【連載小説1/5】 ✈️ジューヌとルルーの冒険
ねぇ、あの日見た夢。
君は覚えてるかい?
おんぼろな飛行機で高い空に、
ガタガタと鳴るボルトと鉄のボディ。
風が髪を揺らし、
君の身体が僕の背中にくっついて。
どこまでも、どこまでも。
空の果てまで、ふたりで。
◆
カン、カン、カン。
工房にボルトを打ち込む音が響いている。
昼下がりの光が、
石造りの壁をゆっくりと滑り落ちていた。
ジューヌはカップを持ち上げ、
レモン水をひとくち飲む。
懐中時計を取り出して、額の汗を拭った。
「……もうこんな時間か」
作業に没頭すると、
時間はすぐにどこかへ行ってしまう。
そのとき、腹の虫が鳴いた。
ジューヌは苦笑して、金槌を置いた。
◆
食堂の扉を開けた途端、弾けるような声がした。
「ジューヌ! また工房にこもってたの?」
金色の髪の少女が、腰に手を当てて立っている。
青い瞳は空の色。
エプロンには、小鳥の刺繍。
「もう少しで完成するんだ」
差し出された麦酒を受け取り、カウンターに腰を下ろす。
半分ほどを一気に飲んだ。
苦味が喉を通り過ぎる。
この一瞬のために生きている、と思うことがある。
◆
やがて、重たい靴音が食堂に流れ込んできた。
炭鉱夫たちだ。
土と鉄の匂いが、店の空気に混ざる。
「よぉ、ルルー!
お前、もうすぐ『ルージュ・ブラン』デビューだってな!」
下卑た笑い声。
ジューヌは顔を上げた。
ルルーの青い瞳とぶつかる。
揺れる水の底みたいな目だった。
「……嘘だろ」
「ううん。本当。
来月から、踊り子になるの」
それが何を意味するのか、ジューヌは知っていた。
表向きは踊り子。
夜はパトロンに仕えるルージュ。
握りしめた手が震えている。
ルルーも、ジューヌも。
◆
やがて飛行機は完成した。
朝靄の中、青く光る機体。
まだ頼りない翼。
それでも、空へ行ける形をしていた。
「出来た……」
「物資、持ってきたわ」
ルルーがバスケットを抱えて立っていた。
ハムとチーズを挟んだバゲット。
干したベーコン。
そして、ぶどう酒。
「少し、ここで食べましょう」
ふたりは並んで座り、黙って食べた。
ときどき顔を見合わせて、少し笑った。
ひとつのパンを分け合って、
ひとつのチーズを齧り合う。
胸の奥のざわめきも、
トキメキも、
静かに混ざり合っていく。
◆
「……行こうか」
ジューヌはゴーグルをつけ、ハーネスを締めた。
先に機体に乗り込む。
ルルーの手を取り、軽い身体を持ち上げる。
彼女は、そっとジューヌの背中に寄り添った。
ギィギィと音を立てながら、
小さな飛行機が走り出す。
朝靄をかき分けて。
光の方へ。
君と俺の、未来を乗せて。
どこまでも。どこまでも。
——あの日見た夢の、その先へ。
了

