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【連載小説1/5】 ✈️ジューヌとルルーの冒険

ねぇ、あの日見た夢。
君は覚えてるかい?

おんぼろな飛行機で高い空に、
ガタガタと鳴るボルトと鉄のボディ。

風が髪を揺らし、
君の身体が僕の背中にくっついて。

どこまでも、どこまでも。
空の果てまで、ふたりで。



カン、カン、カン。
工房にボルトを打ち込む音が響いている。

昼下がりの光が、
石造りの壁をゆっくりと滑り落ちていた。

ジューヌはカップを持ち上げ、
レモン水をひとくち飲む。
懐中時計を取り出して、額の汗を拭った。

「……もうこんな時間か」

作業に没頭すると、
時間はすぐにどこかへ行ってしまう。

そのとき、腹の虫が鳴いた。
ジューヌは苦笑して、金槌を置いた。



食堂の扉を開けた途端、弾けるような声がした。

「ジューヌ! また工房にこもってたの?」

金色の髪の少女が、腰に手を当てて立っている。
青い瞳は空の色。
エプロンには、小鳥の刺繍。

「もう少しで完成するんだ」

差し出された麦酒を受け取り、カウンターに腰を下ろす。
半分ほどを一気に飲んだ。

苦味が喉を通り過ぎる。
この一瞬のために生きている、と思うことがある。



やがて、重たい靴音が食堂に流れ込んできた。
炭鉱夫たちだ。
土と鉄の匂いが、店の空気に混ざる。

「よぉ、ルルー!
お前、もうすぐ『ルージュ・ブラン』デビューだってな!」

下卑た笑い声。

ジューヌは顔を上げた。
ルルーの青い瞳とぶつかる。
揺れる水の底みたいな目だった。

「……嘘だろ」

「ううん。本当。
来月から、踊り子になるの」

それが何を意味するのか、ジューヌは知っていた。

表向きは踊り子。
夜はパトロンに仕えるルージュ。

握りしめた手が震えている。
ルルーも、ジューヌも。



やがて飛行機は完成した。

朝靄の中、青く光る機体。
まだ頼りない翼。
それでも、空へ行ける形をしていた。

「出来た……」

「物資、持ってきたわ」

ルルーがバスケットを抱えて立っていた。

ハムとチーズを挟んだバゲット。
干したベーコン。
そして、ぶどう酒。

「少し、ここで食べましょう」

ふたりは並んで座り、黙って食べた。
ときどき顔を見合わせて、少し笑った。

ひとつのパンを分け合って、
ひとつのチーズを齧り合う。

胸の奥のざわめきも、
トキメキも、
静かに混ざり合っていく。



「……行こうか」

ジューヌはゴーグルをつけ、ハーネスを締めた。
先に機体に乗り込む。

ルルーの手を取り、軽い身体を持ち上げる。
彼女は、そっとジューヌの背中に寄り添った。

ギィギィと音を立てながら、
小さな飛行機が走り出す。

朝靄をかき分けて。
光の方へ。

君と俺の、未来を乗せて。
どこまでも。どこまでも。

——あの日見た夢の、その先へ。


短めのシリーズ物の予定です




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