オーガニックが当たり前の未来に 〜長門に移住しての挑戦〜
長門市しごとセンターにて開催している、「地域の目線をもって活躍している事業者の話を聞く会」ことNagato HYGGE。
今回は、有機稲作に取り組む ISATO FARM の首藤さんによる講演です!熱く語られる「建国の詔」のお話から、今年度より長門市議になられた首藤さん目線での政治への考え方まで、お話された内容をまとめました。
導入:未来を担う皆さんへ
なぜ私がこの場に立ちたかったのか。それは、今日ここに集まってくださった皆さん、特に未来を担う高校生の皆さんと、これからの日本の未来について本気で語り合いたいと強く願ったからです。これは、単なる私の移住体験談や農業の話ではありません。これからお話しすることは、私たちの挑戦のプロローグであり、皆さんと共に未来をどう描いていくかという、大切な対話の始まりです。
本日の講演は、私たちの文化の根源とは何か、食の安全保障をどう守るのか、そしてこの長門という地域社会の未来をいかにして築いていくかという、非常に大きなテーマを扱います。壮大に聞こえるかもしれませんが、全ては私たちの足元にある、ごく当たり前の営みから始まります。
まずは、私たちの文化の根幹である「お米」の話から始めさせてください。
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第1部:私たちの原点 — なぜ「米」が重要なのか
現代の食料問題を考える上で、私たちが決して忘れてはならない揺るぎない土台があります。それは、日本の文化、文明、そしてこの国の成り立ちそのものにおいて、お米がいかに中心的役割を果たしてきたかという歴史的事実です。
かつて、人の命の価値は米で測られていました。一人の人間が一年間生きるために必要なお米の量が、かつては「一石」という単位で測られていました。具体的には、年間でおよそ2俵(120kg)を消費していたと言われます。この米を基準に、文化が生まれ、経済が動いていたのです。驚くことに、当時の女性は3俵もの米(180kg)を担いで歩けたと言いますから、その重要性が体に染み付いていたのでしょう。
この国のかたちは、神話の時代から米と深く結びついています。天照大神が孫のニニギノミコトに稲穂を授けたという「稲穂の神勅」は、稲、すなわち米こそが命の根源であることを示しています。また、初代神武天皇の「建国の詔」には、米倉のある場所を「みやこ(都)」と呼んだと記されています。つまり、国の中心とは、食料の備蓄がある場所だったのです。そこには、「素直な心でいれば、皆がお腹いっぱい食べられる国を作る」という、為政者の力強い宣言が込められていました。
そして、「八紘為宇(はっこういちう)」という言葉。これは、世界を一つの家のようにするという意味ですが、私はこの言葉を、単なる歴史的な標語としてではなく、現代の私たちが取り戻すべきコミュニティの理想像として捉えています。みんなが大きな家族として助け合い、共に良くしていこうという、この精神もまた、田植えや稲刈りといった共同作業を通じて米作りを行ってきた、私たちの祖先の営みの中から生まれてきたものに違いありません。
この大切な米作りのあり方、そして食との向き合い方そのものを、私は「オーガニック」という考え方を通じて見つめ直したいのです。
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第2部:私の信じる道 — ライフスタイルとしての「オーガニック」
私が語る「オーガニック」という言葉は、単に無農薬野菜を指すものではありません。それは、未来への責任を果たすための包括的な哲学であり、生き方そのもの、つまりライフスタイルです。それは、関わる全てのもののために「伝統と革新と科学を組み合わせ」、私たちが共有する環境に利益をもたらし、公正な関係性と良い生活の質を促進する営みなのです。
この信念に基づき、私は自らの活動の核となるビジョンとミッションを次のように掲げました。
ビジョン: オーガニックが当たり前の未来に
ミッション: 自分の有機米を、本当に求めている人々に届けたい
この「伝統と革新と科学の組み合わせ」という理念は、決して抽象的なものではありません。それは、以下の4つの具体的な原則によって支えられているのです。
健康の原則: 土壌、植物、動物、人、そして地球の健康を一体のものとして維持し、向上させること。
生態系の原則: 生きている生態系と循環を基礎とし、それと共に働き、模倣し、維持すること。
公正の原則: 共通の環境と生命の機会に関して、公正を保証する関係を築くこと。
配慮の原則: 現在および将来の世代の健康、幸福、そして環境を守るような、予防的で責任ある方法で管理を行うこと。
私が特に重視しているのが、この「配慮の原則」です。これは、よくわからないものを安易に使わない、という未来への配慮です。だからこそ、私は遺伝子組み換え作物(GMO)を使いません。それは、私たちの行動が次世代にどのような影響を与えるか、常に考えなければならないからです。先住民の言葉に、私の思想の核心を表すものがあります。
「土地は先祖から受け継いだものではなく、未来の子孫から借りているものである」
この星の資源には限りがあります(プラネタリーバウンダリー)。私たちは、その土地にあるものでサイクルを回していく責任があるのです。
