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【短編小説】リカとわたしと、臭豆腐。

夜店から香る臭豆腐の臭いで、
吐きそうになった。

台湾は好きだ。
けれど、臭豆腐は好きになれない。

癖のあり過ぎる臭い、
遠くからでも存在感を放ちすぎている。

それは、
韓国におけるキムチ、
スウェーデンにおけるニシンの缶詰、
日本における納豆だ。

台湾が好きで、何度か訪れている。
初回は驚いた。

昔の日本の風景のように感じたからだ。
古びたアパート、バイクの渋滞。
喧騒に慣れなくて、早く帰りたいなんて思っていた。

けれど訪れるたびに、
新しい顔を見せてくる、不思議な国だ。

リカと、ふたりで歩き回った。
中学からの幼なじみ。
彼女の機動力のお陰で、人生が倍くらいに豊かになっている。

オーストラリアで、スカイダイビングしたり、
イタリアでローマの休日したり。

「アヤちゃま」

リカはわたしをそう呼ぶ。
変わってるなぁ〜って思うけれど、
その変わってる部分が心地いいのだ。

台北の街中で、足つぼマッサージを受けた。

「いたい、いたいいたい!」

リカは足つぼに極端に弱い子で、
涙目で悶えていた。
わたしには、心地よい強さなんだけど。

「She's like a rabbit」

マッサージ師さんがカタコトの英語で言い、
両手で耳をピコピコさせる仕草をしてから、
泣き真似をしてみせた。

「Exactly!」

あたしはマッサージ師さんと笑った。
リカの瞳は真っ赤だった。

台湾風かき氷を食べて、お腹を冷やした。
小籠包の溢れる肉汁を堪能した。

タピオカミルクティー片手に、
歩いてマッサージして、また歩く。

お土産にはパイナップルケーキ。

何かをする度に写真を撮って、
ストレージがいっぱいになっていく。

笑い声も一緒に保存して。

「ねぇ、アヤちゃま。
あたし、来月からスウェーデン行くの」

夜市の一角で、牛肉麺を啜りながら、
リカが言った。

「旅行?」
「ううん、留学」

夜店で買ったビールが、生温く喉を通り過ぎる。

「20代も後半になって、仕事も辞めて、
これでいいのかなって迷うけど。
でも、今やってみないと、
死ぬ前に後悔するかなって」

「うん」

ビールの後味が喉に残っている。
けれど、それは苦味じゃなかった。

「遊びに来てね」

「うん、必ず行くし、リカらしいと思う」

わたしは重ねて言った。
夜市には、夜の風が吹いている。

リカは、夜店のひとつを指さした。
「だから、臭豆腐食べよう!」

白地に赤い文字、『臭豆腐』の看板が踊っている。

「え〜、どういう繋がりよ、それ」
「いいから!」

恐る恐る夜店に近づき、
ふたりで揚げ臭豆腐を注文した。

うぅ、この臭い……。強烈だ。

「せーの!でね」

ぱくり。
サクサク、トロリ。
口の中に豆腐のとろみが広がる。

うっ、酸っぱいエグみ。

……………………。

……まぁ、食べられなくはない。
大好き、とまではいかないけれど。

「ふふっ」
リカとわたしは顔を見合せて笑った。
臭豆腐の一枚が、アルバムに刻まれる。

台湾を訪れる度、アルバムが開く。
リカとわたし。そして臭豆腐。

腐った豆腐の匂いは、
今ではあの頃の匂いだ。





◆シロクマ文芸部
◆夜店から



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