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mitikusa_synapse
花が咲く頃は/せりふ三題噺
祭りの朝、商店街の花屋は店先にいっぱいのゼラニウムを並べた。赤い花は、照り返す陽射しの中で、どれも同じ顔をして咲いていた。
「気合い入れてこ!」
威勢のいい声が通りを抜けた。
「ほんと、朝から元気。」
「誰が言った?」
振り返っても、姿は見えない。
昼過ぎ、団子屋の主人がいなくなっていた。
「裏で休んでるんでしょ。」
「祭りの日にか?」
「まあ、そのうち戻るさ。そのうち。」
鉄板の上で、団子が静かに焦げていた。
夕方ごろ、花屋の老人が店先を掃いていると、小さな耳が落ちていた。
「……誰のだ。気持ちが悪い。」
しゃがみ込んだ老人の背後で、風車を持った子どもが言う。
「おじいちゃん、それ、お花に返さないと。」
「お花に?」
「そうしないと、また増えるよ!」
老人は何も聞き返さず、耳をゼラニウムの鉢へ埋めた。
子どもは両手を広げてピョンピョンと飛び跳ねて離れていく。しかし、老人を視界からは離さない距離で止まった。
するとそのそばで、その様子を見ていた女が、小さく笑った。
「今年も間に合ったようね。」
「え?何がです。」
「団子屋さん、戻ってくるでしょう。」
と言われて老人は喉をならすだけだった。
女は黙って笑う。
夜、花火が上がった。
「きれい。」
誰かがそう言うと、人々は申し合わせたように右耳を押さえた。
団子屋の主人は閉店間際、何事も無かったかのように戻ってきた。
「悪かった、ちょっと道に迷ってね。」
「大丈夫?」
そう尋ねられると、主人は少し黙って笑った。
「耳か?どうだろう。最初から二つもあったのかね。」
その後に続く声は無かった。
風に揺れたゼラニウムだけが、笑い声のようにかすかに震えていた。
〆切りには間に合っていませんが、あしからずでお願いします。
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