学校は同じ。でも関わる大人は1年ごとに変わる、個別の教育支援計画に思うこと
学校という場所は、「縦の時間」で続いているように見えて、実はとても「横に区切られている」場所でもあります。
学年が変わると担任が変わる。
クラスが変わる。
関わる先生も変わる。
すると、どうしても起こることがあります。
それは、引き継ぎの問題です。
「あれ?うまく引き継がれてない?」
「また最初から説明するの?」
そんな出来事が起こることがあります。
「この子はこういう特性があって…」
「去年はこういう配慮をしてもらっていて…」
そんなふうに、これまでの育ちや支援の経過を、また一から伝える。
子どもの育ちを一貫して支える、また一から説明する負担を減らすためにあるのが
「個別の教育支援計画」という仕組みです。
子どもの特性や支援の方法を、
学校・家庭・医療・福祉などの関係機関で共有し、
切れ目なく支援を続けていくためのものです。
この仕組みは、実は最近できたものではありません。
2003年、文部科学省は
「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」の中で、
障害のある子どもたちの多様なニーズに対応する仕組みの一つとして
「個別の教育支援計画」の作成を提示し、つまり、もう20年以上前からある仕組みなのです。
現在では、小学校・中学校・高校の学習指導要領でも、
特別支援学級や通級による指導を受けている児童生徒については
この計画の作成が義務づけられています。
学校の先生にとっては、今では
「当たり前の書類の一つ」になっています。
けれど、心理士として保護者の方や子どもたちとお話ししていると、
少し不思議に感じることがあります。
それは、学校の先生にとって馴染みのあるこの「個別の教育支援計画」の存在を、保護者や子ども自身が知らないことも少なくない、ということです。
学校にとっては、当たり前の文書になったはずの個別の教育支援計画、
でも、その当たり前になり過ぎた書類だからこそ、特別支援学級や通級に通っている保護者や本人が、実はその存在をよく知らないままになっていることがあるのです。
いやいや、そんなことはうちの学校ではない、と思われるかもしれません。
でも、私自身が関わる中で、「もしかして、存在を聞いたことがない?」と感じる場面に出会うことがあるのです。
もちろん、学校によって状況はさまざまで、
たとえば、保護者と一緒に内容を考えながら丁寧に作成しておられる学校もあります。
一方で、「そういえば先生に、ここにサインしてくださいと言われて書いた書類のことですかね?」
と話されることもあります。
そういうお話を聞くと、私はふと考えてしまいます。
もし保護者がよく知らないとしたら、子ども本人はどうだろう。
きっと、自分のための計画があることさえ、
知らない子どもも多いのではないかと思うのです。
それは子どもへの配慮なのでしょうか。
それとも、大人たちの事務的な作業にとどまってしまっているということでしょうか。
本来、この計画には児童・生徒本人の願いや要望も盛り込まれるものです。
学級担任や特別支援教育コーディネーターを中心に、
本人にヒアリングを行うこともあります。
保護者が間に入って思いを伝えることもあります。
お子さんがコミュニケーションをとりやすい方法を、
学校と一緒に考えていくことが大切だと思うのです。
そしてもう一つ、私がとても大切だと思っていることがあります。
それは、この個別の教育支援計画は、本人の自己理解につながっていくことです。
私が教員をしていた頃の学校では、
「本人の願い」
「保護者の願い」
「学校の願い」
この三つの欄を設けていました。
子ども自身がどんな願いを持っていて、
「自分はどんなサポートを受けているのか」
それを理解していくことが
とても大切だと考えていたからです。
義務教育が終わると、子どもたちは高校へ進みます。
その先には大学や専門学校、社会に出る道もあります。
そのとき支援を受けるためには、
「自分はこういうところに困りやすい」
「こういう配慮があると学びやすい」
ということを本人自身が説明できることが大きな力になります。
だからこそ、義務教育の段階で自分の特性や必要な支援について
少しずつ言葉にしていくことは、とても大切な経験だと思うのです。
実際に子どもと一緒に考えていくと、
いろいろな声が出てきます。
「中学からは、それは書いてほしくないんだよ」
「テストのとき、いつも時間が足りなくて困るから、もう少し時間があったら最後までできる」
「忘れっぽいから、声をかけてほしいんだけど、超さりげなくかけてほしい」
そんなふうに、自分の困りごとを言葉にしてくれ、
そのとき初めて、
「なるほど、この子はこういう場面で困っているんだ」
と大人が改めて気づくこともあります。
そして同時に、
「だからこのサポートがあるんだ」
ということも、子ども自身の中で少しずつつながっていきます。
自分の困りごとと、
それに対する支援。
その二つがつながっていくとき、支援は「与えられるもの」から
自分を理解するためのものへと変わっていくのだと思います。
学校という場所は、年度ごとに環境が変わります。
担任の先生が変わることもあります。
でも、もし今年、素敵な先生に出会えたなら
その先生が、次につながる先生へと
お子さまのこれまでの育ちやご家庭の思い、そして子ども自身の思いを
きっと丁寧に引き継いでくださると思います。
学校の中には、一緒に考えてくれる先生、つないでくれる先生が
きっといます。
だからこそ、この「個別の教育支援計画」という仕組みが
ただの書類ではなく、
子どもの育ちをつないでいく
一枚の大切なシートとして、もっと活かされていくといいなと思うのです。
