AX推進の現場で本当に重要な存在 ― 「間に立つ人」の価値
冒頭補足:シリーズのつながり
これまでのコラムでは、AX推進において、組織がどのように変わるべきか、そして「考える人」がどのように存在価値を発揮できるかを考えてきました。
•第1回では、AX推進の先にある組織の姿や、AIを単なる道具として扱うことの限界について触れました。
•第2回では、即断を求める組織と熟考の必要性、意思決定の質をどう守るかについて整理しました。
•第3回では、時間軸の違いによる社員間の捉え方のズレと、それによって生じる意思決定の難しさを明らかにしました。
•第4回では、AX推進担当者が孤独を感じる理由や、思考の深さと共通基盤を持つ仲間の重要性を探りました。
こうしてシリーズを通じて、「AX推進は単に技術やツールの導入ではなく、人と組織を理解しながら動かす営みである」という前提が浮かび上がってきます。
第5回では、この前提を踏まえた上で、現場で最も重要な存在でありながら見えにくい『間に立つ人』の価値に焦点を当てます。
登壇者だけでは見えにくい「間に立つ人」
AX推進担当者の話をカンファレンスで聴くと、多くの場合、登壇者は役職者です。
役職者でない場合でも、リーダー力がある人やプレゼンがうまい人が目立ちます。それ自体は企業戦略として自然なことです。
一方で、私が注目したいのは、登壇者と現場をつなぐ「間に立つ人」です。
現場の取りまとめを担う存在は、組織の変革を支える上で極めて重要ですが、スポットライトを浴びることは少なく、役職や肩書きを持たないことも多いのです。
1人のリーダーだけでは組織は動かない
たとえ強力なCIOやAX推進リーダーがいても、組織を実際に動かすのは「間に立つ人」です。
彼らは現場とのコミュニケーションや意思決定の調整を丁寧に行うことで、メンバーが協力し、組織として前に進むことを可能にします。
また、「間に立つ人」は単なる調整役ではありません。
時間軸のズレや思考の共通基盤のギャップを埋めることで、組織内の意思決定を成立させる役割も担っています。
間に立つ人は、表に立つことは少なく、目立たない存在かもしれません。
しかし、組織の状況や状態、パワーバランスや人間関係を丁寧に捉えながら、無理のない形で物事が進むように関わっていきます。
その多くは表に出るものではなく、誰かに説明されることもありません。
だからこそ気づかれにくいのですが、水面下で状況を整えながら、少しずつ前に進めていく存在でもあります。
ときには、戦略設計を担う立場の人が見落としている観点に対して、間接的に気づきを促すような関わり方が必要になることもあります。
その結果として、現場や中間管理職が自ら判断したように感じながら、組織としての意思決定が前に進んでいくこともあるのです。
立ち位置の違いが生むすれ違い
AX推進部門の中でも、どの立ち位置に重きを置くかは人によって異なります。
登壇することを重視する人、最新の技術動向を追うことに価値を感じる人、活用事例をつくることに集中する人、現場に寄り添った業務改善を重視する人、あるいは組織全体を俯瞰しながら活用を促進しようとする人。
一見すると役割や役職による違いのようにも見えますが、実際には「どこまで関わるか」というスタンスの違いが存在しています。
特に、アドバイザーポジションに重きを置く立場では、理想的な状態や方向性を示すことに価値が置かれる一方で、その実現に向けた日々の調整や伴走には深く関与しないケースも見られます。
これは個人の問題というよりも、構造的なものです。
現場の理解を促し、関係者の思考を揃えながらAI活用を進めていくには、多くの時間と労力がかかります。
そのため、「必要なときに助言する」という関わり方が選ばれることも少なくありません。
しかし現場が本当に求めているのは、問題が顕在化してからの助言だけではなく、
その手前で共に考え、手を動かしながら進めていく存在です。
だからこそ、「間に立つ人」の価値は、単なる知識や経験ではなく、どの立ち位置でどこまで関わるかというスタンスによって大きく変わります。
もし「間に立つ人」を選べるとしたら、
あなたはどのような関わり方をする人と、一緒に仕事をしたいと思うでしょうか。
外部パートナーという選択肢
前回のコラムでも触れましたが、AX推進担当者は孤独で疲弊しがちです。
そのため、社内で適切な「間に立つ人」を選定することは簡単ではありません。
社内で見つからない場合、外部パートナーの力を借りる選択肢もあります。
ただし、ここでいう外部パートナーは単なるコンサルやベンダーではありません。
組織の文化や状況を理解し、現場と経営層の間で意思決定を整理しながら伴走できる存在が求められます。
では、そのような存在をどのように見極めればよいのでしょうか。
たとえば、自組織の状況を伝えたときに、現在どの役割が不足しているのかを的確に捉えられているか。
あるいは、過去のAX推進において、どれくらいの期間と工数をかけて現場と向き合い、変革を進めてきたのか。
さらに、AX推進担当が大切にすべき考え方や、現場で本当に必要とされる関わり方について、どのようなスタンスを持っているのか。
こうした点から、その人がどの立場で何を見ているのかは見えてきます。
構造として捉えるという視点
ここまで見てきたように、AX推進の現場ではさまざまな立ち位置や関わり方が存在します。
重要なのは、それぞれの役割やスタンスに優劣をつけることではなく、どのような構造の中でそうした違いが生まれているのかを理解することです。
登壇者や上層部だけで組織が回るわけではなく、「間に立つ人」のような存在によって意思決定が支えられている。
その一方で、関わり方の違いによってすれ違いが生まれることもある。
こうした状況を個人の問題として捉えるのではなく、構造として理解し、役割や期待値をすり合わせていくことが求められます。
AX推進は、単に技術や方法論で進むものではなく、組織や人間を理解し、動かし続ける営みです。
次回予告
では、「間に立つ人」がいない状態では、現場では何が起きるのでしょうか。
AI活用が進み始めた組織の中で、事例は生まれているにもかかわらず、変革が思うように進まない。
その背景には、どのような構造があるのか。
次回は、現場で実際に起きている流れを辿りながら、「なぜ立ち止まってしまうのか」を考えてみたいと思います。