しかし、この理念を実現しようとする私たちの前には、今、非常に大きな壁が立ちはだかっています。
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第3部:日本農業を蝕む静かなる危機
日本の食料主権、つまり私たちが何を食べるかを自分たちで決める権利が、目に見えにくい形で、静かに外部からの資本や技術によって脅かされています。これは、私たちの未来にとって極めて深刻なリスクです。
1. 外国資本による農地取得の現実
現在の法律では、農地を所有できる「農業法人」に国籍要件がありません。これにより、海外法人による農地取得がすでに始まっており、判明しているだけで175haに及びます。さらに、新たに議論されている新農村基本法は、海外資本の投資を受けやすくするものであり、この動きを加速させる可能性があります。私たちの食料生産の基盤が、気づかぬうちに他国の資本に握られてしまう危険性が迫っています。
2. グローバル企業による市場支配の構図
世界的な農薬・種子企業であるバイエル社のCEOは、日本の伝統的な水田を「水が無駄だ」と批判し、乾田化を進めるよう提言しています。その真の狙いは、自社が販売する除草剤の巨大な市場を日本に作り出すことです。彼らの提案は、一見すると「効率化」や「SDGs」といった耳障りの良い言葉で飾られていますが、その本質は、私たちの食と文化を彼らの巨大なビジネスの歯車に組み込むことに他なりません。「日本バイオ作物ネットワーク」といった団体がこの方針を推進していますが、その裏には、日本の農業を自社のビジネスモデルに組み込もうとする明確な戦略があるのです。
3. 遺伝子組み換え技術がもたらすリスク
遺伝子組み換え技術は、農家の主権そのものを脅かすリスクを孕んでいます。もし隣の畑で遺伝子組み換え作物が栽培された場合、その花粉が風で飛んできて私の田んぼで交雑すれば、私の作ったお米にも特許で保護された遺伝子が混じってしまいます。そうなれば、企業から「我々の特許を無断で使用している」と訴えられ、契約を迫られるか、農業そのものを諦めざるを得なくなるかもしれません。これは、農家としての自律性を根本から奪うものです。内閣府の「ムーンショット目標」や、味の素が開発する「遺伝子組み換え光合成細菌」など、効率化やWell-Beingの名の下に、私たちの食のあり方を根底から変えかねない技術開発が進んでいます。これで本当に良いのでしょうか。
結局のところ、日本の農業は種子、農薬、肥料のほぼ全てを海外に依存しているという、極めて脆弱な構造の上に成り立っています。命の根幹であるはずの食の話が、いつの間にか単なる「金の話」にすり替えられてしまっているのです。
では、私たちはこの大きな流れにただ飲み込まれるしかないのでしょうか。いいえ、私はここ長門の地で、具体的な対抗策を実践しています。
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第4部:長門からの挑戦 — 持続可能な未来への具体策
グローバルな課題に対して、私たちにできることは、この地域(ローカル)から具体的な行動を起こすことです。私は、ここ長門での取り組みが、やがて日本全体のモデルケースになりうると信じています。
私の挑戦は、一つの出会いから始まりました。この地域に移住してきた当初、私には農地がありませんでした。一方で、私が暮らす集落は深刻な後継者不足に悩んでいました。集落の課題である「後継者がいない」ことと、私の課題である「農地がない」こと。この二つが出会った時、互いにとっての解決策が生まれたのです。まさに「情けは人のためならず」。この地域でしっかりと農業を営むことで、お世話になった方々への恩返しをしていきたいと強く思っています。
現在、私は以下の取り組みを進めています。
事業構想: 有機農業に特化した農業支援サービスNOF SS(長門市オーガニックファームサポートサービス)というコントラクター事業を立ち上げました。もしあなたが、この長門の地で、自らの手で未来を創りたいと願うなら、ぜひ私に声をかけてください。NOF SSは、あなたの情熱を待っています。共に汗を流しましょう。
ネットワーク構築: 地域の有機農家の方々と密に連携し、知識や経験を共有し合えるネットワークを築いています。
象徴としての米作り: 私は今、「イセヒカリ」というお米を作っています。これは伊勢神宮に奉納されているお米で、かつて二度の台風直撃にも倒れなかったという奇跡の稲から生まれました。そして驚くべきことに、このイセヒカリが開発される過程で試験栽培が行われた場所の一つが、ここ長門市の俵山だったのです。この強いご縁と使命感を感じながら、私はこの米を育てています。
「長門市で食料を自給するなんて、夢物語ではないか」と思われるかもしれません。しかし、数字を見ればその実現可能性は明らかです。長門市の農地面積は約3000ha。市民全員の食料を賄うために必要な田んぼの面積を計算すると、わずか600ha。つまり、市内の農地のわずか20%を活用するだけで、食料自給は十分に可能なのです。
しかし、真に持続可能な地域を作るためには、農業だけでなく、森や水といった、私たちを取り巻く環境全体に目を向ける必要があります。
