誰にも話していない小さな習慣が、私を支えている
人に話したことのない習慣がある。
毎朝、家を出る前に、玄関で三十秒だけ立ち止まる。
何をするわけでもない。靴を履いて、鞄を持って、ドアノブに手をかける手前で、いったん止まる。そのあいだに、今日これから起きることを一つだけ思い浮かべる。
会議がある。あの人に確認しないといけない。夕方に買い物をして帰る。
それだけして、ドアを開ける。
始めたきっかけは、ほとんど覚えていない。たぶん何年か前、朝の支度が毎日ぎりぎりで、家を出た瞬間から一日に追いかけられている感じがあった時期だ。
三十秒立ち止まるようになってから、その感じが少し減った。
追いかけられているのは変わらない。ただ、走り出す前に一度、自分の足で立っている時間ができた。それだけの違いなのに、一日の終わりの疲れ方が違った。
この習慣を、誰にも話したことがない。
話すほどのことじゃない、と思っていた。効果を聞かれても説明できないし、たぶん人には効かない。玄関で立ち止まる三十秒に、理屈らしい理屈は何もない。
でも最近、そういうものこそが自分を支えているのかもしれないと思うようになった。
役に立つと証明できる習慣は、たいてい続かなかった。早起きも、運動も、日記も、何度も始めて何度もやめた。効果を測ろうとした瞬間、それは課題になって、できなかった日の記録に変わる。
玄関の三十秒は、測っていない。だから途切れたことがない。
誰にも話していないから、評価もされない。だから、やめる理由も生まれない。
人に見せる部分の生活は、どうしても分かりやすい形になる。説明できて、褒められて、続いていることが確認できるもの。
でも実際に日々を持たせているのは、たぶんもっと地味で、説明のつかないもののほうだ。
あなたにも、たぶん一つくらいあると思う。
人に話したことのない、意味のよく分からない、でもなぜかやめていない何か。
それは、あなたを支えている。
