見出し画像

【エッセイ】Happy Xmas (War Is Over)

イルミネーションの光の粒が、街をやさしく撫でていく。
駅前はこの季節だけ、宝石をまとったみたいに輝いて見える。
大きなツリーの下では、待ち合わせの恋人たちが小さく手を振りあって、
その一瞬だけ街全体が、あたたかい呼吸で満たされる。

そのすぐ横で、スピーカーから
「Happy Xmas (War Is Over)」が流れ始めた。
ジョン・レノンの少しハスキーな声。
子どもたちの合唱。

浮き上がりそうだった足元が、そっと地上に戻される。
ウキウキした気持ちを包み込むような祈りのシャワー。
胸の奥には、小さな蝋燭がぽっと灯った。



家でなんとなくつけたニュースには、
今日もウクライナの映像が流れていた。

2022年に始まったころ、
わたしたちはあんなに怯えていたのに。
「世界はどうなってしまうんだろう」と。

でも今は──
天気予報と同じ温度で見ている自分がいる。

心が慣れていくことのほうが、
じつはずっと怖いのかもしれない。

遠くのどこかでは、
今日も誰かの日常が、砂の城みたいに崩れていくのに。

パレスチナ、ガザ地区。
世界のあちこちで、
兵士たちの靴音が続いている。



イルミネーションで飾られた街の明るさと、
画面の向こうの暗さは、
同じ冬とは思えないほど違う。

だけど、わたしは思う。

世界がどれだけ騒がしくても、
たったひとつの小さな祈りは、
案外、遠くまで届くのかもしれない。

だから、ブッシュ・ド・ノエルに
そっと願いをのせた。

平和であってほしい、と。
誰かが泣かずに眠れますように、と。



あの曲が流れる。
「戦いは終わらせることができる」──
そんな祈りのメッセージが、静かに胸の奥へ落ちていく。

灯りが揺れる冬の道を歩きながら、
わたしもそっと、同じ願いを胸の中でくり返した。






いいなと思ったら応援しよう!