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第5部:農業を超えて — 森・水・経済を繋ぐ全体像
持続可能な社会とは、農業、林業、水資源、そして経済活動が、一つの健全なサイクルとして結ばれている状態です。これらは決して個別の問題ではありません。森の荒廃が水の枯渇を招き、それが農業、ひいては地域経済全体を揺るがすのです。農業だけを見ていては、本質的な解決には至りません。
林業への懸念
長門市の林業の現状には、大きな懸念を抱いています。本来、山の水源を守る「水源涵養林」には、保水力の高い広葉樹を植えるべきです。しかし現状では、山の「手前側」の、本来なら広葉樹を植えるべき場所に、経済林である杉や檜が植えられています。これらは保水力が低く、山の水源涵養機能を著しく低下させています。経済林はもっと「山の上の方・奥の方」に配置すべきであり、森林の適切なゾーニングを根本からやり直す必要があります。
水資源の問題
不適切な森林管理は、水の問題に直結します。長門市は水が少なく、水源が枯渇しやすいという問題を元々抱えています。そのような状況下で、白滝山に巨大な風車を建設する計画が進んでいることは、もってのほかです。山の環境をさらに破壊し、ただでさえ脆弱な水循環に致命的な影響を与えることは火を見るより明らかです。
経済システムへの問い
私たちは現在、円を介した経済システムの中で生きています。しかし、円を介するからこそ税金が発生します。かつて江戸時代、年貢率が「五公五民(収穫の50%)」に達した時、一揆が起きました。現代の税負担もそれに近いものがあります。これからは、地域内でお金(円)を介さない交換、例えば物々交換のような仕組みを再構築していくことも必要ではないでしょうか。
ここまで様々な課題と可能性についてお話してきましたが、最後に皆さんと共に考えたい未来について、改めてお伝えします。
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第6部:結論 — 私たちが描く未来
私が目指す「オーガニックが当たり前の未来」とは、単に安全な食べ物が手に入ることだけを意味しません。それは、未来の世代への責任を果たす生き方そのものです。もう一度、あの言葉を思い出してください。「土地は未来の子孫からの借り物である」。私たちは、この美しい長門を、そして日本を、より良い状態で次の世代に手渡す義務があるのです。
このビジョンは、決して他人事ではありません。私一人が頑張っても実現できません。ここにいる皆さん一人ひとりの日々の選択と行動によって、未来は作られていきます。
もし、今日の話に少しでも心が動いたなら、ぜひ行動を起こしてください。私のNOF SSプロジェクトは、共に挑戦してくれる仲間をいつでも歓迎します。一緒に汗を流し、この長門の地から新しい未来のモデルを創り上げていきませんか。
私たちの挑戦は始まったばかりです。希望は、私たちの手の中にあります。ご清聴ありがとうございました。
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質疑応答
講演後、参加者の皆様からいただいた質問の中から、特に重要ないくつかの点について、ここでお答えします。
Q. お米の値段が高くなっていることについて、どうお考えですか?
良いことだと捉えています。これまでの米価が、農家が再生産できないほど不当に安すぎたのです。生産コストをまかなえる適正な価格になることは、持続可能な農業のために必要不可欠です。それ以上に根本的な課題は、給料が上がらないのに物価だけが上昇する「スタグフレーション」に陥っていることだと考えています。
Q. 日本の農業全てをオーガニックにすることは可能でしょうか?
可能です。先ほど長門市の例でお話ししたように、農地の20%(600ha)があれば市内の食料自給は達成できます。この計算は全国的にも応用できるはずです。そもそも、現在世界で生産されている穀物の多くは、食用ではなくバイオエタノール燃料向けです。食料生産の仕組みを国内で完結させることが、まず取り組むべき課題です。
Q. 他の一次産業について、どのようなお考えをお持ちですか?
特に林業の現状に強い懸念を持っています。長門市では、水源を守るべき水源涵養林に、保水力の低い杉や檜といった経済林が植えられています。山の生態系と水資源を守るためにも、森林の適切な管理と区分けの見直しが急務です。
Q. なぜ楽天農業は撤退したのですか?
楽天モバイル事業の業績不振が大きな原因です。その影響で、楽天グループ全体が農業事業そのものから撤退するという経営判断がなされたためです。
Q. GHQの政策について触れていましたが、もう少し詳しく教えてください。
戦後、GHQは日本の共同体の弱体化を図りました。その一つが、集会所の建設です。それまで地域の寄り合いの中心であった神社から人々を引き離し、共同体の核を失わせようとしました。また、減反政策も彼らが導入したものです。この歴史を踏まえ、私は逆転の発想で、これから立ち上げる農業法人の事務所を、地域の神社に置かせてもらえないかと考えています。もう一度、農業と地域コミュニティの中心を結びつけたいのです。
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