、アクションは遅くなります。
このジレンマは、AX推進部門に限らず、多くの変革組織が抱えています。
このジレンマを見ていると、多様性そのものが問題のように見えてしまうことがあります。
しかし、ここで言う「多様性」と、
後述する「時間軸のズレ」は、
必ずしも同じ次元の話ではありません。
多様性があること自体が問題なのではなく、
その多様性を支える思考態度の共通基盤が欠けているときに、はじめて摩擦や停滞が生まれます。
多様性は「背景や立場の違い」の問題であり、
時間軸は「未来の見方の違い」の問題です。
そしてそれらとは別に、
「どう考えるか」という思考態度の土台が存在します。
この土台が共有されていないとき、
多様性も時間軸の違いも、
単なる対立や分断に変わってしまいます。
⸻
■ 孤独の正体は、多様性ではなく「共通基盤の不在」にある
孤独の正体は、スキルセットや価値観の違いだけではありません。
私が安心できるのは、
スキルや価値観が同一な人がそばにいるときではなく、思考の深さや質が近く、自分の考えや決断を疑う視点を当たり前に持っている人がそばにいるときです。
異なる意見が出てきたとしても、
感情ではなく言葉でやり取りできる。
理解しようとする姿勢を持ち、
一定のベーススキルを共有している。
ここで求めているのは、同質性ではありません。
共通基盤があることは、同質性を意味しない。
多様性があることもまた、思考の深さを保証するわけではない。
多様な背景や立場を持ちながらも、
「どう考えるか」「どう疑うか」という
思考態度の土台が揃っているかどうか。
その違いは、
実際に一緒に意思決定を重ねてみないと見えにくいものです。
だからこそ、
そうした人と出会える機会は多くなく、
結果として孤独を感じやすくなります。
⸻
■ 「時間軸のズレ」という見えない消耗
「考える人」が消耗する瞬間があります。
それは、ベースとなる時間軸が大きく異なる人との合意形成です。
この時間軸のズレは、多様性そのものとは別の次元で起こります。
話をしても、見ている未来が違うため、
議論は並行線になりやすい。
どちらかが間違っているわけではなく、
前提としている時間軸が違うだけなのに、
それを言語化できないまま話し続けることが、
最も消耗します。
こうした状況では、役員や上長を巻き込み、
意思決定を前に進めようとすることもあります。
しかし、ここにもまた時間軸の違いがあります。
上層部は、
全社視点で短期的な成果責任を背負いながら、
同時に中長期の戦略も見ています。
現場は、
自分の業務や部門KPIの時間軸で動いています。
推進部門は、
それらを接続しながら、
さらにその先の未来を見ていることも多い。
つまり、
時間軸は三層以上に分かれているのです。
その中で合意形成を行うのは、
単に「多忙だから難しい」のではなく、
前提としている未来のスケールが違うから難しい。
それを整理しきれないまま、
会議だけが繰り返されるとき、
消耗は加速していきます。
⸻
■ それでも「考える人」は立ち続ける
AX推進は、技術や方法論だけでは進みません。
組織や人間を、これまで以上に考え、理解し、
それでも動かしていく必要があります。
その難しさの中で、
「考える人」は孤独になりやすく、
消耗しやすい。
それが、
AX推進の現場で起きている現実だと
私は感じています。
孤独は消せないかもしれない。
しかし、減らすことはできる。
鍵になるのは、「間に立つ」という設計だと思います。
個の資質ではなく、構造で支える発想へと、
私たちは移行する必要があるのです。
次回は、その輪郭を描いてみたいと思います。
